㉒
突然だが、美麗が好美と徳島に行っていた時に遡る。
-㉒ 夫婦が故に-
数年前、美麗がまだ学生だった頃に龍太郎は義弘が自らの派閥に属する株主の重岡により釈放された事を聞いてから王麗と2人で密かに関連する事件について調べていた。
そんな中で「貝塚義弘、山小屋から突然消失」という例の記事が新聞や雑誌を賑わしていたので美麗が好美と徳島に向かっている間、自ら話題となった山小屋へと赴いていた。
何処からどう見ても「廃屋」としか言えないその山小屋には記事の通りコンビニで買ったと思われるお握り等の食べかすが放置されていた、どうやらここで義弘が生活をしていたのは間違いない様だ。
その数日前に龍太郎は王麗にあるお願いをしていた、上司と部下として調査をしているにも関わらず夫婦関係や主従関係は変わらない様だ。
龍太郎「母ちゃん、すまん(調査を頼む)。」
王麗「何さ、また醤油が無くなった(しょうもない調べもの)かい?もう懲り懲りだ(父ちゃんが言うなら構わない)よ。」
龍太郎「いや葱油(重要案件)だ・・・、いつもより多めで頼む(母ちゃんにしか頼めないんだ)よ。」
因みに何故か最初の一部分だけ暗号化されているこの相談は、松龍の調理場で行われていたがカウンターの客や夏季限定のかき氷要因でのバイトとして店を手伝っていた花梨は全くもって2人の会話の内容に気付いていない、何故なら2人にしか理解できない暗号を交えている為と調理場から聞こえて来る中華鍋で炒め物を作る音が聴覚を遮っていた為だ。
龍太郎はわざと火力を強めにして大袈裟に鍋を振り、激しく音が鳴るようにお玉を鍋にぶつけていた、勿論出来上がった料理に影響の出ない程度に。
それよりか、目の前で調理をしている2人がまさか正体を隠して義弘について調査をしている警視総監と警視だとは誰も思わない。
龍太郎「貝・・・、技・・・、の・・・、トラッ・・・、件って・・・、れるか・・・?」
炒飯でも作っているのだろうか、換気扇や鍋の音が激しすぎて全くもって内容が入って来ない、こりゃあ客や花梨が会話を聞き取れないのも納得できる。
王麗「父ちゃ・・・、分かっ・・・、ど・・・、全・・・、きこ・・・、な・・・。」
実は2人の間ではこれで会話が成立しているのだそうだ、長年連れ添った間柄が故に出来る事なのだろうか。そんな2人の会話を遮る様に花梨が調理場に入って来た、かなり焦っている模様だ。
花梨「女将さん、苺とブルーハワイの氷蜜が無くなったよ!!早く!!」
王麗「もう花梨ちゃんったら・・・、無くなる前に言えっていつも言っているじゃないか。父ちゃん、あんたが近くにいるんだから出してやんな!!」
この様に花梨が氷蜜の予備を求めて来る事が、周囲の人間に2人の会話の内容が知られていない何よりの証拠だ。
龍太郎「花梨ちゃん、構わないから少し多めに持って行きな。」
重要案件の話を機密にしておきたい龍太郎は氷蜜の入ったボトルをいつもより数本多めに手渡した、それを王麗はきっちりと見逃さなかった。
王麗「父ちゃん、女の子がそんなにいっぱい持って行ける訳が無いだろう。あんたが持って行かなきゃ無理だよ!!それとあんたが持って行くなら他の味も持って行きな!!」
龍太郎「母ちゃん・・・、相変わらず人使いが荒いぜ(また後で話す)・・・。」
上司兼店主兼旦那の目的を知った王麗はわざと龍太郎を一度外に出した、機密情報を出来るだけ外に漏らさない為と暫く花梨が調理場に戻って来なくていい様にする為だ。
暫くして、時計が14:00を指した頃だ。客足が落ち着いた事を確認した龍太郎は一度昼休みを取る事にした、花梨への賄いを作った後に暖簾を店の中に戻して「営業中」の札を「準備中」にひっくり返した。
龍太郎「花梨ちゃん、お疲れ様。テレビでも見てゆっくり休んでくれ、母ちゃん・・・、ちょっと・・・。」
花梨「叔父さん、座敷で宿題していい?」
龍太郎「偉い子じゃないか、勿論良いよ。喉乾いたらジュース、飲んで良いからな。」
龍太郎は王麗を連れて裏庭に向かった、やはり王麗には話がしっかりと通じている。
王麗「父ちゃん、貝塚技巧のトラック消失事件について詳しく調べてどうするんだい?」
龍太郎「ちょっとだけだが嫌な予感がするんだ、義弘が釈放されてからが怪しくてな。」
王麗「まさか工場長も・・・?」
龍太郎「ああ・・・、可能性は十分にある・・・。」
龍太郎が怪しんでいる事とは・・・。




