②
店主は守の事が心配だった。
-② 英雄は忘れた頃にやって来る-
遠くから守と島木の様子をコーヒーカップを拭いながら見守っていた店主は、守が号泣しているのを見て思わず2人の座る席に走って行った。
店主「島木!!お前、俺の大事な守君に何をしたんだよ!!」
島木「すいません、実は・・・。」
守「店長・・・、島木さんは何も悪くありません。先日亡くなった俺の恋人の遺品と手紙を持って来て下さっただけなんです、ずっと預かっていて下さったんですよ。」
守が指定したのは学生時代にアルバイトをしていた喫茶店だった、店主である我原 聡と島木は学生時代の先輩後輩の関係で今でもたまに呑みに行く位の仲であった。
ただ島木は我原が喫茶店を経営している事だけは知っていたのだが、今自分がいるお店だという事を知らなかった。実は初めて来る店で、島木と守のコーヒーを持って来たのもアルバイトの女の子だったので全く気付かなかった。
聡「それはすまなかった、悪い。」
島木「いや、良いんです。怪しまれても仕方がありませんよ、それ位の罰では足らない位の罪を私の働く工場は犯してしまったのですから。本当に申し訳ございません。」
守「謝らないで下さい、謝るなら今すぐ好美を返して下さい。」
謝罪なんか受けてもちっとも嬉しくなんかなれない。
守「あの・・・、唐突に聞くのですがどうして好美は亡くなったのですか?」
島木は深くため息を吐いて重い口をゆっくりと開いた。
島木「率直に申しますと、これはあくまで私自身の推測なのですが今の工場長が原因かと。」
聡「なるほど、私も聞こうじゃないか。」
聡はアルバイトにホールを、そしてもう1人にキッチンを任せると守の隣に座った。息子の様に可愛がっていた守に関わる事だ、自分も知っておきたい。
島木「実はと申しますと、先代の工場長の時、経営は毎年黒字で安定していたのですが今の工場長に変わってからずっと赤字で一時経営難に苦しめられたのです。しかし、今でも怠惰な工場長は全くもってその問題について真剣に考えることは無く全てを私に押し付けてきました。
そんな中、とんでもない事を行ったのです。
実は私の働く工場、「貝塚技巧」は全体的に吹き抜けになっていまして、2階の部分にほぼ壁が無く、1階から全て見える状態でしたので親会社の社長の計らいで防災用に柵とネット、そしてハーネスを取り付けていました。
しかし工場長は経費の足しにするからと全てを取り外し、売り払ってしまったのです。
ただ経費の足しには全くなっていなかったらしく、工場長が取引先の方々と呑みに行く時の交際費用として使われていた事が発覚しました。
私は考え直す様にと申し上げたのですが、「従業員が注意しておけば大丈夫だ」と耳を傾けてはくれませんでした。」
すると、カウンターで島木の言葉をこっそりと聞いていた3人の女性達が踵を返してこちらを向いて来た。それにしても「貝塚」か、どこかで聞いた事がある様な・・・。
女性①「話は聞かせて貰ったよ、副工場さん、そして守君。」
女性②「例の怠惰な工場長とやらを調べてみる価値はありそうだね。」
女性③「私達の出番だね、大事な友達の為に動かなきゃね。」
そう、声を掛けて来たのは美麗、桃、そして香奈子だったのだ。
守「「調べる」ってどうするつもりだよ、お前ら別に探偵って訳じゃないだろ。」
すると3人は踏ん反り返り、声を揃えて答えた。
3人「何とかなるっしょ!!」
守「なるかぁ、実際に人が死んでるし現場に行けば不法侵入とかで怪しまれるだろ。」
まさかあの台詞に対する突っ込みを自分がする事になるとは、確か香奈子の引っ越しの時は好美が突っ込んだ様な・・・。
ただその言葉を聞いて島木の後ろでオレンジジュースを飲んでいた女性が声を掛けた。
女性④「何とかならない事も無いかも知れないぜ、守。この俺に任せろや。」
守「お前・・・、まさか結愛か?!」
島木「貴女は・・・、か・・・、貝塚社長ではありませんか!!」
結愛「守、お前俺の顔も忘れたのかよ。落ち込んでるからって無視してんじゃねぇよ。」
すっかり社長姿が板についている結愛。