⑳
真犯人の粗悪さを知る龍太郎。
-⑳ 娘には内緒にしていたから-
取り調べで犯人の事情を聞いた龍太郎はただ事では無いと思い、可能な限り真犯人に近付く為に、そして目の前にいる実行犯を救う為に事件について追及する事にした。
龍太郎「宛名も何も書かれていなかったって?」
犯人「ああ・・・、郵便局が運んで来た形跡も無かったんだ、消印が無かったからな。それに大家が言うには他の部屋の住人への届け物と全く違う時間に入っていたみたいだから尚更だ。」
犯人の目には全くもって曇りが無かった、どうやら嘘をつかず本当の事を言っているみたいだ。
龍太郎は証言を疑っている訳では無かったが、念の為に調べてみる事にした。
龍太郎「すまんが、お前さんが受け取ったって言う封筒を借りても良いか?勿論乱暴には扱わないから。それに協力してくれたらお前さんの刑罰は軽くなると思うぜ。」
犯人「勿論だ、金で雇われていたとはいえ悪い事をしてしまったのは真実だ。可能な限り協力させてくれ。」
龍太郎「ふっ・・・、お前さんは心が綺麗な奴だな。可能な限り刑をより一層軽くしてもらう様に俺が掛け合ってやるよ、捜査協力のお礼だ。ただ1つだけ条件がある。」
犯人「条件?」
龍太郎「真帆ちゃんに謝る事だ、怪我はしてなかったとは言え怖い想いをさせてしまったのは事実だからな。」
犯人「分かった、必ずあんたの言うその真帆ちゃんに謝罪させて貰うよ。」
龍太郎「約束だぞ、裏切るなよ・・・。」
犯人「勿論だ。」
龍太郎「ほら、冷めちまうぞ。早く食ってしまえ。」
龍太郎は出前という形で拘留されている犯人の事を気遣って持って来た炒飯と餃子を指し示した、先程からろくに食べていないはずの犯人にしっかり食べる様に申し出ていたが少し遠慮気味だったので結構な量が残っていた。
犯人「すまんな、今までの人生でまともな食事を摂った覚えが無くてな。」
龍太郎「そうか、お前さんの今までの人生がどんな物だったかは知らんが今はしっかりと食ってくれ。」
犯人「助かるよ、今は無理だが釈放されたら店にも伺わせてくれ。」
龍太郎「勿論だ、ずっと待ってるからな。」
この日の取り調べはこれにて終了した、龍太郎は署で唯一正体を知る署長に犯人の使った蓮華や炒飯が盛られていた皿を提出すると鑑識に回す様に指示を出した。
第2取調室を出てからすぐの場所で、美恵と文香が龍太郎に声を掛けた。
美恵「龍さん、長かったね。」
文香「犯人と何かあったの?」
その様子を見て署長は1人焦っていた。
署長「倉下、吉馬、お前ら・・・。」
焦る署長に龍太郎が右手を差し出して止めた、決して今までの関係を崩したくは無かったのだろう。
龍太郎「あいつが何の犯人なのか知らんが、あまりにも美味そうに食うもんだから嬉しくなってよ。ついつい話し込んじゃって今に至ったわけなんだ、母ちゃんに怒られちまうな。」
そう言うと龍太郎は屋外に止めてあった原付に跨って店に帰って行った。
店に戻ると酒に酔って顔を赤らめた美麗が待っていた、かなりお怒りの様だ。
王麗「父ちゃん、あんた美麗に何をしたって言うんだい?帰って来てからずっと怒っているんだけど。」
龍太郎「いや何も、思いつかないんだけど。」
2人の会話を割く様に美麗が声を荒げて話しかけた。
美麗「パパ!!手を振ったのに私を無視するとか一体どういうつもり?!」
龍太郎「美麗・・・、何処での話だよ。全く思い出せないな・・・。」
美麗「嘘つかないでよ、キッチンカーが並んでいた公園で手を振ったじゃない!!それに最近はぎっくり腰でバイクに乗れないって言ってたのに原付に乗って出前に行ってたじゃない、どういう訳?!何処に行ってたって言うの?!」
そう、龍太郎は自分が警視総監だという事を美麗に言っていなかったのだ。
父親の行動で少し傷ついた美麗。