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事なきを得たのは良いのだが・・・。
-⑭ 暴走行為の裏には-
2重の恐怖から真帆はずっと泣き崩れていた、もうキッチンカーでビールどころではない。そこにこの地域にずっと住んでいるが故に2人と仲良くなっている美恵と文香が駆け寄って来た、一体どれほど足が速いのだろうか。それとも警察署の近くでずっと暴走行為が行われているのだろうか、もし後者だったのならこの辺りの警察はかなり舐められていると言えるのではないだろうか。
文香「真帆ちゃんじゃない、怪我はない?守君も大丈夫?」
歩道に倒れ込む2人に手を差し伸べてゆっくりとだが起こそうとする文香、ただ2人は真帆をかばった守が少し擦りむいた以外はほぼ無事だったので自力で起き上がった。
美恵「守君、あんたやるじゃない。もしかして真帆ちゃんは新しい彼女だったりして?」
好美を亡くしたというがあるが故に少しいやらし気な口調で質問する美恵、守は傍らの刑事の質問を払いのける様に答えた。
守「ち・・・、ちげぇよ・・・。ただの幼馴染だっての。」
真帆「えっ・・・、真帆はまだ「ただの・・・、幼馴染」なの?」
未だに1人の女として見られていない事を知った真帆はまた再び目が潤んだ、正直今日何回目だろうか。本当、守は罪作りな男だ。
守「そうだ、そう言えば暴走してたの「わ」ナンバーのレンタカーだったよ。」
美恵「えっ、守君ナンバー見えたの?」
走り屋である真希子から車での被害に遭った時は真っ先に相手のナンバーを確認する様にと学生時代から教え込まれていた事が役に立った様だ、守は必死に思い出した。
守「確か5ナンバー車で「25-12」だった様な・・・。」
美恵「「25-12」?!文香、あの写真!!・・・って何であんたも一緒に泣いてんのよ。」
文香「ごめん・・・、あれだよね・・・、ちょっと待って。」
美恵の食らいつき様が異様な位だったが故にたじろいでいた守をよそに、目の前の刑事は何故か真帆の横で泣く相棒の方を振り向いて声を掛けた。
長年の相棒である先輩に頼まれた文香は震えながら胸ポケットから1枚の書類と写真を取り出して確認した、2人の様子を見るにどうやら確証が持てたらしい。
美恵「やっぱりね・・・、ビンゴだよ。」
文香「美恵さん、やったね・・・。」
美恵「守君、あんたお手柄だよ。後でちょっとだけお話聞かせてね。後文香、涙拭きな。」
守「ああ・・・。」
真帆が無事で何よりと思う守の傍らで未だ泣き続ける真帆、先程衣料店で発した告白とも言える言葉はかなり本気だった様だ。真帆の言葉から本気度が文香にも伝わったらしい。
美恵「真帆ちゃんずっと泣いてるけど大丈夫な訳?まさか・・・、あんたが泣かせたの?」
守は美恵の質問に少し圧力を感じた、真帆の中で本当の答えは「イエス」の様だが守をかばってこう答えた。
真帆「守兄ちゃんは悪くないもん、悪いのはあの車だもん!!」
文香「そうよね、あれは誰だって怖いよね。何言ってんのよ、美恵さん。」
真帆「こうなりゃヤケ、守兄ちゃん屋台行くよ!!」
美恵による事情聴取を終えた守の腕を強く引くと、真帆は息を荒げながらキッチンカーや屋台が集まる公園へと向かって行った。
ほぼ同刻、やっと暴走車の犯人が捕まった。ずっと走り続けていた車は桃の叔母である芳江が副業として営むレンタカー屋から被害届が出ていた盗難車らしい、男性巡査に腕を掴まれ動きを封じられた犯人の下に女性刑事2人が到着した。
美恵「大人しくしなさい、人に迷惑掛けてただじゃおかないよ。」
文香「そうよ、あんた女の子に怪我をさせようとしたんだからね。速攻でブタ箱にぶちこんでやる、覚悟なさい!!」
犯人「待てよ、俺は金で雇われてやっただけなんだよ!!」
美恵「待てと言われて待つ馬鹿が何処にいんの・・・、って・・・、え?金で雇われてやっただって?誰に?」
犯人が耳打ちで雇い主の名前を伝えると美恵は大きく目を開けて驚いた、何故今頃になって「あの名前」が出て来たのだろうか・・・。
雇い主とは、そして守の感じた「既視感」とは。