⑪
切願していた守との再会を心から喜ぶ真帆。
-⑪ 贖罪として-
真帆は守をギュッと抱きしめ泣き続けた、数年もの間大好きな人に会えなかったから当然の事だ。
真帆「昔の事なんてどうでもいい、約束なんてどうでもいい、だって真帆の目の前に会いたかった守兄ちゃんがいるんだもん。大好きだよ、守兄ちゃん。」
大抵の男なら思わず嬉しくなる一言だが、未だに好美への想いが心の中に残る守は返事に困っていた。守にとって真帆はただの幼馴染で、決して思いを寄せる恋人ではない。
守「ごめん・・・。」
守は真帆を引き離した、その行動により真帆は心に大きな傷を負った。
真帆「どうして・・・?」
守「俺には亡くなった好美っていう恋人がいる、俺は好美が最初で最後の恋人だって思ってた。今の俺は新たな恋に踏み出せそうもない、ごめん・・・。」
失意の念に駆られた守はソファに座り込んだ、真帆の気持ちを裏切ってしまった罪は決して軽くはない。すれ違いとは言え、守はあの時ちゃんと西野町高校に通う事を伝える事が出来なかった事を反省した。
真帆「さっきも言ったじゃん、昔の事なんてどうでもいい!!ずっと・・・、ずっと・・・、会えると信じて、気付いて貰えると信じてこの髪型にしていたんだよ。」
確かにそうだ、女の子が幼少の頃からずっと同じ髪型にしているなんてよっぽどの事だ。
真帆「今目の前に大好きな守兄ちゃんがいる、それだけでいい!!」
守「真帆ちゃん、俺には何が出来る?せめて、今までの償いをさせてくれ。」
真帆「なら・・・、なら・・・、守兄ちゃんを1日独り占めしたい!!」
守は少し動揺した、空の向こうにいる好美に申し訳なく思ったからだ。しかし真帆を裏切り何年も何年も待たせてしまったのは真実だ、真帆の願いを叶えなければならない理由としては十分といったところか。
守は圭の方に一瞬振り向いた、圭は少し悔しそうだったが渋々首を縦に振った。
圭「仕方ないね、真帆に譲るか。」
ただ守は決して圭の物では無い、というよりは誰のものでも無い。強いて言うなら好美の物なのだろうか。
真帆「真帆嬉しい!!今までの事、全部忘れても良い位嬉しい!!」
守「でも・・・、俺には好美が・・・。」
圭「もう過去の恋よ、いつまで引きずってるつもり?」
守「俺にとって好美は何よりも大切な存在なんだ、好美のいないこの世界に生きる価値なんてあるのかよ!!」
圭は涙を流しながら守に強くビンタした、そろそろ目を覚ますべきかと思ったからか。
圭「守・・・、いい加減にして!!そうやって、ずっとウジウジする事を天国の好美さんが望むとでも思う訳?!」
圭の言葉が守の心に突き刺さったか、先日読んだ好美からの手紙を思い出した。
好美(手紙)「実は守が他の女の人とキスしていたのを見ちゃった時、本当に悔しかったけどよく考えれば私達の関係はそれ位で崩れない物だったもんね。」
好美への想いを大切にしつつも、手紙という形で好美が背中を押してくれているならと思った守は真帆のお願いを聞き入れる事にした。
守「分かったよ、明日も休みだから真帆ちゃんと過ごす事にするよ。」
守の言葉に嬉しくなった真帆はもう一度守を抱きしめて涙した。
真帆「嬉しい、この瞬間をどれだけ待ちわびたか・・・。でもそんなのどうでも良い!!」
次の日、待ち合わせ場所である駅前のロータリーに守は早めに到着した。少し時間があるのでぶらつこうかと思ったのだが、一歩踏み出そうとした時に後ろから真帆の声がした。
真帆「守兄ちゃーん、何処行こうとしてんの?」
真帆にとって特別な時間になればいいと願いたい。