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卒業式を終えて真帆はまだ守と話していたかったが・・・。
-⑩ 真実を知る-
卒業式の後、友人に呼び出された真帆は守の制服から第2ボタンを引きちぎり大事に持ちながら友人の元へと向かった。本当は守が行く予定の高校を聞いた後、告白するつもりだったのだがどうやら次の機会になりそうだった。
守も地元の公立ではなく私立の「西野町高校」に通う事をこの日に伝えるつもりだった、なので校門前か先日の駄菓子屋でずっと待つつもりだった
そんな中、校庭中に爆音が響き渡った。そこにいた全員が音の方向を見ると紫色のスポーツカーが土煙を上げて走っていた。
皆と同様に爆音に驚いた真帆は汗をかきながら音の方向を見た。
真帆(当時)「何あれ・・・。」
友人(真帆)「あれ、「紫武者」じゃない。ほら、「赤鬼」と一緒でここら辺で有名な走り屋。」
真帆(当時)「あれがそうなの?初めて見た。」
そう、真帆は「紫武者」を見た事が無かったのだ。幼少の頃、真希子が愛車にカバーを被せていたのがその理由だった。
皆が紫のスポーツカーに憧れの視線を向ける中でただ1人、守は嫌な予感がしていた。
守(当時)「ま・・・、まさかな・・・。」
そのまさかだった、母の真希子が愛車で卒業式に来ていたのだ、しかもド派手な着物で。真希子の車は校門前に立つ守の目の前に止まった。
真希子(当時)「守、早く乗って。そこら辺の奴らがじろじろ見るもんだから急いで帰るよ。」
守(当時)「母ちゃん・・・。これで来るからだろ、流石に目立つって思わなかったのか?」
真希子(当時)「仕方ないじゃないか、いつものバンが修理中なんだから。ほら早く乗って、またじろじろ見られているから。」
守(当時)「真帆ちゃんを待っているんだよ、まだ県立じゃなくて西野町高校に行く事を言ってなかったからさ。」
真希子(当時)「そんなの後で言えば良いだろ、それより買い物に行くから手伝っておくれ。」
守(当時)「おいおい・・・、まさかこれで行くのか?流石に1回帰ろうぜ、それに母ちゃん着物だろ?!」
真希子(当時)「今はこれ以外足が無いんだから、ほら行くよ。」
守(当時)「ったく・・・。」
守は仕方なく車に乗り込んだ、これがきっかけで「紫武者」が守の母親だとバレてしまった様だ。
守が車に乗ってから数分後、息を切らしながら真帆が戻って来た。しかし辺りを見廻しても守の姿は無い、その真帆に守の友人が声を掛けた。
友人(守)「もしかして守を探してるのか?」
真帆(当時)「はい・・・、守に・・・、いや守さんは何処にいますか?」
友人(守)「あいつなら「紫武者」に乗って帰って行ったぜ。」
真帆(当時)「何で守さんが「紫武者」に?」
友人(守)「俺も今知ったんだけどさ、あいつの母ちゃんが「紫武者」だったんだよ。」
真帆(当時)「え?!真希子おばちゃんが?!」
衝撃の事実を知った真帆は一先ず落ち着きたいので例の駄菓子屋に行き、ラムネを飲んだ。きっと高校で会えるからそれまでショートボブを保っていれば良いかなと思いながら。
数年後、真帆は必死に勉強して守と約束した地元の高校に入学した。
真帆(当時)「やっとだ・・・、やっと守兄ちゃんに会える。」
そう信じながら数日に渡って校内を探し回った、しかし守の姿は無い。そこで、ある夜に親戚である圭に連絡を入れた。
真帆(当時)「もしもしお圭?今守兄ちゃんって何処にいるか分かる?」
圭(当時・電話)「守なら今私と貝塚学園にいるけど。」
真帆(当時)「え・・・?何で・・・?約束・・・、したのに・・・。」
圭との電話で真実を知った真帆はその場で泣き崩れた、ずっと待ってたのに、我慢したのに、そして頑張ったのに会えないなんて酷すぎる真実だった。
真帆(当時)「真帆、もう我慢出来ない・・・。守兄ちゃんの声が聴きたい・・・。」
しかし、その時には圭との電話は切れていた。それから真帆は一晩中号泣した、守への叶わなかった想いが一気にどっと押し寄せたのだ。そして今に至る、真帆はより強く守を抱きしめた。もう離さないと言わんばかりに、しかし守は心の中にまだ好美が強く残っていたので真帆の想いを受け止めきれずにいた。
守にとって好美は今でも大きな存在だ。