①
好美の葬儀中、守はずっと号泣していた。
6.「あの日の僕ら2~涙がくれたもの~」
佐行 院
-①序章~預けしもの~ -
決して自らの意志では無い圭とのキスを目撃されてからずっと話してなかったにも関わらず、ずっと大好きだった好美を失った守は失意のどん底にいた。棺桶の横で桃や美麗とずっと号泣していた時、葬儀場の出入口で好美の両親に必死に頭を下げる男性がいた。
男性「この度は大変申し訳ございませんでした、全て私共の監督不行き届きが故でございます。せめて故人様に手を合わせさせて頂いても宜しいでしょうか。」
好美の父である操と母・瑠璃はその男性の入場を拒否し続けていた、会話から察するに男性は好美が働いていた工場の工場長らしい。
操「帰って下さい、たった今形式通りの言葉ばかりを並べていた貴方が手を合わせても決して好美は喜びませんよ。私達夫婦も同様に貴方の謝罪なんかいらない、今すぐ大切な娘を返して下さい!!私達の宝を返して下さい!!」
工場長「大変申し訳ございません、大変申し訳ございません!!」
瑠璃「聞けば貴方、工場で毎晩夜勤をされている方々と決して顔を合わさずに会話と言えば電話だけって言うじゃないですか。」
操「監督不行き届きもいいところだ、今すぐ帰ってくれ!!私達はあんたの顔なんてもう見たくない!!見たいのはあのあどけなかった娘の太陽の様に明るかった笑顔だけだ!!」
工場長「申し訳ございません・・・。」
右手に持つハンカチを濡らしながら何も出来ずに無力なままの工場長は必死に謝罪すると、頭を下げたまま振り返り帰って行った。
葬儀が終わり、火葬場での事。火葬される直前の好美の顔を見た守は再び号泣した、何とも綺麗な顔なのだ。今でも「死んだふりでした」と言って起き上がりそうな位に元気そうに見えたのは守だけでは無かった、そこにいた桃や美麗にもそう見えていた。
桃「あんたね、ドジで馬鹿だけど突然いなくなるのはただのズルだよ。」
美麗「そうだよ、私もう何も失いたくないって言ったじゃん。どうして秀斗に続いて好美も私から離れていくの、お願いだから目を開けてよ!!」
守「くそぉ・・・、くそぉ・・・。」
操「皆、ありがとうな。こっちの街で好美は幸せに暮らしていたんだな、あいつは幸せ者だよ。」
暫くして、棺桶の蓋が閉まり好美の火葬が始まった。
桃「おじさん、徳島にあるお墓に好美の骨を入れるんでしょ。必ず手を合わせに行くからね。守君も美麗も行くでしょ。」
守「ああ・・・。」
美麗「当たり前じゃん。」
数時間後、火葬が終了した。そして納骨の儀、綺麗だった好美は骨だけになってしまっていた。もう本当に、会えないのだ。
火葬場から家に戻った守は母・真希子に清めの塩をかけて貰って家に入った。喪服のまま缶ビール片手にベッドにダイブすると再び涙を流した、枕が一気に濡れた。
真っ暗な部屋で号泣していると携帯が鳴った、登録こそはしていなかったが見覚えのある番号だ。出てみると聞き覚えのある声、副工場長の島木だ。
島木(電話)「度々のお電話失礼致します、実はと申しますと好美さんから預かっている物がございまして。自分に何かがあった時に守さんに渡す様に頼まれていたのですが、いかが致しましょうか。」
数分後、守が指定した喫茶店に片手に大きな紙袋を持った島木らしき人物がやって来た。紙袋を受け取った守は中身をすぐに確認した、見覚えのある衣服と手紙だ。そう初めて守が好美にプレゼントした衣服、一先ず守は手紙を読んでみる事にした。
守へ、
この手紙を読んでいるって事は私またドジしちゃったって事だね、本当にごめんね。実は守が他の女の人とキスしていたのを見ちゃった時、本当に悔しかったけどよく考えれば私達の関係はそれ位で崩れない物だったもんね。だからずっと気まずかったけど何度も声をかけようとしたんだよ、あれからちゃんとお話し出来なくてごめんね。
その服、すっかりサイズが合わなくなっちゃったけど大事にしてたんだ。副工場長から受け取ったら私と思って大切に持っておいてくれないかな。
じゃあ、私先に行くね。さよならなんて言わないよ、守の事ずっと待ってるから。
好美より
守は喫茶店のソファで再び号泣した。
声にならない声が溢れそうになった。