歪な僕だけが止まって
二十五になった。
大学ではレポートや実験、卒論に追われ一度も帰省をすることはできずそのまま卒業した大学が置かれている都市で就職を果たし、コミュニケーション能力のかけらもない癖して仕事だけを一丁前に続けている。土日の後に有給を二日入れたのでゆったりできるようにはしておいた。
あまりこの街にはいたくない。今住んでいる場所と比べ、獣人の数が数倍も多い。中学まではクラスメートの8割が獣人だった。(中学はあまり行ってなかったからよく知らない。)おかげで体育の評価は低いし、更衣室は獣臭が蔓延して鼻が曲がりそうだった。
彼らの目は僕を獲物や食糧のように見ていた気がするし、何より僕より鋭い牙が、僕より太い手足が、大きな背中が、羨ましく悍ましい。
そう、奇しくも僕は獣人恐怖症なのである。
「お帰りなさい。」
「ああ、母さん。久しぶり。」
実家の扉を開けると白黒のぶち模様で毛が生えた女性が出迎えてくれる。彼女は一定のペースで尾をムチのように振るい、パンパンになったエプロンに隠れた六つの乳を揺らしている。
「おお、ケイゴ。思ったより早く着いたんだな。」
眼鏡をかけ、新聞を捲る大柄の虎がこちらに振り向いてそう呟いた。
「まあ、一日かけてくるような距離じゃないからね。これ、お土産のカステラ。二人で食べてよ。」
母にスーツケースから出したカステラを渡し、手を洗いにいく。
「あらあら、美味しそうね。でも、仕送りはしなくていいのよ。こっちは貯金がたんまりあるんだから。」
「こっちはしたいことをしてるだけだからいいんだよ。仕事がうまくいってる証さ。」
母も手を洗ってから、台所に戻り調理を進める。
「今日はトーフステーキよ。ちょっと待っててね。」
僕の恐怖症に例外はない。孤児である僕を引き取ってくれた両親には感謝しているが、今は触れることしかできない。話すことすら困難だった小学生の頃からすればまだマシの方だ。たまに父の眼光に臆することはあるが……。
「会社での調子はどうだ、ちゃんとやってるか?」
「まあ、そこそこ仕事は任されるようになったよ。新人の教育も任されたしね。」
そう返すと、父はフンと鼻息を吹かして俺の返答に応える。僕もソファに腰を落として息をはく。
「バスで通ったけど、あそこの銭湯潰れたんだな。俺がいないうちに随分変わった気がするよ。」
「お前は変わらないな。」
お前は立ち止まって何をしてるんだ、と言われている気がする。
「あ、ああ。ハハ、そうだ……そうだなぁ。まだまだだよ。」
自然に、声が涙ぐんでいる気がして手が震えて止まらない。
たまにこうやって僕の恐怖症に気づく人間がいる。その核心に迫るたびに対象に嫌悪と憎悪と恐怖が募るのだ。
あと、大人になって情けないなっていうのもあると思う。
「お夕飯できたわよ。……早めに着いたって連絡もらってよかったわ。もうちょっと遅かったら作れなかったもの。」
そう、と数ミリだけ蛇口を捻って出てきた細い水のようにか弱い返事を返す。久しぶりのお袋の手料理は自分で作った時より温かく、昔を思い出して嫌な感じもした。
ケイゴの歯車が狂い始めたのは成人のちょうど二分の一、つまり小学四年生の時だ。その出来事が起こったきっかけはちょっとしたことだった。クラスのマドンナである■■■さんの靴が隠されたのである。彼女はもちろん獣人(一般的に狐と呼ばれる姿をしていた……気がする。)だったし、ただの人間は僕以外の全員が女子でもちろん彼女の味方であの空間で得意だったのはケイゴだけであった。そこでデリカシーのかけらもないお調子者の男子が一言、しゃべりやがったのである。
「それやったのって〜、やっぱりケイゴじゃないの。だって人間なんでしょ?お父さんお母さんと血が繋がっていないっぽいしぃ。」
今考えてみれば支離滅裂である。いや、僕の■■■さんへの好意がギリギリ気づいているかいないかぐらいのレベルでバレていたのだろうか?
彼の鶴の一声(犯人探しを終わらせたかった者にとって)でみんなが庭に現れた百足を見るような目でこちらを睨んできた。
たとえ支離滅裂であったとしても彼ら彼女らにとってはこの長期決戦になるはずだった時間をチャラにできる徳政令である。無駄な時間を帳消しにできる案に飛びつかないわけがない。
謝れコールは今でも夢に出る。当時はそれで嘔吐したが毎晩の夢に出てくるから今は否応でもそうでもなくなってしまった。慣れというやつは恐ろしい。
リバースした後、僕はそのまま帰宅し引きこもりになった。その後小学、中学と学校には通わず、高校は通信制に舵を切った。両親に高校への進路を相談してきたときの父の軽蔑のような眼差しで全て諦めた。
あの時の感情を忘れるために勉強を必死に続け、日本で指折りの有名大学に無事現役合格、留年せずに卒業することができた。
結局、社会人になってもあの時の焦りと恐怖は消えることなくて周りからワーカーホリックと言われるほどになってしまった。趣味があるわけではない(仕事以外では)僕は金はあるがやることがないつまらない男となってしまっている。
夕飯の後は移動に夜疲れが溜まっているだろうというお袋の粋な計らいで湯船に一番に浸かり上がって髪を乾かした後はすぐに元々あった自室で寝ることになった。
目を覚ますといつもと違う天井、カーテン、間取りに戸惑いつつ、帰省したことを思い出すと一階に降りてシャワーを浴びる。
昨日の晩はろくに体を洗わずに寝ていたため、脱衣所で全裸になった瞬間に納豆が体にまとわりついたかような不快感が襲ってきた。服を端に畳んで置くとドラム式の洗濯機の上に吊り下げられた縦三段に連なったブラジャーが目に映る。
自分の親は俺とは異なるマジョリティー側であることを痛感させられ、フッと軽いため息を吐いて風呂場の戸を開く。
シャンプーやリンス、ボディーソープの種類、位置はあのままでなんか感動した。口の多い父もポジティブで言葉の柔らかい母も相変わらずって感じだ。
軽くベタつく体をお湯で流してから、適当に泡を立てて皮膚に滑らす。すぐに石鹸を流し、頭もリンスインシャンプーで洗いリフレッシュする。
風呂場から上がって頭をタオルで拭きながらリビングの方に向かうと母が朝食の準備を始めていた。
「あら、ケイゴ。おはよう。」
「ああ、母さん。おはよう、みんなパンで大丈夫?」
「そうね、ツトムさんも朝食はパン派になったの。働かなくなった影響かもしれないわね。」
「そう、母さん何だか嬉しそうだね。」
三人で食卓を囲むなんて久しぶりじゃない?と鼻歌混じりにそこが深めの小さな皿にオレンジ、バナナを入れてその上からヨーグルトをかける。僕はオーブントースターにひとまず厚く切った二枚のパンをいれタイマーを三分のところまで捻る。
毎度、母の愛には疲れさせられる。種の違い、性格の違いによって悩まされるたびに彼女は優しく包み込んでくれる。母の愛には毎度癒されるが無償提供の愛は己が下に見られているように感じ疑心暗鬼になってしまう。本物なのか、嫌々なのではないか、俺に大金をかけて裏ではため息をついているのではないか。
そんなわけがないのに。
トースターの様子を見ていると階段からのそりのそりとこちらに近づいてくる音がする。目をこする大きな虎の姿は猫らしく思えたが、その巨体のせいで冗談でも言えない。
「おはよう。」
「……あ、ああ。おはよう。」
父は一瞬足を止めるが、すぐに歩みを進めてそのまま食卓に座る。
「今日はなんか予定でもあるのか?」
「いや?別に。……はい、トースト。」
白い皿に小麦色に焼けた食パンを乗せて父の前に置く。
「バターは自分で乗せてね。父さんがパン食べてる姿なんて初めて見たからどのぐらいがいいとかわかんない。」
「そうか。」
ケイゴは父に次いで母の席にもパンを置いて、自分のパンを焼くために袋を漁り、先ほど両親のパンを焼いたトースターにパンを一枚だけ入れる。
「他に何か食べなくていいの?」
「朝はあんましお腹空いてない。」
なんといっても昨日のステーキはボリューミーでまだ胃のなかに三から四割ぐらい食物が残っている気がするし、どうせまた昼にいつもより多い量を食わされるはずだ。
「いただきます。」
コップに牛乳を入れて口を潤わせてからパンを齧る。
「最近はあれだ、あの……家と会社を繋げて仕事をするやつが主流になってるのか?」
「ああ、リモートワークね。やってないよ、俺は。そういうの。」
何故、と今度は母の方から疑問が飛んでくる。
「なんでって、自宅で仕事なんてやりたくないし。もしやったら全然外に出ない性分だから、それは今の僕が許さないからさ。」
どうせ新しいルールに甘えてしまうんだから。
牛乳を再び注いで口に含み会話を途切れさせる。飲み終える頃には父も母もほとんど食べ切っていた。親よりも食べる量の少ないカイゴも後はフルーツの入ったヨーグルトだけだった。
結局、こっちに戻ってきてもやることはない。あの一件から彼らのことなんてわからなくなった。何を考えているのかもわからないし分かりたくもない。正直、言葉の曖昧さを測れない僕はそこまで会社内で重要な仕事を担っているわけではない。窓際とまではいかないことが僕の面子をなんとか保っているのだ。
「ちょっと散歩にでも行ってくるよ。」
「わかったわ、お昼はどうする?お外で食べてくるならお金渡すけど。」
「そうするよ。まあ、お金ぐらいは自分で出すから……。」
洗濯物を干す手を止めた母は自分のバッグから財布を取り出し、紙幣を一枚「これで食べて」と言って渡してくる。それには1000と刻まれており見たくもない羊の顔が描かれていてこの男を見る度に嫌になるのだ。
「いいって、困ってないし。」
「ケイゴ、折れてやれ。母さんはこっちが折れるまで続けるぞ。」
ああ、と有耶無耶に返答を濁らせて受け取る。とりあえず、バスから見えた公園に向かうことにした。休日だからか人通りが多いのだが、僕のようなのはもう一人も見られなくて、何だか心臓が震える感じがする。
「ああ、遊具も変わったのか。」
自身が正常だったころの記憶だと所々塗装が剥げていたり錆があったりしていたし目の前の遊具と比べて規模や種類も少なかった気がする。
ベンチに腰をかけると一人の少年がこちらに向かってくる。
「おじさんは一人で何やってるの?」
「おじ……。暇だから散歩しててね、今は休憩中というわけさ。ほら、戻ってあいつらと一緒に遊んできな。」
僕は目の前の狐の少年に解散を催促するが彼は僕の期待を足蹴にして、「いやだ。」という三文字を口にする。
「どうしてだよ。お前みたいなやつは僕と違って大人数の中のリーダーとして燥ぐのがお似合いだろ。」
「ちょっと前までは楽しく遊んでたんだけど、ゴウのやつが俺の母ちゃんのことをバイタ?とか言ってきたんだよ。意味はわからないけどゴウが馬鹿にしてるっていうのはわかったから……。」
「じゃあどうしてここにいるんだよ、家にいたらいいだろうが。」
「それだと母ちゃんを心配させるから……。」
なんだよ、それ。
いやだ、いやだ。こういうやつを見ていると自分が惨めになる。こういう本気で家族を宝だとかかけがえのないものだとか酔っている奴が気持ち悪くて仕方がない。人生の働きアリのうち二割である僕からすれば残りのちゃんと生きている八割が働ける奴らは憧れ半分、憎しみ半分である。
「じゃあ、暇つぶしのために俺に話しかけたってわけか。」
目の前の少年は口を結んだままコクリと頷く。
「もうちょっとしたら母ちゃんが弟の散歩のついでにここに来るから。」
「面倒くさいが……わかった、それまでだからな。」
ケイゴはそう言って宥めると立ち上がり、裏の自動販売機に向かう。
「おい、お前。何飲む?決めていいぞ。」
「いいの?」
「座ってるだけじゃ暇だろう?ここは大人がおごっちゃる。一本だけだからな。」
ポケットから黒い長財布を取り出し、小銭を空で洗うとちょうど百円玉が三枚あったのでそれを握り左上から右下までざっとラインナップに目を通す。
「俺、コーラがいい、コーラ!」
缶のコーラと缶のspark(柑橘の果汁が入った緑色のパッケージをした炭酸飲料)のボタンを押す。下の方からごろごろと二つの缶が落ちてくる。
「sparkって美味しいの?」
「そうだね、コーラに比べたらそこまで甘くはないけどスカッとするよ。一口いるか?」
一度コーラを預かり、缶の口を開けてガキに渡すとぐびっと大きめの一口を決める。
「結構大きめの一口だな……どうだ、うまいか?」
「うん、これ好き!今度あったらこれ飲もうかな?」
二人は飲み物をばくりっこして元に戻す。ケイゴは乾いた喉を即座に潤し、残りはもう三分の一にまでなってしまった。ガキの方も結構飲んでしまったようで今はチマチマと口を付けては離し付けては離しを繰り返している。
「それで、お前はいつも何やってるの?好きなこととか、趣味みたいなのないの?」
「ええっと、いつも学校の後は弟のお世話だったり家事だったりしてるから。土日は平日だけこうやってゆっくりできてるんだ。」
母のことからも察するに家庭は切羽詰まっているのだろう。父は働いていないのか、それともなくなったのか、どちらかは解らないが言及するべきではないだろう。
「おじさんは小学生の時何やってた?」
「忘れたよ、そんな昔のこと。」
やばい、話題に地雷が多すぎるし避けても地雷に誘導される。こっちもこっちで地雷だ。あぁ、話しかけなければ良かったかもしれない。
「おぉい、アオト。そろそろいくよー。」
「じゃあおじちゃん、母ちゃんきたから。」
「ああ。……缶は置いてっていいよ。僕が買ったものだ、処分する責任がある。じゃあね。」
アオトっていうのか、こっちも名乗っておくべきだったか。
ケイゴは空き缶を受け取り、アオトとは逆方向に歩き出す。
「ああ!アンタ、ケイゴくん?!」
先ほどアオトのことを呼んだ声が俺の名前を呼ぶ。
「はい?」
「やっぱり、久しぶり。リンショウぶりだね。覚えてない?私、コダマ。同じクラスだったでしょ。」
彼女の名前を聞いた途端、封をしていたはずの記憶が蘇る。
そうだ、コダマさん。林重小学校四年生の時のクラスメート。特に彼女は実家が金持ちでクラス内でお嬢様と称されていた。黄金色の稲穂を束ねたような尾を持つ彼女は今でもなおゴージャスな雰囲気を保っている。
「ああ、思い出した。僕はコダマさんに用ないよ……じゃあ失礼させてもらう。」
「ちょっと、私の方は用があるんだけど……。積もる話もあるし。」
あまりこいつと一緒にいたくないが時間も余裕もあるし、まあいいか。ここで断ってもこちらが折れるまで粘ってきそうだ。
「じゃあ、とりあえずここから移動しよう。アオト君もここで大人が話すだけじゃつまらないだろう。コダマさん、どこか行こう。昼食を食べながらその積もる話とやらを聞こうじゃないか。」
ああ、場所はそっちで決めてくれていいよ。なんせ久しぶりだからね。
そうして入ったのは大手ファミレスチェーン店だった。ケイゴが高校の頃は古ぼけた個人経営の喫茶店だったはずだが、やはり撤退したのか。
「ええっと、あれからどうしてるの?あの一件からきっぱり見なくなって……」
「あの一件から全人類の大半と関わるのが馬鹿馬鹿しくなって中学も登校せずに高校も通信制だよ。まあ、大学はどうやっても逃げられないから渋々通ったけどね。」
目の前のコダマさんは一向に僕と目を合わせてくれる気がしない。今更、罪悪感でも引きずっているんだろうか。
「ねえ、おじさん。母ちゃんと知り合い?どうゆー関係なの?」
「ただの同級生だよ。あまりにも久しぶりだから声かけたんだよ、多分。」
「えぇ……。でもおじさんすぐにでも帰りたいって顔してるよ。」
「いろいろあったんだ、いろいろ。」
引き留めた理由はこっちも知りたい。どうして僕がケイゴだとわかったのか、もう忘れてしまっても仕方がないことではないか。
「ずっと、謝りたかったんです。わかってたの、あなたが犯人じゃないってことぐらいは。でも私怖くって、もしここでケイゴ君じゃないって言ったらこっちが責められるかもって……。だから、だから本当にごめんなさい……。」
「謝らなくていい。もう時効だ、僕が勝手に引きずってるだけだよ。謝っても僕の嫌悪は何も変わらないから。温かいうちに食べろよ、せっかくの外食が冷
めてしまっちゃもったいない。」
それにコダマさんが悪いわけじゃない。
「後、泣くなよ。僕のせいでアオト君の弟が暗い性格になったらたまったもんじゃないからな。」
コダマとケイゴの顔色を伺いながらオムライスを口にしていたアオトの手が二倍ぐらい速く動く。コダマもアオトに呼応してホワイトソースの絡んだパスタを上品に口まで持っていっており、育ちの良さが際立つ。
ケイゴもカツサンドに手をつける。一切れ食べ、手を拭いて水を飲み、もう一切れを運ぶ頃には目の前の平らな皿は空っぽになってケチャップだけがこびりついている。
「じゃあ、連絡先交換しましょ。アオトも気に入ったみたいだし。」
「そりゃ、餌付けはしたからな。……まあいいよ。はいこれコードな。」
ケイゴはスマートフォンの画面を上にして机の上に滑らせる。コダマはそれを読み取り、トークアプリにフレンド追加をするとケイゴの方にもコダマがフレンドとして追加された。
「じゃあ、今日はこれくらいにするか。」
「ケイゴ君はいつ自宅に戻るの?」
「まあ、明日かな。」
最終日ぐらいは移動などの疲れがあるだろうから自宅でダラダラしたいのである。
「母ちゃんと仲直りできたの?」
「そもそも仲違いしてないよ。あっちが勝手に落ち込んで謝ってきただけだし。ユウト君が気にすることじゃないよ。」
「母ちゃんが悪いことしたの?」
「いや、悪いことをしたのは僕とコダマさん以外さ。」
僕はコダマさんがぼうっとスマホの画面を眺めているうちに伝票を手にして立ち上がる。文句を言われる前に会計を済ませて二人のいる席に戻るとコダマさんが財布を小さめのバッグから取り出していた。
「会計、私とアオトの分支払うから。」
「大丈夫だ。流石の俺でも察したぞ。結構キツいんじゃないのか、家計。それにお前らが食べた分の金額なんて覚えてないし。ラッキーぐらいに思っときな。」
その後、二人とは別れて自宅に戻るまで会うことはなかった。
「ケイゴ君、四月から新しくできた林重支部に異動ね。支部のまとめ役やってもらうから、頑張ってね。」
獣暦973年ついに左遷という状況に遭った。なんと行き先は地元である。学歴でなんとか本部にしがみつけていたが、コミュニケーション能力が皆無だったせいで手を離されたようだ。
両親に連絡は入れたが返信は無し、もう僕のことに口を挟む気力はなくなったか。
僕が働くチェーン店の元締めを務める会社は全国各地に支部がある。支部はその地域をまとめていて偵察や労働時間の管理、期間限定商品などの情報の発信を行なっているわけだ。つまり三月まで勤める本部は元締めの元締めということになる。
本部での最後の業務を終わらせ、支部に向かう。本格的な始動は五月からだが税金等の処理が必要なので課長の言う通り動くのは四月それも下旬である。
問題はメンバーである。どうやら不祥事があったらしく管理部の人間がそう入れ替えすることになった。僕と同じく愛想のない経理担当のハコビさん、活発な感じの青年を醸す爬虫類のような容姿を持ったツムジ君の二人。何が問題って凸凹感が半端ないのである。
ハコビさんは僕のようなニンゲンの見た目に耳と尾のついた亜人に分類されるタイプでツムジくんは立派な獣人である。
今の時代、亜人はニンゲンとまでいかないが珍しい。亜人の誕生は獣人とニンゲンの混血がほとんどであるがニンゲンの減少によってこの例が現れなくなったため珍しくなっている。そのため先祖返りという例外の方が亜人の割合としては高い。
「ここの管理を任されたケイゴだ。よろしく。ひとまず二人は準備に徹してもらっていいよ。僕は一通り店舗を回ってくるから。」
「はい、こちらは任せてください!」
ムツジ君のハキハキとした声がいってらっしゃいと鼓舞し、ハコビさんは軽い会釈だけしてくれる。うん、なんか良い相棒どうしになりそうだ。僕みたいなのはお邪魔なのではないだろうかと、どうでもいいことをバスに揺られながら考えた。
二つのファミレスに管理部の人間としての挨拶と職場の状況の確認した後、最後の店舗に向かった。ファミレス『シラカバ リンジュウ町ハリュウ店』である。この店舗は住宅街にあるスーパーに隣接しているため、主婦や定年退職したおじいさんがリピーターとしてくるのだそうだ。
「今月から管理を任されるようになったケイゴです。前任の者同様、雇用状況や利益等の確認を行うのでよろしくお願いします。」
そう言って、余所者の目を向けられながら(数少ないニンゲンなので当然と言えば当然だが。)今月の分の利益、来月のシフトに問題がないか確認する。
「うん?」
シフトに見覚えのある名前が入っている。
「では、私上りますので引き継ぎお願いします。」
「「あ。」」
シフト表のコダマという文字列を見た瞬間に嫌な予感はしていたのだ。まさ
かあのコダマさんだったとは。
「ケイゴ君ってここで働いてたっけ?」
「異動でここ一帯の管理を任されたんだ。これから帰るのか?」
「うん、途中でアオトとミドリのお迎えに行ってそれから……ご飯作らないと。って急がないと、話してる場合じゃない。」
そう言うとコダマはそそくさと女性用更衣室へ退散してしまった。
「ケイゴさん、コダマさんとはお知り合い?」
ひょっこりとホールから店長さんが顔を出す。
「まあ、小学生の時の同級生です。接点はあんまりなかったんですけど、最近再会してちょっと会話をしたってだけです。」
「そう、ですか。ケイゴさんから見て彼女はどう見えますか?」
いつ、過去の僕みたいになってしまうかわからない。ひょっとすると彼女はここでの業務以外にどこかで別に仕事をしている可能性は高い。例えば水商売とか、嫌な思考だがありえないわけではないだろう。
「その糸がいつ切れてもおかしくない、病んだり疲労で倒れたり最悪死ぬかもしれないと思ってます。今の状態で生きていけているという状況も彼女を追い込んでしまっているのではないでしょうか。」
白髪混じりのおじさんは柔らかい表情ながらでゆっくりと頷く。温かな印象を持ちながら閉じ切っていそうな目には鋭いものを内包している。
「うん?……部外者の私が言うことではないし、あなたとコダマさんの間に事情があるのはなんとなくわかっておるが……どうかコダマさんを助けてはくれんか?」
「僕じゃ無理ですし、誰も助けられませんよ。彼女は自分でなんとかしようとしていて、実際コダマさんはなんとかできてしまっている。」
助かる者というのは真に救難信号を発する者だけで口に出さない者は助けてくれない。
「ううむ、そうなのかもしれんが……。気に留めてやってくれ。」
店長さんは哀愁を乗せた背中をケイゴに見せながらホールの方に戻って行った。
「僕がやるべきじゃない。僕じゃ彼女の精神的負担になるだろ。」
ケイゴは彼女の入った更衣室を一瞥してから持ち出してきたノートパソコン
に向き直した。
結局のところ、彼女が今の状況を変えるには彼女自身が奮闘するしかないのだ。彼女の努力はどちらに転ぶことか。
コダマさんが帰って少ししてから、ケイゴもノートパソコンを畳んで店長さんに一言挨拶をしてから支部に戻った。
「あ!ケイゴさん、お帰りなさい。」
支部に戻ると段ボールを抱えたムツジ君が出迎えてくれ、ハコビさんも彼の声でケイゴの姿に気づき一礼してくれる。二人とも悪いやつではなさそうだ。
「店員さんたちの雰囲気はどうでした?店舗の巡回に行ってたんですよね。」
「みんな感じのいい人たちだったよ。苦労してることもあるようだったけど、不正はなかったようだからこのまま頑張ってほしいかな。」
「なあ、二人とも。僕は助けたいけど助けたくない人がいるんだけど、どうすればいいと思う?」
唐突の質問に二人は首を傾げる。
「あー、知人が結構経済的にピンチで手を貸したいんだが、心の中でその知人を良くないと思っている。」
「ケイゴさんはその人を許せますか?」
「は?」
びっくりした。ハコビさんの声を久しぶりに聞いてびっくりしたのだ。
「びっくりした。ハコビさんって話せたんですね。」
ムツジ君が僕の言葉を代弁してくれた。ハコビさんの声は想像していたよりも低く落ち着き凛としていた。生きていた中でここまで無生物的な生声を聞いたことがなかった。
「それで、ケイゴさんはその人を許せるのですか?それとも許せませんか?」
多分、許せると思う。僕の憎悪は角砂糖ではなく砂糖水なのだ。特定の人間を呪っているのではなく家族友人職場の人間関係なくありとあらゆる人間を無差別に呪っているのだ。そんな限りなく薄くゼロに近い憎悪をもつ僕は全世界の人間への好印象のハードルを上げているだけである。
「許せる。別に彼女が悪いわけじゃない。今の僕に必要なのは言い訳だ。」
「言い訳ですか。」
「彼女は自身が加害者だと勘違いして今も引き摺ってる。」
被害者に助けられるなんて人によっては憤りを感じたり負い目を感じてしまうのではないだろうか。
「じゃあ、ケイゴさんのせいにしてしまえばいいんですよ。負い目を感じさせてしまうというのなら、こっちも負い目を感じさせてしまっていることに負い目を感じているということにすればいいんです。」
「ハムラビット法典ですね!」
「ムツジ君、ハンムラビ法典ね。……まあ、ハコビさんには助けになったよ。話せるタイミングがあるといいんだけど」
もう帰っても文句のない時間だったので最後に鍵を閉め、借りたばかりのマンションの一室に向かった。
「さて、これからどうしようか。」
この日から僕はコダマさんに話しかける一言と説得するための理論武装を頭の中でぐるぐると生成、反芻させることになった。
「……お前、ケイゴだよな、久しぶり。覚えてる?小学校の時同じクラスだった……」
「覚えてない思い出したくない。僕はお前に一ミリとも興味はない。」
「そんなこと言うなよ、俺だってかの時のことは後悔してるんだ。近くに美味い居酒屋があるんだ、少し話そうぜ。」
あの現場にいたユガは落ち着いた雰囲気をした狼の男。シワのないシャツと汚れを一切見られない革靴から少なくとも真っ当な人生を生きられているのがわかる。
デスクワークのせいであろうか猫背になった背中には何かを背負っているように思える。
「で、なんの用だ。今更仲直りはしないぞ。」
「まあまあ、そんなにカッカしないで。世間話でもしようよ、今はどんな仕事をしてるんだ?」
「ファミレスで『シラカバ』ってあるだろ。」
ユガは『シラカバ』の存在をはっきりと記憶しているようで二度、頷いた。
「何度か利用したことはある。」
「そのファミレスの元締め?的なことをしてる。元々は本社で働いてたけど今年度からは地方に左遷された。……わかってたことだけど。もちろん子供はいないし、パートナーもいない。」
「そう、か。俺は広告代理店に勤めてるよ。」
左手の薬指に銀色に光るものが嵌められている。
結婚してるのか。当然と言えば当然、彼は小学生の時は底抜けに明るい性格で女子からも人気だった。昔から彼は幸せな家庭を築くんだろうなと思った人間のうちの一人で、もちろんコダマさんもその中に含まれている。
「家族に連絡は入れたか?」
「えぇ、怖っ。なんでわかんの?!」
「指輪をはめてるだろ、流石に気づくわ。一言入れたほうがいいぞ、怒られても知らない。」
脅しくらいの勢いでユガに一言話すと一度店を離れ店頭で一本入れた。
「ごめんな、OKだって。ケイゴと話すって言ったらあっさり許可入れてくれたわ。」
結婚相手はクラスメートだったのか。
「ケイゴは俺の他に誰かと会ったのか?」
「コダマさんだけね。」
「ああ、会ったんだ。……コダマだけはやめておけよ、絶対後悔するぞ。」
鼻を鳴らし、酒をグッと飲んでからユガはコダマについて話を進める。
「彼女と関わってもいいことなんてないぞ。成人式の時には既に子持ちだったんだよ、多分デキ婚。しかも夫とは離婚したって言ってたし、二人の子供を抱えてる。元々お嬢様だったから駆け落ちに憧れて無事転落、親にも縁を切られて一人でせっせと頑張ってるよ。今、ケイゴがコダマと繋がっても百害あって一利なしだ。」
「そうか、まあ……わかったよ。」
嫌だな、やっぱり。慣れてきたとはいえ、善人の足を引っ張る発言は今でも吐きそうになる。日常に溶け込む人間は誰でもどこかで毒を吐く、そんな人間は気持ち悪い。人を傷つけているとわかっていても止められない僕が一番気持ち悪い。あの悪意が自分にもあると思うと人との関わりを断ちたくなる。
「お前、まさかあの時のことまだ引きずってるのか?」
「もちろん、僕の性格の三割はあれのせいだ。お前はそんなに重要視していないだろうけど、あの時に得た不信感にずっと呪われてるよ。」
ユガは何も言わなかった。
その後、ユガの家族の話を聞かされたりそれぞれの勤務先についての話をし、早々にして別れることになった。
そして思ったより早く、タイミングは訪れた。偶々(そんなわけもなく前のようなことを狙ってあの公園まで歩いて来ていたのだ。)散歩しているとアオト君に出会った。
「あ、おじさん。久しぶり。」
「ああ、今日もひとりか?」
「まあね、ずっとあいつらの言う事は変わらないよ。」
「そっか、コダマさんはまたこっちに来るのか?」
少年はコクンと頷く。
「母ちゃんがどうかしたの?」
「ああ、ちょっと話したいことがあってね。」
「携帯で呼べばよ簡単じゃないの?」
「も、盲点だった。」
確かにそうだ、これじゃあ僕がコダマさんのことを気にしているみたいじゃないか。まあ、間違いじゃないがそういうことじゃなくて……。
「まあいい、今日話せればそれでいいんだよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
アオトは何か期待するような顔でこちらをじっと見てくる。
「別に俺はおじさんが父さんになってもいいよ。」
「は?いやいやいや。それはないって。」
「でも母ちゃんの顔は結構良い方だと思うんだけど。」
「そういう問題じゃない。俺が結婚する未来を想像できない。……いやぁ無理だろ。」
髭を剃ったばかりの顎を触りながら誰もいない左の方に視線を逃す。
「僕は生きてる奴ら全員もれなくちょっとずつ嫌いだからね。愛するっていうのは無理だなぁ。」
「じゃあ、おじさんはなんで母ちゃんと話そうとしてるの?俺は嫌いな人とは離したくないよ、そのせいで独りになっちゃってるけど……。」
「申し訳ないんだ。アオト君には悪いが、コダマさんは僕から見て幸福な人生を送っているとは思えない。」
でもそうなってしまったのは僕にも責任がある。あの一件について彼女は靴を隠されてしまった自分に非があると思っているのだろう。
「あ、母ちゃんだ。」
「アオト、ちゃんと大人しくしてた?って、ケイゴ君また会ったね。」
「ああ、職場で会って以来だな。……突然だが話があるんだ。落ち着いて話せる場所はあるか?」
コダマさんは頷き、アオト君を連れて地元でもあまり行ったことのない方向に連れて行ってくれた。
到着先は錆や罅が見られるアパートだった。案内されたのは二階の一番奥で表札も他の部屋と違ってしっかりと取り付けられている。
「コダマさんの家か、他人の家にお邪魔するのは久しぶりだな。」
他人の家に招待されたのは小学生ぶりだ。引きこもりになって以来他人の領域に足を踏み入れることはほぼなくなったので作法など忘れてしまっている。
案内されたのは大とは言えない広間。畳にはちゃぶ台、デッキの上に乗ったテレビが乗っているだけだった。区切りのないキッチンには腰ぐらいの高さの冷蔵庫とその上には電子レンジがある。
「それで、話ってなんでしょう?」
「建前なしに率直に言わせてもらう。お前たちの生活を支援させてほしい。」
俺の言葉に驚いたのか彼女はザッと立ち上がる。
「痛っつ〜。」
その勢いのままちゃぶ台に膝をぶつけ、手を押さえながら縮こまってしまう。コダマは十数秒だけ唸りながらダルマのように丸くなり、痛みが引いてくると改まってケイゴと向かい合い、立てていた耳を折って今度は彼女から話し出した。
「なっななっ……ケイゴさんだって薄々わかってるでしょう、私と深く関わると不幸なことが起こるの。今まで付き合ってくださった方々もそうだった。多分、ケイゴ君の気分を悪くさせるから……だから、今の関係以上にはしたくないです。」
「コダマさんにひとつ言っておく。幸せの総重量は人によって違う、運もそうだ。やっぱり著名人や富豪は運のいいタイミングで運よくわかりやすい才能を持って、成功を収められたんだと思う。それができたかによってQOLは変わってくる。でも幸福は他人が決めるものじゃないと思う、誰がどう言おうと関係ない。自分が楽しければどんなくだらないことでも幸福を追求することになる。」
「ユガもコダマさんのことを散々言ってたが気にする必要はない。つまり……何が言いたいかっていうと……コダマさんは身体要因、環境要因含めて幸福と心の底から言えるか?」
「わ、私は子どもにも恵まれてちゃんと幸せに生きれてます!」
多分、本音は言えてない。子には弱い自分を見せるわけにいかないだろうし、僕への負い目は残っているのだろう。
「そうか……。」
彼女が拒否するならもう用はない。
「もし、限界が来たら話してくれ。できることはする。」
ケイゴはそれ以上口を開けずにドアノブを捻り、身を隠すように戸を閉めて、去った。
「はぁ、やっぱりダメだったか。」
僕とコダマさんはいつの間にか避け合ってしまっている。彼女のような優しい生き方は他人を傷つけないし、誰でも真正面から受け入れる。現に彼女は子に懐かれている。
多分、彼女が受けているユガの言っていたような印象は初めて自分の思考を第一優先した結果、偶々悪い方向に転がったからだと思う。だから、その転がり落ちた者、似た者どうしである僕たちだからこそ助けてやりたかったんだ。
夕暮れに差し掛かってこの町唯一の川が金色に光るのを橋の上から眺める。後ろから照っている沈みかけの太陽はケイゴの微妙に丸まった背中を押し、焦がす。
もう、彼女との関係は進展することはないだろう、後退してもおかしくはない。
「あぁ、初恋だったんだけどなぁ……。」
父の眼差しで全て諦めたはずだったのだけれど、心がギュッとなって隙間ができてるみたいだ。
「そ、そうだったんですか?」
「は、」
いつの間にか隣にはかつて……いや今も好意を抱いている女性が肩で息をしながら手に膝を付いて、佇んでいた。
「なんか恥ずかしいです、初恋って言われると……。」
「そうか……それで何かあるのか?急いで僕を追って来たんだろ?」
「ああ、えっと……なんでそこまでして私に手を差し伸べようとしたのかって思ったのですけど……。」
それで聞かれた、と言うことか。
「まあ、そういう感情が半分、同情が半分。同情って言っても肩を組み合うようなのじゃなくて同志と言うか同じ穴の狢と言うか……。」
「ふふっ。」
うん?別に笑うところなんてないと思うんだが。
「いつもきっぱりしてるケイゴ君が焦っているのを見てなんかホッとしました。人間なんだなぁって。」
「何それ。……まあ今聞いたことは忘れてくれ。」
「無理です。」
「忘れろ。」
「無理です。」
「忘れろ。」
「無理です。」
「流石に忘れてくれ。恥ずかしいから。」
男は橋の手すりに頬杖をつくと隣の彼女も手すりに両手をつく。
「後、話すことはあるか?」
「同志ってどういうことですか?」
「あの時代の被害者ってことだよ。あの一件で少なくとも僕たち二人は傷ついた。」
「でも私は——」
「——負い目を感じてるんだろ?それに君は何度か訪問してくれたじゃないか。君以外のクラスメートはインターホンすら押してなかったんだ。だからもういいんだ、忘れてしまって構わない。忘れてくれ。」
コダマさんは多分目を向けてくれているんだろうけど僕は一切彼女の姿を捉えず川の流れる先を見つめる。
「無茶です。初恋だって言われて今もそうだって言われたら忘れられません。だから、これから一緒に居てください。」
「それ、告白って捉えていい?」
「はい、もちろん。」
ちょっとだけ他人を好きに慣れたかもしれない。
それから数週間後、僕はコダマとその息子さんたちと一緒に同居することになった。
「「お邪魔します。」」
「これからはただいまって言って欲しいな。」
アオト君は入って早々に部屋中を探検と言って回り始めた。
「ミドリのベッドってこの辺りでいい?」
「ああ。大丈夫だ。」
いくつもの段ボールを運び入れる中ひとつだけ平たく大きい段ボールがあり、その段ボールを開け、早速組み立ている。
「ケイゴさんのご両親には言わなくてよかったの?」
「もう一ステージ上がる機会があったらその時にメールすればいいさ。」
環境も気分もタイムスケジュールも変わったが進学した時や社会人になった時と同じような『自分の中に違和感のないことへの違和感』を絶賛味わい中だ。コダマは重労働から解放され夜職を辞めたが、『シラカバ』のパートは労働時間を減らしつつも続けている。
今まで家族にあまり好印象を持ったことはなかったけれど、これから先は良いものになってくれると信じている。
完