戯れの日々
前の話からうって変わって明るい話になっています。二人のやり取りを楽しんでいただければ何よりです。わらわという漢字が変換しにくい為ひらがなですが、気にしないでいただけると嬉しいです。
「ん?」
目を開けるとまだ朝陽も出ていない時間だった。薬師の朝は早いものだが昨日の事で余計切り詰めていたせいか、いつも以上に早く起きてしまったようだった。
「居ない・・・のか?」
昨日出した予備の布団の中には、昨日の雨神とかいう女の姿はなかった、昨日のは夢だったのかと思ったが、布団もあるし意識もしっかりしているのですぐに思い直す
「出て行ったか」
昨日は自分で決めろといったがこうも早く出て行くとは思わなかったので驚くが、それと同時に怪我の事を思い出し心配になる。大した怪我ではないとはいえ今はただの女、山犬にでも襲われたら一大事だろう
「せめて傷が治るまでいればいいものを」
急いで着替えて外に出ると、まだ太陽も出ていない頃思っていた以上に外は寒い。昨日の雨で地面もぬかるみ足を怪我していては、つらい足場になっている
「お~い雨神、何処だ?」
もしかしたらまだ近くにいるかと声をかけるが、聞こえるのは虫の鳴く声だけ。薬師としては怪我人の心配でいてもたっってもいられない気持ちになる
「どうかしたかの?」
突然真横から声をかけられ驚くが、驚いた様子に可笑しそうに鈴のように笑う雨神を見て、安心を覚える。雨神の手には夏らしい花々がある
「どこへ行っていたんだ?怪我人はおとなしくしておけ」
「わらわが心配だったのか?うふふ優真、お主案外可愛いのお」
「なっ!あのな俺は薬師だぞ?怪我人なら誰だろうと心配するのが当然だ」
「なんじゃつまらん、まあ心配させたのは謝ろうかの、すまんかった」
意外に素直な態度に戸惑いながらも、花へと目を向ける
「これか?これは優真のようなまさに花の無い者に贈ろうかと思い摘んできたのじゃ」
「そうか、少し失礼に感じる言葉があったが礼は言っておく。ありがとう」
「わらわは優真に助けてもらったからの、これからも色々としてやろう」
「なんか態度でかいなお前」
優真にとって久しぶりの会話はこんな些細な物でも、新鮮に感じられる。相手が元神様でもそれは同じ事だった
「どうかしたかの?何だか嬉しそうじゃが」
小さな優真の感情に気付いたのか雨神は、不思議そうに尋ねるが優真は大した事ではないと小さく首を振って返事をする
「早く戻ろう、一晩とはいえ足がどうなったか見たい。それにまだ外は寒いからな」
「寒いのか?わらわはこの着物を着ておるゆえ、あまり感じぬが」
「その着物神様の力でもあるのか?」
「多少はの。神が不調を感じぬようにあらゆる物から身を守らせるようにの」
「結構便利だな、まあお前は寒くなくても俺は寒い早く行くぞ」
家に戻るために歩き出そうとするが、その歩みは雨神の遠慮がちな声に止まる
「のう優真、お主先ほどわらわを呼んでいる時は雨神と呼んでおったのに、何故今はお前なのじゃ?」
「それならお前だって」
「名前で呼んでおるぞ優真と」
確かに思い返せば先ほどから名前で呼ばれていたことに気付く、自然すぎて気付かなかったが
「分かった、だけど雨神なんて名前じゃないみたいで呼びにくいんだよ、他に名前とかはないのか?」
「あるにはあるが」
「じゃあその名前で呼ぶ、何という名だ?」
「鈴音じゃ、親しいものはそう呼ぶ」
「良い名前じゃないか、じゃあこれからは鈴音って呼ぶとしよう」
「うむ」
思ったよりも人間らしい名前に驚きはあったが、呼びやすかったので安心する。だが昨日会ったばかりなのに名前で呼び合っているとは不思議だった
家の中に入ると鈴音は花を置き、正座で優真の前に座り真剣な顔でこちらを見て言った
「お主は昨日これからどうするか考えろと言ったであろう?」
「ああ」
「言いにくいのだが此処に置いては貰えぬか?わらわには行く所がないのじゃ」
「・・・・昨日の話を俺は信じてる、お前を知っている者がこの世界にいないのは察しがつく。また頼れる存在もいない・・・。一人で生きる力もない」
その言葉に否定は出来ないのか、膝の上に置かれた手に力が入るのが分かった。きっと怖いのだろう
もし自分も同じ立場なら同じように感じるだろうと優真は思った
「俺はこれまで薬師としていろんな村に行ったが、お前のような境遇の者が多く飢え死に病気で死ぬのを見てきた。だからこそお前は見捨てないし死なせるつもりもない」
「ではよいのか!?」
「ああ、ただし自分の食い扶ちは自分で取るんだ、それ以外なら協力出来るだろう」
「もちろんだ優真に甘えすぎるつもりはない、感謝するぞ!」
何を思ったのか鈴音は感謝の言葉とともに抱きついてくる、人と話す事もあまりないというのにこのように触れられる経験が少ない優真は、思わず顔を赤くしてしまう
「ん?もしやテレておるのか?お主やはり可愛いのう」
「っ!離れろ早く!!」
「分かった分かった、ふむもしや女子と触れ合ったことがないのか?」
にやついた表情を隠しもせずに鈴音は尋ねる、優真にとって否定しきれないのがつらい所だ
「やはり断るか」
「それだけは勘弁にしておくれやす」
「こういう時だけしおらしい態度を見せるな、卑怯ではないか冗談だ冗談」
「やはり優しいのう、結構もてるタイプではないかお主?」
「残念ながら、そのような事はないな」
この方そんな事はなかったので、苦虫を潰したように顔をしかめるが。何が楽しいのか鈴音は笑ってその表情を見ている
「おっと、そろそろ薬を取りに来る頃だな」
「来る?誰の事じゃ?」
『ガラッ』
「すいません優真さんお薬を取りに・・・えっ!?」
扉を開けたのは村長の一人娘香奈枝だった、彼女が驚くのも無理はないいつも他人を寄せ付けない優真が、村で見たこともない女と会話しているのだから
「確かこれだったね?どうぞ少し多めに作っておいたから」
人とあまり話さない優真もいつも明るい香奈枝とは普通に話せた。だからこそ薬などを渡すのは大抵彼女を通してだった。
「はっはい」
一瞬手渡された物が薬だと気付かないほど香奈枝は動揺していた、その証拠に彼女が次に発した言葉は言われた当人らが困惑するものだった
「おっおめでとうございます御結婚」
「結婚?誰か結婚なさるんですか?」
優真はいつもの香奈枝らしくない様子に首をかしげて聞く
「えっ?そこの方と結婚されたんじゃ?」
彼女の視線の先には今の状況についていけず、不思議そうにしている鈴音がいる
「俺と鈴音が結婚?いやそういうわけだは」
「でも一緒の部屋でその・・・一緒にいたんですよね?」
確かに部屋の中には布団が二つ、香奈枝が結婚とまではいかないが事実をついているのは確かだった
「これは違うんです、鈴音は昨日雨の中ケガをして倒れていたので仕方なくつれてきたからで」
「何を言っておる?優真がわらわを此処に連れてきたんじゃろ?」
「おまえは余計なことを言うな!あのやましいことはないですから、香奈枝さん?」
「優真さんのばかぁ!少しは期待してたのに」
そう言い残して顔を赤くした香奈枝は村の方へと走り去ってしまう、その後姿を見て優真は後ろにいる鈴音に気付かれないように大きなため息をつくのだった・・・。
優真がため息をついている頃、優真の家から遠ざかる香奈枝は心がチクッと痛むのを我慢して走っていた、どうしてもさっきの女の人の顔が頭にこびりついて離れなかった。それが嫌で忘れたくて走り続ける
「おう香奈枝ちゃん、どうしたんだい慌てて?」
「慌ててなんかいません!」
「おう!すまん」
高野さんは近所に私が小さい頃から住んでいて、いろいろとお世話になっているのだが今日は話す気にはなれなかった。だって前々から気になり始めていた異性が見知らぬ女性を部屋に連れ込んだのだ。
「ひどいです優真さん、うぅっ私これからどうしよう」
手に薬は持っていないきっと置いてきてしまったのだろう、戻らないといけないそれを考えると無性に気が沈んでしまう、気持ちを奮い立たせて優真の家に歩き出す、だが歩き出すと前の方から誰かが走ってくるのが見えた優真だ
「香奈枝ちゃんごめんさっきは、これ忘れていった薬ね」
「あっ、はい・・・」
目も合わせられない自分のした事が恥ずかしくて、きっと顔は真っ赤になっているだろう
「本当に何も無かったから、嘘じゃないから」
「分かりました優真さんを信じます、でもあの方何処の方ですか?」
「えっと山を越えてこの村に来た旅の人だから、俺もよく分かんないな」
「旅のお方ですか・・では歓迎の準備を村長さんにお伝えしますね」
そう言った直後優真はあからさまに顔をしかめる、人が大勢集まる中に行くのを想像してしまったからだそれが分かった香奈枝も、自分の失言に気付く
「あの大丈夫ですよ私が旅の方を連れて行きますから、優真さんは村長さんにだけ会ってくれます?」
「はい」
それならと渋々了解して二人は別れた、優真は家に入るなり驚愕に目を見開く
「なっ何してる!?お前」
「ん?歓迎会なのじゃろう?優真に服を見繕っておるのじゃ」
「あのな俺は歓迎会なんかにはでないし、そんな服を着る気もないというかその布どうした?」
「先程村人がやって来ての日頃の感謝だと置いていったぞ?」
俺は少しずつ自分の周りが変わっていくのに不安と小さな喜びを感じ、そっとため息をこぼすのだった
二人が少しずつお互いの事を知り始めた二人は、この先どんな未来を作っていくのでしょう?神様と人間の戯れ楽しんでいただけたなら嬉しいです。
終わり方はもう決めてあるので楽しみにしていてください




