表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ツインテ14歳、鬼の大隊長(嘘)が武田軍団4000名を蹴散らす。「可憐な乙女に何ていうセリフ言わすのよ。もうあたしお嫁にいけない(涙目)」「お姉ぇ、心配するな。ムサい男なら沢山慕ってくれてる」

作者: 天のまにまに


 1554年3月上旬

 上野国那和城松の間



「蘭ちゃん。今日から君、龍造寺蘭ね。ちょっとツンデレネームだけど、これからの任務にはピッタリ~♪」


 上座に座る私たちの殿さま、大胡政賢さまが舞うような大げさな身振りで私に告げる。


 この政賢様は私達、龍造寺に引き取られた孤児を救ってくれた方。この方が大胡へ養子に来られなかったならば、今の私たちはない。皆、関東各地で戦のために親を亡くした。戦はもうこりごりなんだけどね。


「去年はご苦労様でした。この大胡の最大の危機に、相模の獅子とかいう北条氏康くんの首取れたのも、蘭ちゃんと詩歌ちゃんが活躍したお蔭。助かったよ僕」


 そんな大したことはしていないわ。

 桃ノ木川決戦の緒戦で北条方の渡河を妨害して、たまに敵方の指揮官を狙撃しただけ。


「その狙撃が効果的だったんだ~。お蔭で敵の左翼の動きが鈍くなり斬り込み隊が活躍できたよ」


 北条の20000の大軍を、たった2200で迎撃。包囲殲滅するとか、日ノ本中が驚愕したに違いない。

 その結果、今では上野国全土を平定。北武蔵と合わせて70万石を超える大大名となった大胡。多くの銭収入と合わせて巨大な軍事力も整備され始めた。


「さっきも言ったように、今度ね。狙撃部隊を作るんだよ。今、全国各地へスカウト……ゲフン。調略に行っている在施符ざいつぇふさん達が鉄砲上手を一本釣りをしてくるから、その人たちを統率してもらいたいんだ」


 まさか!

 こんな14歳の小娘に荒くれ者の統率なんて……


「だいじょ~ぶ。あいつらは鉄砲の腕に誇りを持っている。それをコテンパンにノシてからじゃないということ聞かない」


「では大胡最高の狙撃手、在施符ざいつぇふさんの方が適任……」


「あ~、あの人。一匹オオカミだから。最近やっとみんなと打ち解けて来たけど、元々そういう人。でも蘭ちゃんは違う。華蔵寺で指揮官訓練を受けている」


 華蔵寺とは公園と呼ばれる施設組織。

 科学技術から教育文化、そして軍備まであらゆる研究を行っている所。そこの士官学校で私は第3期卒業生の主席だった。


「詩ぃちゃんが副官。あと数人女の子で優秀なの付けるから。それと合わせて公園育ち1個中隊12名充足。これだけいれば48名の増強大隊を統率できるんじゃない?」


「でも……」


「僕ね。身近な人にしか言わないんだけど、心の中の言葉は「俺」だとかの「ひでぇ言葉」使っているんだよ。こんな子供の言葉使っているのは神連中の……ゲフンゲフン。神様の贈り物。

 皆を引き付けるのに最適だって。人間って、そんなこともできるんだ。蘭ちゃんにはそんな才能があると思う。前、撤退戦の時それ見たよ。ちょっとツンデレだったけど」


 殿さまの内心の事にもびっくりしたけど、私にもその才能が?


「まあ、やってみてよ。結構面白いよ。他人を演じるのって。癖になりそう」


 殿さまはいつもこう。

 今様いまようの『梁塵秘抄』というものの一つ。


 「遊びをせんとや生まれけむ 

 戯れせんとや生まれけん」


 が、座右の銘だとか。

「人間五十年」よりも明るくて好き~、とか、いつものように煙に巻いている。


「それじゃ、頼んだよ。龍造寺蘭大隊長。今度またツインテールの新バージョンを奥さんの楓ちゃんに結わせてもらって~♪」


 私は頭の両脇で錦の布で結わえてある髪の毛が垂れるのを気にしながら、殿さまに頭を下げた。この髪型も殿さまからの大事な贈り。


 こうして私は激戦地に飛び込んでいく狙撃兵隊長になってしまった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 予想通り、荒くれ者ばかりだわ。

 大胡の制服を着ているけど、顔は髭モジャ。

 体臭はこっちまで臭ってくる。二日酔いの臭いも混じる呼気。


 さあこれから殿さまに教えていただいた『はーとまん式』訓示を行う。


「大胡特別狙撃大隊長、龍造寺蘭である。

 話し掛けられた時以外口を開くな。

 口でクソたれる前と後に“サー”と言え。

 分かったか、ウジ虫ども」


 皆がシーンとしている。

 笑いそうになった奴の腹を、詩歌が銃床で凹ませる。


「「「さぁ、いえす、さあ」」」



「ふざけるな!大声出せ!

 タマ落としたか!」


「「「さぁ、いえす、さあ!!!」」」



「貴様ら雌豚が、おれの訓練に生き残れたら、各人が兵器となる。戦争に祈りをささげる死の司祭だ。その日まではウジ虫だ! 地球上で最下等の生命体だ。貴様らは人間ではない。動物のクソをかき集めた値打ちしかない!」



 な、なんだか、自分で言っていて笑ってしまいそうになるけど、殿さまは褒めてくださった。

 きっとうまくいくはず。



「おう、嬢ちゃんよ。言ってくれるじゃねぇか。俺たちはなぁ。大胡に雇われちゃあいるが、心服したのは政賢の殿さんにだけだ。お前みたいな小娘にじゃあねぇ」


 張り倒そうとする詩歌を片手で抑え、冷血なまなざしを演出して答える。


「では何が必要だ? 聞いてやろう、そこの蛆虫」


「俺と鉄砲での勝負だ、当たり前じゃねぇか」


「良く言った。他にやる奴はいないか!? 貴様らが蛆虫だということを思い知らせてやる!」


 12人が手を挙げた。

 まったく!

 なんでこうも、自信過剰なのかな。自分は人よりも強いとか信念にするのは命取りなのに。殿さまに言わせると、死亡ふらぐ?




 訓練用の鉄板を1町(100m)先の松の木にぶら下げる。


「いいか、蛆虫。松は大胡の象徴! あれに傷をつけて見ろ。反吐を吐いても終わらない駆け足地獄が待っているからな。心してかかれ!」


 みな、1町も遠くにある的を見て、少しおじけづいた。

 普通の火縄銃なら、まずは当たらない距離。1尺四方の的に何人当てられるか見ものだわ。



 ずが~~ん!

 ずが~~~ん!

 ずが~~~~ん!


 12人が撃って、5人が命中。

 その内、中心に2寸(6cm)の近さに当てた者が2名。

 名前はたしか……

 鈴木重秀と杉谷善住坊か。


「どうした。嬢ちゃん。お前の番だぜ」


 鈴木とか言う奴が愛用の火縄銃を肩に担ぎ、ニヤニヤしている。杉谷とか言うお坊さんも唾を吐き捨てた。


 私は愛用の鉄砲に早合を使って二呼吸の間に、装填を済ませる。

 この()()なら、立射で行けるわね。


 ずがああああああん!


 長銃身フリントロック銃が咆哮をあげる。


「ど真中へ的中!!」


 皆がし~んと静まる。


「まだまだだ。蛆虫ども!」


 詩歌から愛用の特製フリントロック()()()()を手渡してもらう。

 丸弾は何処へ行くのかわからない回転をしている。でもこのライフル銃は溝が内部に彫ってある。これで弾にキリを揉むような回転をつけて、遠くまで真っ直ぐに飛ばす鉄砲だ。


 それを片手で振り上げて皆に啖呵たんかを切る。


「あの向こう。2町先にある案山子が見えるか? その案山子の顔が見えぬものはウジ虫以下、それ以下の生き物にも値しない! 即座に母ちゃんの下に帰れ!」


 普通の人には多分見えない。そのくらい遠くにある的だ。


 火皿を確認して詩歌を呼ぶ。

 腰を下ろした詩歌の肩に銃身を置き、左手で革帯を使って右腕をしっかり固定。銃床が肩から生えているくらいにピタリとあてがう。


 尻がむずかゆくなり地面を感じる。耳が風を読む。目に写るのは赤い射線。その赤い線が案山子の顔に重なった時、そろりと引き金を落とした。


 どが~~~~ん!!


 照星と照門も付いているけど、この距離だと全くあてにならない。全ては五感と六感。これが出来るのは、そしてこの感覚についての話が通じるのは在施符ざいつぇふのおじさんだけ。

 殿さまに言わせれば「別次元の才能~。まるでGGOでヘカートⅡ持っている女の子だね」とか。



「どうした、蛆虫ども! 先程の威勢は、はったりか? 自分たちの自慢する腕の未熟さを目に焼き付けて置け! これから半年間。私が貴様らを徹底的に叩きのめし、大胡の狙撃兵にしてやる。それまでは貴様らは蛆虫だ。わかったか!」



「「「さぁ、いえす、さあ!!!」」」




 ◇ ◇ ◇ ◇




「まったくもう! なんて事させるのかしら。殿さまは。

 詩ぃちゃん、私、お嫁に行けるかしら」

「……無理」

「あああああ。もう!」


 詩歌の冷たい視線にも気にせず、私は頭を抱えて駐屯地の隊長室で叫んだ。


「殿さま!! 責任取って私を側室にして~~~!!」

「無理。そのポジ、既に満員」



 ◇ ◇ ◇ ◇





 1556年1月8日

 武蔵国品川湊。鎌倉街道で北へ500m。



 目の前の港町で死闘が繰り広げられている。

 関東一二を争う交易港を取り合う大胡と武田との攻囲戦。攻めるは甲斐武田の精兵4500。守るは大胡の副将、長野業政(なりまさ)様が率いる800。


 前日の大砲対飛砲カタパルトの砲撃戦で、強大な攻撃力を誇っていた大胡の8門の大砲が火薬切れを起こした。

 いまだに散発的に銃撃をしているけど、それももうすぐ止む。あとは弩弓での射撃しかない。


 それも終われば武田の軍勢が、品川湊を囲む5mのレンガ製急造胸壁を超えて街に侵入。城門を開けられてしまえば、そこで戦いは終わる。


 大胡の本隊8000は、この北48kmの狭山丘陵で武田晴信率いる16000と対峙している。

 本来なら、その主要決戦場に居なければならない政賢様は、兵力を割かずに私達狙撃兵大隊だけを連れて救援にきた。


 なんて危ないことをするの?

 と、思ったけれどその目的と意図は冷静になれば分かる。このまま品川を見捨てれば大胡の威信は急降下。だけど大きな兵力をこちらへは持ってこれない。しかも間に合わないかもしれないわ。遠すぎる上に、途中で妨する伏兵がいる。



「武田の品川攻囲部隊は副将の武田弟、信繁君が取っているけど、これちょうどよい機会だから首取っちゃお~」


 そのために私達、別名『八咫烏の民』だけ選ばれて連れてこられた。勿論この名前は、変な名前が好きな殿さまの命名。

 第2中隊を任せた鈴木重秀だけが、満足そうな顔をしていたけど、理由は聞かないで置いた。


 私達48名のほかは親衛隊の隊長と選抜隊10名。総員60名で夜道を騎馬で駆けてきた。危険だったけど、先行した真田様配下の素ッ破が付けてくれた白い目印の布で、道がわかったので意外と楽だった。



「殿の馬印を立てぃ! 赤煙弾、品川へ向けて4発。品川の皆に殿が救援に駆けつけたこと伝えよ。そして武田には『首取り大胡』が参上したと知らしめよ!!」


 親衛隊長、上泉伊勢守信綱さまが誰も発せられない程の気合いを込めて下令する。


 鏑矢の原理でびょうびょうと大きな音を立てて棒火矢(ロケット弾)が南へ飛んでいく。殿さまが上泉様よりも大きな声で大見栄を切り、相手を挑発し始めたわ。



「や~、元気してる? 必死で戦っている所、悪いんだけどさ~。これで終わりにするよ。今、こちらへ武田本隊を蹴散らした大胡の本隊が向かってきている。

 信繁君、降伏するなら今のうちだよ。降伏すれば武田は滅ぼさない。

 だけど無視するなら、武士階級を根絶やしにする!

 覚悟せよ!

 さあ、イエスか、ノーか」



 真田幸綱様配下の素ッ破の防諜網によって武田は戦場を把握できていない。本隊の様子は分からないはず。

 おちょくられた武田の後備えがこちらへ方向転換。

 部将は諸角虎光。兵は足軽と弓兵合わせて600。



「え~と。武田の武将さん達。正気ですかぁ?

 そのくらいの数では、この『首取り大胡政賢』を討ち取る事、無理じゃないかな? せめて10000人くらい兵を集めて出直してくださいな」



 私は、また鬼の指揮官を演じる。


「あのうねを敵が踏み越えたら、各自狙撃開始。

 指揮官を殺れ。あいつらは、まだ兜なんか被っているからよく目立つ」


 隊員たちはニヤリと笑いながらハンドサインで「応」と返事。

 ほんと、戦が好きな人達。好きになれないわ。



 敵はこちらが寡兵だと知ったのか? 急迫してくる。

 言葉合戦に負けたわね。

 冷静さを欠いて勝てるはずはない。

 大声で指揮を執っている徒武者がどこにいるかが丸見え。

 見切ったわ!


「第2中隊、敵左翼の指揮官を殺れ。第3は右翼。第1は中軍の敵大将と馬廻りを仕留める。第4は撃ち洩らしを片付けよ」


 息を殺して、ハンドサインで作戦を伝達する。


 武田の最前列が60m先の畝を超える。

 各自狙撃開始。散発音と共にバタバタと敵指揮官が倒れていく。


 敵に動揺が走る。

 爽快そうかいなほど、うまく行くわね。

 足軽頭が動揺した足軽たちを統制しようとする。いいカモね。

 それを狙った第4中隊からの12発が次から次へと彼らを屠っていく。


 2人逃げ出した。

 詩歌と私が、軽く狙いを定めて後頭部を撃ち抜く。

 これで決まった。

 裏崩れの連鎖。


 後方の味方が逃げ出すと、自分だけ取り残される恐怖に狩られて兵は逃げ出す。これが後ろの兵を巻き込んで敗走に移る。これを止められるのは相当な練達な指揮官のみ。



「ありゃ~。敵の総大将、信繁君。出木杉弟ですね~。裏崩れ止めちゃったよ。さ~てどうする?」


 それはそれは楽しそうにはしゃいでいる殿さま。

 最近、馬に乗れるようになって戦場が見渡せるようになったと言って、とっても喜んでいらしたわ。でもまだ重い甲冑は着られないとかで、剣聖とも言われる上泉様が飛んでくる矢をことごとく切り捨てている。


「殿。品川北には武田の軍勢少ないようにございまする。南が主攻正面かと。中央に(武田)典厩信繁と山本勘助1200。東に小宮山昌友300。西に馬場信春400。四散した後備え600。計2500。南に2000は行っているかと」


 上泉様と殿が作戦を立てる。


「よ~し。残るは2000弱。信繁ちゃんを射程に収めるまで行けそう? 蘭ちゃん」


 どうだろう?

 ここから300m。

 100mは最低進まなければ。余裕を見て150m。


「大隊長。進言しますぜ。第5攻撃隊形で強襲、途中で第2防御陣型。迎撃しましょうか」


 鈴木孫市(勝手に殿さまが名前付けちゃった)第2中隊長が進言してくる。


「お~、それ行ける? カウンターマーチだぁ!」


「殿が、そうお望みとあれば」


 って、ついついかっこつけて言っちゃったけど……

 ……何人、戦死するだろう。


「背負子重かったでしょ? みんな。あれの出番だよ」


 ??

 何言ってるのかしら。

 周りを見ると隊員みんながニヤリと笑っている。


「ごめんよ~。蘭ちゃん。こんな時のために装甲板を背負子に付けてもらったんだ。黙っていたのは、蘭ちゃんもしょいたがるから。無理しないこと~」


 ……そうなんだ。

 なんだか最近、みんなの目線が温かいんだ。

 私が無理している事をみんな知っている?


「無理するなって。大隊長殿。俺たちができることは俺たちがやる。大隊長殿は俺たちが出来ないことをやって下せえ」


 第3中隊長の杉谷善住坊が、何だか優しい声をかけて来る。


「む、無理はしていない! 私は鬼の大隊長だ! また蛆虫に戻りたいのか貴様らは!」


「おねぇ。涙拭け」


 詩歌が手拭いを差し出して来る。

 周りの景色がにじむ。


「貴様ら、どうしてくれるんだ! これじゃ照準が付けられないだろうが! 責任取れ。カウンターマーチで地獄まで行進だ!!」



 応!!!


 と、男どもの野太い声。

 皆、愛用銃を振りかざし、意気軒高だ。



「いってらっしゃい。蘭ちゃん。いや、鬼の大隊長。命令、武田典厩信繁の首を狩れ!」


「さーいえすさー!!」


 さあ、いつの間にか眼に入った水をふき取り、戦闘行動開始だ!




 ◇ ◇ ◇ ◇





「全員、傾注! これより死地へ赴く。心を極めよ。第5攻撃陣型改。バディごとにツーマンセル。1名は背負子で矢を防御。6丁の鉄砲を携行。後ろの射手に順次手渡せ!

 第2・第3・第4の順で、交互射撃で行進する! 後退はしない、前進のみだ!!

 行軍距離150m。190歩。そこからは上泉様と私、それと副官だけで前進する! 各自それを援護せよ。

 弾は各自45発は残っているな。だったら敵2000を倒しても、まだおつりがくる。お残しはあきまへんで~!」


 最後のセリフは、よく殿さまが言うものだ。意味は不明。


 皆がニヤニヤ笑う。

 士気、上等。


「では陣形編制! 第2より行軍開始!!」


 最近公園で開発された砂時計で1分で計ると、1分60歩の速さ。ゆっくりと敵の本陣1200へ近づいていく。

 敵は品川の北門からの守備兵の突出に備えて、600以上は向こうを向いている。

 東の小宮山は寡兵の上、疲労が著しい。

 西は……


「大隊長。西目黒川沿いに味方竜騎兵、およそ200! 距離500。馬場勢と交戦状態に入ります!」


 間に合った!

 後方撹乱に出ていた第4旅団の竜騎兵が西方面を遮断したらしい。あとは海岸沿いに平地があるけど、ほとんどが湿地帯。逃げ場は北西の台地だけ?



「天は我らに味方した! 敵の中央を分断する!」



 敵の弓兵が遠矢を射だした。

 距離150でなら、顔面でも射貫かれなければ問題ない。


「まずは弓兵を排除!」


 第1列目が立ち止まり、立射で7連射。42発が敵へ飛ぶ。

 22人の弓兵が倒れる。

 第2の12人は、その場で弾込めを始める。


 第2列目。6名の第3中隊射手が、7連射。28人の敵が倒れる。


 第3列。第4中隊。

 既に距離80。

 弓が当たり始めた。背負子に数本当たる。

 立ち止まり、7連射。

 31人が倒れる。


 もうほとんどの弓兵が倒れたために後ろへ下げられる。

 矢盾は見当たらない。

 全て南へ向けられているらしい。


 20人が横10列、200人の長柄がこちらを向いている。

 48人相手に近接戦準備ね。多すぎない?

 そこまでしなくてもいいのに。

 長柄なんて役に立たないことといったらない。

 頭の固い人達ね。


 両側面から、手槍装備の徒武者が50人ずつ突撃してきた。


「第1、側面射撃!」


 予備兵力の第1を投入。

 30人以上が地獄へ突撃していった。

 残りは怯み、立ち止まる。


 長柄の槍衾が迫って来た。

 もう目の前。


「散弾発射!!」


 皆の腰に吊るしてあった、ブランダーバスという喇叭らっぱ型の銃を各自2発敵の顔に向けて撃ちまくる。


 たいした被害は与えられないけれど、5m以内で小豆大の散弾を受けたら、顔でなくとも甲冑の関節部分に当たる。自分に弾が当たったことだけで恐怖を受けるだろうね。そんな経験していないだろうから。


 200人の槍衾が一瞬にして崩壊した。

 目の前には、もう信繁の馬廻りしか残っていない。


吶喊とっかんする。各自の判断で援護せよ! 上泉様、先陣を」


 槍を掻い込んだ剣聖様。

 大きく頷くと、戦場全てに響き渡るような咆哮をあげて、駆け出した。


「上野国住人、上泉伊勢守信綱! 

 武田典厩殿の首を所望致す。

 これよりは某の前に立ちはだかる者、命無いと知れ! 

 いざ、参るっ!」


 私と詩歌はその影に隠れて敵本陣へひた走る。


 でも……

 速すぎるでしょ? 剣聖様。

 置いて行かれました。

 こっちは重い鉄砲持っているんだから。


 でも皆の注意が、吶喊する剣聖に釘付けになっている。さすが天下に名だたる剣聖。

 すみません。

 囮になってもらい。


「詩ぃちゃん。行くよ!」

「……承知」


 いつもの無表情を見ると落ち着く。


 標的までの距離100。

 いえ、120か。

 これなら確実に……


「慢心は駄目」


 詩歌がいさめる。

 お見通しね、この子。

 伊達に5歳から一緒にいるわけではないのよね。

 やれやれと言う表情でいつもの狙撃態勢に入る。



 見えた!

 敵大将、武田晴信の弟、典厩信繁。

 水牛の角二本。胴に武田菱。


 この距離ならば、普通の狙撃兵だったら二連弾で胴の中央を狙う。それでも10中5も当たらないわね。

 でも、私達、八咫烏の者は頭を狙って(ヘッドショット)確実に葬れる。

 ライフル銃ならなおさら。


 これも大胡の技術の勝利。

 この公園育ちの腕前、頭に刻んであの世へ行きなさい!



 ずががが~~~ん!!!



 当たった(ヘッドショット)

 完璧クリティカル


 その脇を剣聖様が通り抜ける。そして確実に信繁の息の根を止める。

 片足を引きずる片目の男を、槍玉にあげてからさっきよりも気迫のこもった咆哮をあげた。


「大胡左中弁政賢が臣、上泉信綱。

 武田典厩信繁が首、討ち取った!!!!」



 全ての敵兵がたたらを踏み、すくみ上る。

 そこへ八咫烏大隊の銃撃が降り注ぎ、恐慌を生む。

 今度こそ武田勢は壊乱し、敗走を始めた。



 剣聖様には悪いけど、私と詩歌は隊の方へ駆ける。

 風になびく左右二つの髪の毛が邪魔ね。今度、奥方の楓様に髪をもっと纏まる形にしていただこうと切に願ったわ。


「損害報告!」

「第1中隊、戦死1、負傷2。内、一人重傷!」

「第2中隊、戦死なし。負傷3。重傷なし!」

「第3中隊、戦死2。負傷3、重傷2!」

「第4中隊、戦死なし。負傷5、内、重傷3!」


 戦死3

 重傷6……


 損耗率、2割行かなかった。

 許容範囲。

 でも、9人は助からないでしょう。

 負傷者も多分半数は不具。


「お姉ぇ、頑張った。みんな」


 詩歌が慰めというよりも、現実を認識させようと私に話しかける。


「そうね。2000の兵に対して49人で戦って大勝するとか。戦史上ないでしょう。金輪際」



 後ろから親衛隊に守られて、殿さまがやって来た。


「蘭ちゃん、詩ぃちゃんよくやったね。みんなも頑張った。今度、夜泣き蕎麦みんなで食べよ。涙でしょっぱい蕎麦は格別うまいんだよ。僕なんかいつも食べている」


 奥方様の楓様がよく仰っているわ。

「殿は、それはよくお泣きになる」と。



 だがこんな時は、このセリフを言えと殿さまに教えてもらった。


「だが断る!」


 殿さまは、眼をアサリ貝くらいの大きさに見開き、その後に大笑いを始めた。



「はははは! それ、使い方間違ってる~~♪ 今度教えるね、本来の意味~」


 少し緊張がとけたみたいね、殿さま。

 私、知っているよ、ちゃんと。

 使い方。

 でも殿さまが一番悲しむんだ。一番緊張するんだ。

 少しは慰めないとね。笑わせないとね。


「上に立つものは孤独だ。そして一番苦労する。そうしないと部下が苦労して困り果てる。だからね。蘭ちゃんは僕よりも楽していいんだよ」


 そう言われた私は、部下の皆を見てこう言った。


「部下が私を支えます。だから私が殿さまを支えますから、どうか天下を取ってください。平和な世を作ってくださいませ。そのためには私達八咫烏、大胡の先導役、先駆けをいたします。

 どうかこき使ってやってください!」


 狙撃兵の野太い声が同意を伝えて来る。

 そのムサい連中の軽やかな声が、血なまぐさい戦場だった場所をさわやかに駆け抜けていった。





 転生者は「イエス、マム」は嫌いなようで。


 もし面白かったなと評価していただければ★をお願い致します。


 なおこの作品は、拙作『首取り物語』のサイドストーリーです。ちょっと設定が変わっていますが。




 今日から別の戦国物を連載はじめました。ライト戦国物です。カクヨム様では結構読まれています。もしよかったらどうぞ!


 作品名

 光秀に転生したのでオタク文化広めていたら信長様にメッチャ気に入られた件




 カクヨムでの作品名

 光秀に転生したけど本能寺なんかせず天然娘達とオタク文化広めてスローライフ!のはずが信長様に気に入られ重用される上、俺の活躍に嫉妬した秀吉が闇落ち!?秀吉よ、手伝うからさ天下取って俺に楽させて!


 光秀(息子)が部下に祭り上げられて勝手に天下統一させられちゃう?話です。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ