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007 ゴブリンの巣窟

 林の中を警戒しながら進むこと数分。ぽっかりと木の生えていない広場に出た。


「誰か居る!」


 マルギットの声に身構えるが……。


「……冒険者ね」


 相手はゴブリンではなく同業者だった。どうやら、この広場を拠点に狩りをしているみたいだ。この広場は、見晴らしがよく、障害物も無いため戦いやすい場所だ。林の中に居るゴブリンと、洞窟の中に居るゴブリンの両方を釣れる。それに、危なくなれば、すぐにダンジョンの外に逃げることもできる。ダンジョンのモンスターは、ダンジョンの外まで追ってこないのだ。おそらく、『ゴブリンの巣窟』で一番良い拠点だと思う。できればこの広場を拠点にしたかったけど、先に取られちゃったみたいだね。


「どうすればいいの?」

「普通に会釈しておけばいいよ。この場所はもう取られちゃったから洞窟の中に入ろう」

「分かったわ」


 ルイーゼが僕の言葉に頷き、他の皆も異存は無いのか、ルイーゼに続いて洞窟へと歩いていく。


 ペコリと軽く会釈して、冒険者のパーティとすれ違う。その際、僕を見て目を丸くしている人が居た。僕のことを知っていたのかな? 勇者パーティのお荷物が、他のパーティに入っていて驚いたのだろう。相変わらず、僕は悪い意味で有名人みたいだ。


「ちょっと待ってね」


 洞窟の前でそう言って、僕は背中に背負った大きな鞄を地面に下ろす。


「何してるの?」

「何って、松明だよ。明かりは必要でしょ?」


 大きな鞄の中から松明を2本取り出す。『百華繚乱(仮)』でも用意があるだろうけど、ここは僕が率先して準備する。言ってしまえば、ポイント稼ぎだ。ポーターもどきの僕なんかの報酬が、皆と同じなんて好条件なパーティには、恩を売っておくに限る。こういう小さなところでポイントを稼いで、次につなげたい。


「1本は僕が持つとして、あと1本は誰が持つ?」

「じゃあ、あたしが!」


 ルイーゼが率先して手を上げる。


「それでもいいけど、できれば前衛の手は空けておいた方がいいかな」

「それじゃあ、私とリリーかしら?」


 僕はイザベルの言葉に頷いて応える。


「そうだね。どちらかにお願いしたいかな」

「じゃ、じゃあ、私が持ちます」


 リリーが手を挙げたので、僕はリリーに松明を1本渡す。


「けっこう重たいし、火を使うから気を付けてね」

「はい」


 松明に火を着けて、いよいよ洞窟の中に入る。


「隊列はこのままでいいの?」


 今はルイーゼとマルギット、イザベルとリリー、ラインハルトと僕という2人、2人、2人の並びだ。


「ラインハルトの火力も欲しいけど、バックアタックも警戒しなくちゃだからこのままで」


 このままキャスターとヒーラーを挟んで守るような隊列で行くらしい。


「じゃあ、行くわよ!」


 ルイーゼの声に頷いて、僕たちは洞窟へと侵入したのだった。



 ◇



「つよ…!」


 思わず感想が口から零れてしまうほどルイーゼは強かった。現れるゴブリンたちを瞬く間に倒してしまう。鎧袖一触とはまさにこのことだ。


「いえ、強すぎます……」


 僕の呟きが聞こえたのか、ラインハルトが答える。でも、強すぎるって何だろう?


「どういうこと? ルイーゼって強いんじゃないの?」

「元々ルイーゼはあんなに強くありません。ギフトだって、耐久力が上がるだけで、攻撃力が上がるわけでは……今のルイーゼは不自然なくらい強いです」


 ラインハルトには今のルイーゼは不自然に映るみたいだ。


「強いに越したことはないんじゃない?」

「はい。ですが、原因が分からなくて気持ちが悪いです……」


 そう言って、眉を寄せて難しい顔をするラインハルト。そんな顔も絵になるイケメンっぷりだ。


「ルイーゼ! 大丈夫ですか? 何か体調に変化は?」

「全然! むしろ絶好調よ!」


 ラインハルトの問いに元気に答えるルイーゼ。その姿は、無理をしているようには見えない。むしろ、肌も艶々としていて、本人が言うように調子が良さそうだ。松明のオレンジの明かりに照らされたルイーゼは、太陽の下で見た時とはまた違った魅力があった。少し色っぽく見える。


「うーむ……」


 ルイーゼの答えを聞いてもまだ不安があるのか、ラインハルトが難しい顔をして唸る。僕はそんなラインハルトを尻目に、ゴブリンのドロップアイテムを拾っていく。


 ダンジョンのモンスターは、倒すと煙のように消えてしまうが、稀にモンスター由来のアイテムを残していくことがある。それがドロップアイテムだ。


 『ゴブリンの巣窟』のゴブリンたちのドロップアイテムは、ガラクタだ。棍棒のような木の枝や木片、または錆びた金属片や鉱石をドロップする。僕たちの狙いは、金属片や鉱石の金属だ。これらはスクラップとして冒険者ギルドに買い取ってもらえる。木材は買い取ってもらえないのでスルーだ。


「や! せい! はあ!」


 ルイーゼの剣が素早く3度閃き、ゴブリンが3体煙となって消える。そのあまりの速さに、他のメンバーが手を出す暇も無いほどだ。


「ルイルイつっよ! あーしなにもしてないんですけどー!」

「すごいわね」

「すごい…」


 マルギットとイザベル、リリーが感嘆の声を上げる。そのことに気を良くしたのか、ルイーゼが剣を掲げて宣言する。


「さあ! どんどん行くわよー!」


 その言葉通り、ルイーゼの進撃は衰えること無く続いた。現れるゴブリンを瞬殺し、どんどんとダンジョンを攻略していく。そして遂にはダンジョンのボスであるゴブリンキングまで一刀の下に斬り伏せた。


「あたしさいきょー!」


 結局、全ての敵を1人で片付けてしまったルイーゼ。そんなルイーゼは、僕にかつてのアンナの姿を想起させた。間違いない。ルイーゼは勇者クラスの英雄だ。

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パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
― 新着の感想 ―
[一言] うーん、一人だけ強化されてるみたいだから、 任意の一人、または、近くに居る中で、 もっとも主人公からの好感度が高い一人を強化する能力かな だとすると、勇者パーティでは勇者のアンナだけ弱化した…
[一言] 今、流行のチートスキル系でしょうか クルトに幸あれ! 小説家になろうラジオ大賞の 千文字だけの短編を書いているので よかったらみてください
[良い点] 悲しい出だしだったクルト君ですが、新たな居場所を得られて良かったですね。ライトノベルらしい読みやすさを意識した文章だと思います。この回では、クルト君のギフトがルイーゼちゃんに作用しているの…
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