066 仲間
僕の冒険者認定レベルは5だ。レベル5ダンジョンを攻略した今、ルイーゼたちの認定レベルも5に上がるだろう。レベル5までは比較的に容易に上がるのだ。
しかし、レベル6に上がるのはとても難しい。ダンジョンの難易度がレベル6から一気に跳ね上がるからだ。そのせいで、認定レベル6以上の冒険者の数はグッと少なくなる。冒険者ギルドの庇護を受けるには、最低でも認定レベル6以上は要求されるだろう。
「それでレベル7なんだね……」
レベル6ダンジョンを1回攻略しただけでは、レベル6に認定されない。冒険者ギルドの認定レベル6というのは、レベル6ダンジョンを安定して攻略できる者にのみ与えられるのだ。認定を受けるためには、複数回レベル6ダンジョンを攻略する必要があるだろう。
しかし、それでは時間がかかり過ぎる。いつ『極致の魔剣』が貴族になるかもしれない今、なるべく急ぐ必要がある。
そこでレベル7ダンジョンへの挑戦だ。たかがレベルが1つ違うだけとはいえ、レベル6ダンジョンに比べると10倍ではきかないほど難易度が上がると言われている。
そんなレベル7のダンジョンを攻略できれば、一発でレベル6認定される可能性がある。ポーターもどきである僕個人の認定レベルは上がらないかもしれないけど、パーティの認定レベルは上がるだろう。
レベル7のダンジョンを攻略できるパーティは、数多くの冒険者パーティを抱える冒険者ギルドでも貴重だ。きっと冒険者ギルドのお偉いさんも僕たちの話に耳を傾けてくれるはず。
この方法なら、たしかに短い時間で冒険者ギルドの後ろ盾を得ることができるかもしれない。
これしか方法は無いかもしれない。しかし……。
「たしかに、レベル7のダンジョンは、私たちには未知の領域です。私たちの実力不足で敗退の可能性もあるでしょう……。しかし! 私たちには幸運なことにクルトが居ます。貴方は一度『万魔の巨城』を、レベル7のダンジョンというものを経験しています。その経験が、私たちの大きな武器なる」
『万魔の巨城』は、僕が経験した唯一のレベル7ダンジョン。ルイーゼたちが『万魔の巨城』にこだわるのは、僕の経験を買ってのことだ。たしかに、僕は『万魔の巨城』の安地や細かな情報が書かれた地図を手元に持ってるし、他のレベル7ダンジョンよりも情報が集まっている。レベル7ダンジョンに挑戦するなら、『万魔の巨城』が一番攻略できる確率が高い。しかし……。
「まだ浮かない顔をしているわね。そんなに心配かしら? 私たちもそこそこの実力は持っているはずだけど?」
僕の心を見透かしたようなイザベルの言葉にドキリとする。そう。ルイーゼやラインハルト、イザベルの言葉を聞いても、僕の心は晴れないでいた。だって……。
「僕は『融けない六華』の実力を信頼しているよ。ダンジョン攻略も無い日も、皆で集まって本気の殺し合いみたいな試合をしているし、勤勉で、真面目だ。一人一人の実力も、もう全盛期のアンナを超えているかもしれない。『極致の魔剣』は勇者1人の力で『万魔の巨城』を攻略できた。勇者が3人もいる僕たちだ。たとえレベル7のダンジョン相手でも、僕たちなら攻略できるかもしれない。僕は一度攻略に付き合っているし、地図や情報も集まっているからね」
「そうよクルト! 私たちならきっとできるわ!」
「私も同じ意見です。私たちならば、きっとやり遂げることができるでしょう」
僕の言葉にルイーゼとラインハルトをはじめ、皆が頷いて答えた。
「自分でも客観的に見ることができているようね。安心したわ。でも、貴方はまだ憂い顔のままだわ。いったい何を恐れているの?」
「そーそー。クルクルは心配症なんだよ! あーしらならきっとできるって!」
「大丈、夫…!」
僕を安心させるように、イザベルが、マルギットが、リリーが言葉を重ねる。しかし、僕の迷いは晴れない。だって……。
「その……皆の気持ちはすごく嬉しい。本当だよ。僕なんかのために、ここまで思ってもらえるなんて、望外の喜びだ。感謝してもし足りないくらいだよ。でも……それはあくまで僕個人の事情なんだ」
そう。『極致の魔剣』の件は、あくまでも僕個人の問題なんだ。皆には関係ない、僕一人の問題。時間的な制約があるという僕個人の問題で、パーティの皆に敢えて危険な道を選ばせるのには抵抗があった。
「ハルトも言っていたけど、次はレベル6のダンジョンに挑戦するのが最適解だよ。僕個人の問題で、皆が無理をする必要は無いんだ。だから……」
「バカクルト!!!」
突然、僕の言葉を遮って、ルイーゼが叫ぶ。椅子からも立ち上がって、すごい剣幕だ。圧倒されるものがあって、僕は次の言葉を紡げなくなってしまった。
「いーい? クルトはもう仲間なの! 仲間のピンチに助けないなんて、そんなの嘘だわ! このままじゃヤバいんでしょ? あたしたちをもっと頼りなさいよ!」
「ルイーゼ……」
僕の迷いなんて知ったことかとばかりに、ルイーゼが強く断言してみせる。そのあまりの大声に、店に居た他の客がこっちを振り返るほどだ。
「そうですクルト。もっと私たちを頼ってください」
「そうよ。そんな水臭いこと言ってないで、素直になりなさいな」
「だよねー。クルクルってば、あーしらのことナメすぎ! 仲間のピンチには絶対助けるし!」
「助け、るよ…? 当たり、前……」
ラインハルトが、イザベルが、マルギットが、リリーが、皆がもう決意を固めた表情で僕を見ている。
「皆……」
皆には1つもメリットが無いのに、それでも、仲間のためにと立ち上がった。その姿は、僕にはとても尊いものに見えた。こんな素晴らしい人たちに、仲間と呼んでもらえるなんて……僕は果報者だ。
知らず知らずのうちに景色が歪み、目を閉じた時には一筋の涙が僕の頬を伝って落ちる。
あぁ……僕はこの恩に、どうすれば報いることができるのだろう。
「ありがとう……」
僕は震える喉でそれだけの言葉しか紡ぐことができなかった。
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