060 レベルアップ
「まるほど……。でしたら、この私の大剣を入れてみますか? そのポシェット型の宝具に、この大剣は物理的に入りません。もし、大剣が入ったら、空間拡張の宝具と確認できるのでは?」
ラインハルトが背中に背負った真っ黒な大剣の柄を握って言う。たしかにその通りだけど……。
「うーん……。もしかしたら、剣にだけに反応する変化のマジックバッグかもしれないから止めておこう」
ラインハルトの背負う真っ黒な大剣、ビッグトーチはラインハルトのメイン武器である宝具だ。もし失ってしまったら、取り返しがつかない。そんな危険な賭けをする必要は無いだろう。
「そんな限定的な宝具があるの?」
僕は、相変わらず黒いドレスを着たイザベルの問いに頷いて答える。
「ありえるよ。なんでもありえるのが宝具だからね。これ以上は本職の鑑定士に任せた方がいいかな」
「なるほどねー。その空間かくちょー? のマジックバッグだったらいいわね」
「そうだね」
僕はルイーゼの言葉に頷き、同意する。僕としても、空間拡張のマジックバッグであってほしい。ポーターもどきである僕は、持てる荷物の量に限界がある。そして、その限界はすぐに訪れる。僕自身が持てる量などたかが知れているのだ。今のままでは、持ち運べる食料の関係で、どうしてもダンジョンを攻略する時間に限界がある。
その限界を突破できる可能性を持っているのが、空間拡張のマジックバッグだ。
ポーターもどきと呼ばれている僕が、一気にガチポーターの仲間入りできるほど強力な、まさに魔法の鞄である。まだ、どんな効果のマジックバッグかは分からないけど、レベル5ダンジョンのボスがドロップした宝具だ。それなりの性能があるだろう。今から宝具の鑑定結果が楽しみだ。
◇
ダンジョンのボスを倒した今、ボス部屋は安地となった。僕たちはこのボス部屋で休息を取ることにしたのだった。
ダンジョンのボスを倒すと達成感を感じるけど、全体から見れば、やっと半分の工程を終えたところだ。帰りもまた危険なダンジョンの中を進んで帰るしかない。家に帰るまでが冒険というのは、冒険者の中では常識だ。
「ねー、クルト。水ちょーだい」
「はい」
ルイーゼの言葉に、僕は水差しとコップを鞄の中から取り出した。冒険者の持ち物には不釣り合いなほど繊細な細工が施された銀の水差しである。しかもこれ、ただの水差しじゃない。実はこれも宝具なのだ。“永遠たる水脈”と大層な名前が付いているが、その名の通り、永遠に新鮮な水が出てくる水差しである。僕がこれまでの冒険で得た報酬の大部分を投じて買った宝具である。この宝具のおかげで、僕たちの水問題は一気に解消された。間違いなく有能な宝具だ。まぁイザベルには「そんなどこの水かも分からない水を飲むのは気持ち悪い」と不評だけどね。
「ありがと」
「クルクルー。あーしにも水ちょーだい」
「私、も…」
「私にもください。この先いつ水が飲めるのか分かりませんからね。ここで補給しておきましょう」
「そうね。私にも一杯くださる?」
「分かったよー」
僕はパーティメンバーの全員に水を渡していく。渡しながら、皆の顔色を見て調子を確認していくのも忘れない。僕は戦力にはなれないし、ポーターとしても一流とは呼べない。それでも僕は、このパーティのリーダーだ。僕なんかにできることは限られているけど、少しでも皆の役に立ちたい。この皆の健康状態の確認もその1つだ。
ルイーゼがコップの水を一気に呷ると、こちらに向けてコップを差し出した。
「もう一杯ちょーだい」
「了解」
そんなに喉が渇いていたのだろうか? 僕は少し不思議に思いながらルイーゼの持つコップに水を注ぐ。
「ありがと」
ルイーゼはそう言うと、なぜかいきなり剣をすらりと抜き放つ。現れたのは、どこまでも真っ白な穢れ一つ無いまさに純白の刀身だ。まるで白い芸術品のような優美な剣。ルイーゼはその剣へとコップの水をかけ始めた。
ダンジョンのモンスターは、倒すと煙となって消えてしまうため、武器が血や脂で汚れることは無い。そのため、武器を洗浄する必要など無い。たぶんメンテナンスだろう。
ルイーゼの持つ白亜の剣。名は“手折られぬ氷華”ヴァージン・スノー。宝具だ。そう能力は、水をかけると剣が修復することだ。刃の欠けに限らず、たとえ真っ二つに折れようとも水をかけるだけで修復される。
宝具の剣と聞くと、火や雷を纏ったり、強力なビームを出したりする宝具を想像しやすいけど、中にはこんな宝具もある。宝具の能力として地味な部類だけど、有能な宝具だと思う。鋭い切れ味を誇る名剣と言ってもいい宝具だし、文字通り不朽の名剣だね。
こうやって見ると、皆の装備は当初の初心者丸出しの装備に比べると、格段にレベルアップしていた。ルイーゼやラインハルトの防具も、お粗末な皮鎧から要所要所に金属を使った防具になっているし、見た目はもう一人前の冒険者だ。
装備がレベルアップした皆の中で、特に目を引くのは軽くステップを踏んでいるマルギットだろう。その膝下を覆う3つの翼の生えた真っ赤な脚甲は、とても目立つ。あの派手な脚甲も宝具である。名前は“衝撃の赤雷”ブーステッド・シェルブリット。発動すると、まるで足裏が爆発でもしたかのような勢いの推進力が生まれるだけの宝具だ。普通に使うとコケるだけである。そんな扱いの難しい宝具を敢えて選択したマルギットの真意は分からない。
「ふふふふふーん♪」
上機嫌にステップを踏むマルギット。もしかしたら、その性能ではなく見た目に惹かれたのかもしれないね。それでいいのかと思わなくもないけど、マルギットが幸せならOKです!
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