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058 砦の陥落

 成人男性を優に超える縦にも横にも大きく分厚い巨躯。その巨体を包むのは、黒金の暴力的な印象を抱かせるフルプレートだ。背中の深紅のマントは豪奢で、まるで持ち主の位の高さを示しているようだ。ヘルムを被っていない頭部には、鈍い三角形の広いピンクの耳。そして、なにより特徴的なのは、その鼻だ。まるで捲り上げたかのように鼻の穴を曝す大きく丸い鼻は、豚の鼻のようだ。オーク。それもまさしく王の威容を誇るオークキングは、ゆっくりと真ん中から左右に分かたれる。その瞳は、もはやなにも映してはいない。まさしく死んだ目だ。


 左右に分かたれ、白い煙となって消えるオークキングの向こうに見えるのは、小柄な金髪の可憐な少女。この目で見ていたのに、本当にこの少女がオークキングを一刀の下に両断したのか疑問に感じてしまうほど、少女の体は華奢だった。その細くしなやかな体を覆うのは、革を金属で補強した武骨ながらも女性らしさを感じさせる鎧だ。少女の持つ剣は、どこまでも白く、細工物のように繊細な細工が施されている。剣を真上に振り抜いた姿で残身を残している少女の様子は、まるで優れた美術品のように美しい。


 剣の少女、ルイーゼが剣を下ろすと同時に、僕は呼吸を止めてルイーゼに見惚れていたことに気が付いて、静かに息を吐き出した。ここはレベル5ダンジョン『オーク砦』のボス部屋だ。石造りの堅牢そうな部屋の中には深紅の絨毯が敷かれ、壁には大きな旗や剣が飾られており、部屋の主の格の高さ、武骨な気風を感じさせた。部屋の主、ボスであるオークキングが“キング”と呼ばれる所以だろう。


 その王たる威容を誇ったオークキングを打倒したのがルイーゼだ。すごいな、ルイーゼは。レベル5ダンジョンのボスを一撃だなんて、完全に勇者の力を自分のものにしたと言ってもいいのではないだろうか?


 勇者の力は、誰でも使いこなせるものではないことを、僕は身をもって知っている。勇者の力は、人の身で使うにはあまりにも過ぎた力だ。大きすぎる力は、身体への負荷も大きい。僕には分からなかったけど、おそらく正しい力の使い方があるんだと思う。たぶん、これも1つのセンスなのだろう。僕には無かったみたいだけど、ルイーゼたちにはそのセンスがあるみたいだ。あるいは、これも僕自身が勇者になる適性が無いことの表れなのかもしれない。


「お疲れ様、ルイーゼ。レベル5のボスを一撃で倒すなんてすごいよ!」


 僕の言葉に、凛としたルイーゼの表情が柔らかく解け、花が咲くような笑みを見せる。かわいい。


「すごいのはクルトよ。これもクルトのおかげよ。ありがとう」


 ルイーゼは褒めてくれるけど、僕はなにもすごくない。すごいのは、勇者の力を完璧に操っているルイーゼの方だ。


「ルイーゼ、お疲れ様です。見事な太刀筋でした」

「おつおつー! ルイルイつっよーい!」

「おつ、かれ……さま」

「お疲れ様。あら? あれは……? ドロップアイテムかしら?」


 いつもの黒いドレスに身を包んだイザベルの言葉通り、オークキングが煙となって消えた場所に、革製のシンプルなポシェットが落ちているのが見えた。オークキングのドロップアイテムは、武具か宝具と決まっている。ということは、あのポシェットは宝具だろう。鞄型の宝具。もしかして……!


「まさか、マジックバッグですか!?」


 ラインハルトの驚きの声に、皆の視線がポシェットに集まる。そうだね。鞄型の宝具なら、マジックバッグが一番有名かつ、全ての冒険者の憧れの品だ。ラインハルトが珍しく声を荒げるのも分かる。どんなにしょぼい性能でも軽く金貨100枚は下らないからね。今の僕たちは、宝くじに当たったかもしれないとワクワクドキドキしている状態だ。


「マジックバッグってあのっ!?」

「まじっ!?」

「ほんと、にっ…?」

「まさか、私たちが引き当てるなんてね……。本物なのかしら?」


 ルイーゼ、マルギット、リリー、イザベルの視線はポシェットに釘付けだ。しかし、誰も手に取ろうとしない。予想外の事態に、まるで皆が凍ってしまったように固まっていた。


 皆の視線が集まる中、僕はポシェットを拾い上げる。


 見た目はごく普通の革のポシェットみたいだ。飾り気は皆無。とてもシンプルな作りをしている。


「どう? ほんとにマジックバッグ?」

「ッ!?」


 ルイーゼが、僕の肩からひょっこりと顔を出し、ポシェットを覗き込む。僕は、顔の真横にルイーゼの顔があって驚いてビクッと震えてしまった。だって、微かにルイーゼの体温を感じるほど顔が近い。


 僕の震えが伝わったのか、ルイーゼが僕を見る。その澄んだ青い瞳の中に僕の顔が映された。


「ぁっ!?」


 顔がくっついてしまいそうなほど近いことに今更気が付いたのか、ルイーゼが小さく驚きの声を零す。そして、みるみるうちにその顔を赤く染めていった。


「ごごご、ごめん……!」


 慌てて僕から距離を取るように跳び退るルイーゼ。


「いや……」


 僕は緊張からの解放感と、ルイーゼが離れてしまって寂しい気持ちを抱えながら、それだけ口にするのだった。

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パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
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