042 友だち
イザベル、リリーから求婚?されて、僕は舞い上がっていた。2人とも思わず振り返ってしまうほどの美少女だ。そんな美少女たちから求婚される日がくるなんて……。僕に興味を持ってもらえてるだけで、仲間として認めてもらえたことだけでも嬉しいのに……。
でも、2人と会うのは今日で2回目だ。いくらなんでも、さすがに気が早いということで、まずはお友だちからということになった。そして、お友だちなら私たちともなりなさいよということで、ルイーゼ、マルギット、ラインハルトとともお友だちになった。
なんだか改まってお友だちになろうなんて、少し心がムズムズする恥ずかしさがあった。まぁ、元々命を預け合うパーティメンバーなんだから、既にお友だち以上の関係と言えるのかもしれないけど、それはだけではなんだかビジネスパートナーという感じがして心が通ってない気がする。僕はルイーゼたちのお友だちの輪の中に入れてもらえて、素直にとても嬉しかった。
僕に、また友だちと呼べる存在ができるなんて、思いもしなかったな。僕はアンナたちの影響か、いつの間にか自分は人に劣る存在であると思い込んでいた。こんな僕に友だちなんてできるわけがないとどこかで諦めていたところがあった。そんな僕の知らないうちに、無意識にできてしまった心の殻を壊してくれたルイーゼたちには、どう感謝したらいいのか分からないくらいだ。
「ここが下層? あんまり変わり映えしないわねー」
ルイーゼの呟きに、僕は幸せな気分から現実へと引き戻される。松明に照らされた剝き出しの土壁、湿り気を帯びた冷たい地下の土臭い空気。そうだった。今はダンジョンの攻略中だった。ここが安地だからって、気の抜き過ぎはよくないよね。
無数の冒険者たちによって踏み均されたスロープのような下り坂を下りると、『コボルト洞窟』の下層へとたどり着く。ここから先は、レベル3相当。ここからがレベル3ダンジョン『コボルト洞窟』の本番だ。たぶん大丈夫だと思うけど、気を引き締めないといけない。
「まずは空いている安地を探しましょうか」
「たぶん、その必要は無いよ」
僕はラインハルトの言葉をやんわりと否定する。
「それはなぜでしょう?上層と中層はモンスターの取り合いをしているほど、どこもかしこも混んでいましたが……」
「下層はモンスターを倒すよりダンジョンボスを倒す方が人気なんだよ」
『コボルト洞窟』のダンジョンボスであるコボルトキングは、実はそんなに強くない。下層で狩りができる実力のあるパーティなら難無く倒せてしまう。
むしろ、一度にたくさんのモンスターに襲われる“リンク”の危険がある下層での狩りの方が、よほどリスクが高いくらいだ。
そんなちょっと残念な感じが漂うコボルトキングだけど、人気な理由はただ弱いからだけじゃない。
「コボルトキングは本当に極稀にだけど、金鉱石をドロップするんだ」
「金!?」
ルイーゼが目をまん丸にして大げさに驚く。かわいい。けっこう有名な話なんだけど、ルイーゼは知らなかったみたいだ。
「でも、昨日集めた情報にそんなの無かったわよ?」
昨日、一緒に情報収集したルイーゼが、首をコテンと傾けて疑問の声を上げる。たしかに、昨日集めた情報の中には無かったけど、昨日一日だけではなく、長い間情報収集をしていた僕は知っている。
「たしかに、そのようなお話があると聞いた覚えがあります。ですが、金鉱石をドロップするという話自体、可能性の低い話でしたから。それに、話自体がガセだという情報もありましたし、ダンジョンの攻略には直接関係無い情報でしたので、無駄に期待させることはないと黙っていました」
どうやらラインハルトは知っていたらしい。さすが、『百華繚乱(仮)』の情報収集担当だ。
「言ってよ! そういうワクワクする話は!」
「そーだ! そーだ!」
「ダンジョンの攻略には関係無いですし、起きる可能性の低い不確かな情報ですよ?」
「そこにロマンがあるんじゃない!」
ルイーゼとマルギットに詰め寄られ、ラインハルトは処置無しとばかりに肩を竦めてみせる。ルイーゼとマルギットはロマンを求め、ラインハルトは現実主義、あとの2人も呆れた顔をしているから現実主義っぽいね。
「一応補足しておくと、金鉱石をドロップするのは本当だよ」
「やっぱり!」
「いーじゃん!」
僕の言葉にルイーゼとマルギットが目を輝かせる。
「そうなんですか? 私が情報収集したところ、どうやらガセの方が有力でしたが……」
「ガセネタってことにしたい人たちが居るんだよ。たぶん、今日も居るんじゃないかな?」
ダンジョンのボスであるコボルトキングが、金鉱石をドロップするという情報をガセネタにしたい人たち。それは、実際にコボルトキングを狩って金鉱石を狙っている人たちだ。
ダンジョンのボスは、普通のモンスターとは違い、一度倒すとリポップまでに長い時間がかかるのが一般的だ。その結果、コボルトキングのようなドロップアイテムの良いダンジョンでは、ダンジョンボスの奪い合いが起きることになる。冒険者に譲り合いの心とか、順番に並ぶなんて行儀の良いマネを期待してはいけない。
ただ、冒険者にも最低限のルール、暗黙の了解が存在する。それが、一番最初に攻撃を当てた者が自分の獲物にできるというファーストアタック呼ばれるルールだ。つまりは早い者勝ちである。なんともシンプルで分かりやすいね。
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