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023 【勇者の友人】

「それはね、【勇者】を決めるのは僕だからだよ」


 僕の言葉に、イヤイヤと首を横に振っていたアンナの動きが止まり、まるで時が止まったかのように静寂が訪れた。『極致の魔剣』の皆が、僕の言葉の意味を理解できず、フリーズする。


「君は、何を言っているんだ?」


 いち早く再起動したのは、アレクサンダーだった。アレクサンダーが、困惑に眉を寄せて問うてくる。


「そうだ、どういう意味だ?」

「てめぇは何を言ってやがる?」


 遅れてルドルフとフィリップが声を上げる。その顔にはアレクサンダーと同じく困惑が浮かんでいた。


 アンナがゆっくりと顔を上げ、僕を見る。表情を動かす余裕すら無いのか、その顔は無表情だ。


 いきなり結論から言われても、皆理解できないみたいだ。懐疑を通り越して、もはや僕を責めるような視線を寄越す。仮にもパーティに誘った仲間に向ける目じゃない。彼らにとって、僕はもう仲間じゃないということだろう。悲しくはなかった。でも、心にぽっかりと穴が空いたような心地がした。


 僕の言葉がどれだけ彼らに届くかは分からない。もしかしたら、信じてもらえないかもしれない。彼らにとっては辛い話だろうから。でも、ちゃんと一から話そう。僕は彼らに納得してほしくて真摯に口を開く。


「質問だよ、アレクサンダー。僕のギフトの名前はなんだったかな?」

「【勇者の友人】だろう? 何を今更……」

「そう。【勇者の友人】だ。じゃあ、その効果は?」

「効果は不明だったはずだ。勇者に関連すると思われるが……まさか、効果が分かったのか?」


 僕はアレクサンダーの言葉にゆっくりと頷いた。


「【勇者の友人】は、友人を強化するギフトなんだよ……。強化する値は、その友人との友情、信頼度と言ってもいいかな? それによるんだ」


 アレクサンダーたちの顔がますます困惑に歪んだのが見えた。


「君のギフトの有用性は分かった。だが、それが【勇者】と何の関係がある?」

「そうだ、てめぇはさっきから何言ってやがるんだ!?」


 フィリップの怒声に怯むものを感じながら、僕は続きを告げる。


「関係大アリだよ。なにせ、この友人の中から僕が【勇者】を選ぶんだから」

「その【勇者】を選ぶというのが分からない。君には、人に【勇者】のギフトを授ける力があるとでもいうのか?」


 アレクサンダーの問いに僕は頷いて返す。


「そうだよ」

「「!?」」

「は!?」

「あ!?」


 僕の言葉が信じられないのか、『極致の魔剣』の面々が目を剥いて驚きを露わにした。


「そんな神のような御業が……!?」

「そういうギフトなんだよ。僕を含めて皆、勘違いしてたんだ。【勇者の友人】はただの【勇者】のオマケのギフトじゃない。むしろ、【勇者】のギフトが【勇者の友人】のオマケなんだよ」


 予想外だったのだろう。あまりの真実に言葉を失うアレクサンダーたち。しかし、その中でただ1人、希望を見つけたと瞳を輝かせた者が居た。アンナだ。


「じゃ、じゃあ、クルトが選んでくれれば、私はまた勇者になれるってこと?」


 アンナが上目遣いに媚びた視線を送ってくる。僕には、そんなアンナの姿がとても汚れたものに見えた。


「そうだけど……」


 僕が肯定するとアンナの顔がパアッと輝いた。


「僕はアンナを【勇者】に選ぶつもりはないよ……」

「どうしてよ!?」


 アンナが立ち上がると、テーブルを両手でバンッと叩いて僕を睨み付ける。なんだか怒った猿みたいだ。


「さっき言っただろ? 僕のギフトは友人を強化するギフトなんだ。その強化する値は、その人との信頼度によるんだよ。僕が君を信頼していると思う? 僕たちの関係は、もう終わってるんだよ……」

「でも! でもでも! あなた私のこと好きでしょ?」

「は……?」


 今更何を言い出すんだ?


「好きなら私のこと【勇者】にしてよ!」

「………」


 あんまりな言い分に思わず閉口してしまう。アンナを好きな気持ちは確かにあった。でも、それはもう遠い過去の話だ。今更アンナを好きな気持ちなんて、これっぽっちも無い。僕は静かに口を開く。


「先に僕を捨てたのはアンナ、君だろう? だから、僕も君を捨てることにしたんだ」

「イヤぁ……なんで……なんでそんなこと言うのよ……」


 ついには泣き出して座り込んでしまったアンナ。


「ごめんなさい……ごめんなさい、クルト……」


 アンナは、今更泣きながら謝罪を口にする。


 アンナ、全てが遅すぎたんだよ。今更仲の良い幼馴染に戻るには、2人の間にできた溝は、あまりに深すぎた。


 そんな僕とアンナのやりとりをじっと観察していたアレクサンダーが口を開く。


「ふむ。アンナが【勇者】になれないことは……分かった」

「アレク!?」


 アンナが悲鳴のような声を上げるのも構わず、アレクサンダーは話を続ける。きっと彼の中でアンナはもう切り捨てられたのだ。彼にとって必要なのは、あくまでも【勇者】の力であって、アンナ本人ではないということだろう。


 アンナも僕も人を見る目がない。どうして彼のような人物をリーダーにしてしまったのだろう。


「アンナがダメなら、私はどうだ? 私じゃなくても、ルドルフやフィリップでもいいぞ」


 アレクサンダーは、なにを言っているんだろう。アレクサンダーが【勇者】? そんなこと到底許容できない。どんなに外面が良くても、見えないところで“いじめ”なんかする奴のどこが【勇者】に相応しいのだろう。必要が無くなれば、たとえ仲間だろうと恋人だろうと容赦なく切り捨てる。アレクサンダーは、情も情けも無い鬼畜だ。本当に、なんでこんな奴をリーダーにしてしまったのだろうね。


 ルドルフやフィリップについても同じだ。彼らは、アレクサンダーがアンナを切り捨てる判断をしてもなにも言わない。彼らもアンナを見捨てたのだ。そんな奴らが【勇者】になるなんて認められない。

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パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
― 新着の感想 ―
[一言] >アンナがダメなら、私はどうだ? どの口が言ってんだよwwwwww さすがに無理がある 昨日の今日で、クルトからの親愛度が高いと思ってるの? 仮に追放時にクルトを庇っていても難しいな せめ…
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