022 失墜
「では、質問だクルト。先にも言ったが、最近アンナの不調が続いていてね。君はその原因を知っているかい?」
調子が悪い、ね……。
アレクサンダーの濁した物言いに、僕は苦笑いを浮かべてしまう。
「知ってるよ」
「なにッ!?」
僕の答えを聞いて、アレクサンダーがイスから立ち上がっていた。先程まで浮かべていた余裕の色も無い。完全に僕の答えが予想外だったのだろう。
アンナは『極致の魔剣』の要。アンナの【勇者】の力は、『極致の魔剣』にとって無くてはならないものだ。アンナは【勇者】の力の謎の不調に苦しんでいる。その影響は、『極致の魔剣』パーティ全体へと及んでいる。ここしばらく『極致の魔剣』がダンジョンの攻略に乗り出さないのも、全てはアンナの不調が原因だ。
「クルト、君は何を知っているんだい? やはり君のギフトと関係がッ!?」
執務机に身を乗り出したアレクサンダーが、唾を飛ばして問いかけてくる。必死だね。
「ねぇクルト。何か知ってるなら教えて。私、本当に困っているの。だから……」
アンナが、まるで縋るような表情で僕を見る。たしかに、当事者であるアンナには、人生を左右するほどの重要な問題だろう。
「クルト、なぜ君がアンナの不調の原因を知っているのかは、今は置いておこう。君の知っていることを話してもらおうか」
アレクサンダーが、獲物を見つけた猛禽類のような鋭い瞳で僕を射貫く。
まぁ、それはそうだろう。彼ら『極致の魔剣』にとって、勇者の存在は必要不可欠なものだ。『極致の魔剣』は勇者を擁するから一線級の冒険者パーティでいられるのだ。勇者の居ない『極致の魔剣』なんて、せいぜい二線級、下手をすればそれ以下の存在でしかない。『極致の魔剣』は、勇者1人の力に頼っているパーティなのだ。その勇者の不調。治せるものなら治したいだろうし、そのための情報があるのなら喉から手が出るほど欲しいに違いない。
「うーん……」
僕はちょっと迷う。真実を話すべきか否か。でも、やっぱり真実を知って絶望してもらった方がいいかな。だって真実が一番救いが無いのだから。
「まずさ、不調って誤魔化すの止めない?アンナは【勇者】のギフトを失ったんだよ」
「「!?」」
僕の言葉に驚いた様子を見せたのがアレクサンダーとアンナ。ルドルフとフィリップの2人は、何を言っているのか分からないと疑問の表情を浮かべている。どうやらアレクサンダーとアンナは、ルドルフとフィリップにそこまで話していなかったみたいだ。いつものように調子が悪いとだけしか知らせていなかったのかな。
「てめぇは何を言ってんだ?」
フィリップの言葉にルドルフが頷く。2人は、まるで僕が嘘を吐いているかのように僕を責めるような視線を送ってくる。まぁ2人の気持ちも分からなくもない。ギフトは神様からの賜りもの。神様は余程心が広いのか、ギフトを失ったなんて話は聞いたことが無いからね。
「僕じゃなくてアンナに訊いてみなよ。今回は、今までの不調とはわけが違う。アンナは【勇者】のギフトを失ったんだ。今のアンナはもう【勇者】じゃない。【勇者】の力を何1つ使えない、か弱い存在でしかないよ」
僕があまりに自信たっぷりに言うからか、ルドルフとフィリップが顔を見合わせて、その視線がアンナへと向く。
「アンナ、本当なのか?」
「その……」
ルドルフの問いに言葉を詰まらせるアンナ。それを援護するようにアレクサンダーが口を開く。
「今回の不調が、今までに無いほど深刻なものであることは事実だが、ギフトを失うなんてことがあるはずが……」
「失ったんだよ。僕を疑うのなら、教会に鑑定してもらうといいよ」
僕はアレクサンダーの言葉を遮って断言する。教会がギフトに関して、神様からの賜りものに関して嘘を言うはずがないからね。教会の言葉なら『極致の魔剣』の面々も信じる他無いだろう。
「なんで失ったなんて言い方するのよ。それじゃあ、まるで……」
アンナが僕を睨みつつ、しかし、怯えを含んだ震えた声で言う。実際に【勇者】だったアンナには、何か予感のようなものを感じられるのかもしれない。
「そうだよ。失ったものは、もう元には戻らないんだ。アンナが【勇者】になることは、もう無いよ」
「あ、ア、あぁ……ッ!」
僕が断言すると、アンナがおかしな声を上げて首をゆっくり横に振る。そして、もうこれ以上聞きたくないと言わんばかりに両手で耳を押さえ込んだ。
「イヤよ、イヤイヤ!なんであなたがそんなに自信満々なのよ?! いつも通り、また元に戻るかもしれないじゃない!」
まるで駄々っ子のように嫌々と首を振るアンナの姿に呆れてしまう。これが今まで【勇者】だったのかと思うと、なんだか神様に申し訳ない気持ちまでしてくる始末だ。
アレクサンダーたちはアンナの急変に言葉も無い感じだね。アンナの態度が、事態の深刻さをそのまま物語っていると言ってもいいんじゃないかな。
「なんで……ね」
アンナも不思議に思っているし、ここで結論を言ってしまおうかな。
「それはね、【勇者】を決めるのは僕だからだよ」
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