021 再会
『極致の魔剣』の拠点、作戦室。昨日、僕がクビを告げられた場所でアレクサンダーたちは待っていた。部屋の奥の執務机にアレクサンダー。手前のテーブルの左右に置かれたソファーには、右にルドルフとフィリップ。左にアンナが座った。僕はどうしようかな? テーブルを挟んで仲良く談笑する気も無いし、このまま立っていようかな。
「座らないのかね?」
「このままでいいよ。それより話って?」
そうアレクサンダーに不愛想に返すと、アレクサンダーたちが少し驚いた顔を見せた。そうだね。今までの僕なら、こんな反抗的な態度は取らないね。何をされても、何を言われてもへらへらと愛想笑いを浮かべている。それが今までの僕だ。
「随分と嫌われてしまったようだ」
そう言って肩を竦ませて苦笑いを見せるアレクサンダー。それに釣られたのか、ルドルフとフィリップも苦笑を浮かべる。どうして笑えるのだろうね?ひょっとして、嫌われていないと思っていたのだろうか? それはいくらなんでも頭がお花畑すぎるだろう。
「話というのは他でもない。クルト、君のギフトに関してだ。実は、あれからアンナの調子が一層悪くなってね。やはり君は、パーティに必要な人材なのではないかと結論が出たんだ。どうだろう? 昨日のことは忘れて、今まで通りこの5人でパーティを組むというのは?」
勝手な言い草だ。アレクサンダーの言葉は僕の予想を超えるものではなかったし、僕の望むものではなかった。
「はぁー……」
僕はこれ見よがしに大きなため息を吐いてみせる。一目で僕が失望したことに気が付くだろう。
「てめぇ、なんだ、その態度は?」
それにキレたのがフィリップだ。彼は今にも僕に掴みかからんばかりに腰を軽く浮かせている。
僕はフィリップを一瞥して、アレクサンダーを呆れた目で見る。
「躾がなってないけど?」
「てめぇッ!」
「フィリップ! 黙っていろ。今は私とクルトが話している」
ついに立ち上がったフィリップは、しかし、アレクサンダーの声に制止される。間に指1本入るかどうかという超至近距離で睨み付けてくるフィリップ。僕とキスでもしたいのだろうか?
「てめぇ、覚えてろよ」
「臭い」
「ッ!?」
僕の一言に激昂しそうになったフィリップだったが……。
「フーッ! フーッ!」
呼吸を荒らげて僕を睨み付けるだけだ。
「だから臭いって」
フィリップの中でアレクサンダーの命令はそれほどまでに重いらしい。
フィリップは僕を睨み付けたまま器用に後ろに下がると、ドスンッとソファーに座った。まだその目は僕を睨み付けたままだ。よほど怒っているようだ。
「君は本当にクルトかい? たった1日で随分と変わったように見えるが……」
当然だろう、君たちにとって都合の良い“良い子”な僕なんてもう居ないのだから。
「それよりも、パーティに戻らないかという話だったね? もちろん、答えはNOだよ」
今までの僕なら、例えば、パーティを追放された直後の僕なら、アレクサンダーの思惑通り、彼に縋っていたのかもしれない。でも、一度外に出て自らの環境の異常さに気が付いた僕には、ルイーゼたちの温かな人の心を知った僕には、とてもではないけど受け入れがたい言葉だった。
「君はもう少し賢い男だと思っていたのだがね。自分の状況を理解しているかい?」
アレクサンダーが一気に顔を険しくする。僕の答えが気に入らなかったのだろう。
僕は独り、助けの当てもなく、『極致の魔剣』のメンバーに囲まれている。フィリップは僕への敵意を隠そうともせず、アレクサンダーの号令一つで、僕はすぐさま制圧されてしまうだろう。一見、絶望的な状況だ。
そんな中、独り反抗するなんて、なんの意味も無い行為。それぐらい僕にも分かっている。でも、アレクサンダーの言葉に頷くわけにはいかなかった。それはルイーゼたちへの、こんな僕を受け入れてくれた『百華繚乱(仮)』のメンバーたちへの裏切りだ。絶対に承服するわけにはいかない。
「ふむ、なるほど。強い意志を感じる瞳だ。意思ごと折ってもいいが……こちらの骨が折れそうだな」
アレクサンダーが、僕をそう評してみせた。たしかに、僕は今、並々ならぬ覚悟を抱いてこの場に居る。そうでなくては、わざわざアンナに誘われて、自ら窮地に陥るようなマネはしない。
僕は、アレクサンダーたち『極致の魔剣』と完全に縁を断つために、この場に来ているのだ。
「ふんっ。生意気な瞳だ。その瞳に免じて、君に質問してあげよう。このたった一つの質問に答えることができたら、君は自由だ」
しばしアレクサンダーと睨み合った後、アレクサンダーが、苦い表情を浮かべて言った。しかし、その表情には、まだまだ余裕の色が透けて見えていた。アレクサンダーにとって、僕がこの屋敷に来た時点で、どう料理するのも自由という余裕の表れなのだろう。
アレクサンダーは、僕の生殺与奪の権を握っていると確信しているのだろう。
きっと、自由にするという口約束も、僕に期待を持たせるための一時の嘘に違いない。
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