018 情報収集②
「じゃあ次は冒険者たちに尋ねて回ろうか」
何回かルイーゼから単語の質問が飛んで、ようやくボードに貼り出された冒険者ギルドが公開している羊皮紙の情報を読み終えた僕たちは、冒険者ギルドに併設された飲食スペースへとやってきていた。
熱心に冒険の打ち合わせをしているパーティの姿や、朝から飲んだくれている者の姿まで見える。他にも、いつから飲んでいるのかバカ騒ぎをしているパーティも居れば、いかにも暇そうにボケーとしている者の姿も見えた。
「まずは僕がお手本を見せるよ」
僕はそう言って、朝から酒をちびちび飲んでいる男へと近づいていく。
「あのー、すみません」
「あ? んだ? って、よく見たら勇者様の腰巾着じゃねぇか。腰巾着じゃねぇな。元腰巾着か。お前、とうとうパーティをクビになったんだって? 今はあぶれ者のポーターもどきか? そんなお前と話すことなんてねぇよ。失せろ」
毎度のことだけどさ。僕へのヘイトヤバくない?
「ちょっとあんた! さっきから聞いてればグチグチとクルトの悪口を……!」
僕はもう毎度のことだから慣れちゃったけど、ルイーゼには刺激が強かったみたいだ。顔を真っ赤にして怒っている。
「まぁまぁまぁ。ルイーゼ、落ち着いて」
僕はルイーゼと男の間に入ってルイーゼをどうどうとなだめる。そんな僕の態度もルイーゼには許せないみたいだ。更に眉が釣り上がるのが見えた。
「クルトもクルトよ! あんなひどいこと言われて、あなた悔しくないの!?」
そう言われて僕は困ってしまう。無論、最初は悔しかった。でも、今では悔しいと思うことにも疲れ、もう慣れてしまった。僕はルイーゼになんて答えたらいいのだろう。
「そんな困った顔しないでよ……」
僕が困っていることを察したルイーゼも、いつの間にか眉が下がり、困り顔になっていた。困り顔のルイーゼかわいい。
「その……今日は、情報の集め方を教えるから、それで許してよ」
「なんであなたが怒らないのよ。あたしばっかり怒ってバカみたいじゃない……」
ルイーゼがしゅんと俯いて、今にも泣いてしまいそうに見えた。こんな時にラインハルトのように気の利いた言葉が言えればいいんだけど、あいにく、僕にはできそうにない。
「その……僕は怒るのが下手みたいだ……」
「なによそれ……」
自分でもなにを言っているのか分からない。でも、僕は感じたままに言葉を紡ぐ。
「だから、ルイーゼが怒ってくれて、僕は嬉しかった」
「え……?」
そう。僕はルイーゼが怒ってくれて嬉しかったのだ。ルイーゼの怒りは僕のためのものだったから。僕みたいな知り合って間もない人間のために本気で怒れるなんて、一種の才能のようにも感じてしまう。ルイーゼはとても優しい人だ。だから僕は、そんなルイーゼに笑ってほしくて、たどたどしくても言葉を紡ぐ。
「仕方がないことだって諦めてたんだ。ルイーゼが怒ってくれて、僕は救われる心地がした。僕は生きてていいんだって許された気持ちがした。心が蘇る心地さえした。だから、その……ありがとう」
僕の言葉を聞いて、ルイーゼが顔を上げて僕を真っ直ぐ見る。その青い瞳には強い輝きを宿しているように見えた。
「だったら! あたしがあなたの分まで怒りまくってあげる!」
「え?」
「そして! あなたのことを悪く言う人が居なくなるくらい立派な冒険者になってみせるんだから! みんなで一緒にね!」
僕にはルイーゼがとてつもなく眩しく見えた。気を張りつめてないと涙が溢れそうになるほど、僕の胸はいっぱいになった。
あぁ、ルイーゼ……君は……。
◇
「なんだ? まだ居たのかよ。さっさと失せろ。邪魔くせぇ」
僕は再び酒をちびちび飲んでいる男と笑顔で向き合っていた。ルイーゼには、僕がどんなに罵倒されても今回ばかりは黙って見ているようにお願いしてある。そうしないと話が進まないから今回ばかりは仕方ない。
「まぁまぁ。そう言わずに、お酒を1杯奢らせてよ」
そう言って僕はテーブルの上に銅貨を数枚置いた。男の視線が銅貨へと向く。
「なんのマネだ?」
男は意外にも慎重だった。銅貨を取らずに、まずは用件を確認してくる。
「ちょっと教えてほしいことがあってさ。『コボルト洞窟』のことなんだけど……」
「そういうことかよ。何が訊きたい?」
冒険者には、暗黙のルールがいくつもある。これもその1つだ。冒険者たちは意外にも貸し借りにはうるさい。情報集める時にも必ず対価が求められる。その多くはお金だ。
たった1つの情報が命を左右する場合もある冒険者にとって、情報とはとても重いものなのだ。
「『コボルト洞窟』の基本的なことは知っている。以前にも攻略したこともある。最近なにか変わったことはない?」
「変わったことか……。最近、初心者どもが『コボルト洞窟』に集中しすぎてるって話は?」
「それなら知ってる。ギルドの掲示板に書いてあった」
「それ以外となると……喉が渇いたな……」
それっきり男が喋らなくなってしまう。報酬を増やせってことだろう。
僕は銀貨を1枚取り出してテーブルに置いてみせる。
「浴びるほど酒が飲みてぇぜ」
男は銀貨1枚では不服らしい。欲張りな男だ。それだけ持ってる情報に自信があるのかな?
僕は更に銀貨を取り出してテーブルに置いた。
「これでどう?」
「……まぁいいだろう」
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