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017 情報収集

 全てを理解した次の日。僕は朝早くから冒険者ギルドにやって来ていた。情報集めのためだ。僕には知恵も力も無い。そんな僕にできること。こんな僕を誘ってくれたパーティの役に立てること。それは、情報収集に他ならない。


 僕が『百華繚乱(仮)』の他のメンバーに勝っている点は、経験しかない。その経験も2年間という短い期間のものでしかない。できるかぎり情報を集めて、より確かなアドバイスをルイーゼたちにできるようになりたい。ポーターとしても半人前な僕でも、皆の役に立ちたい。


 それが僕にできる唯一のことだから。


 周りには、朝も早い時間だというのに、たくさんの冒険者が忙しそうにしている。クエストボードに貼り出されたばかりのクエストを吟味する者たち。パーティ同士で集まって、今日の冒険のスケジュールを確認している者たち。皆忙しいからか、僕に絡んでこないのも良いね。


 時折、僕に蔑みの視線が向けられたり、嘲りの声が聞こえるけど、不思議とどうでもよかった。昨日はあんなに怖かったのに、今は全く気にならない。


 こんな僕でも仲間と呼んでくれる存在ができたからだろうか。『百華繚乱(仮)』の皆の存在は、僕の胸にこんなにも温かさと強さをくれる。よし! がんばろう!


 ちなみに、今日は『百華繚乱(仮)』はお休みの予定だ。昨日、ダンジョンに行ったからね。体を休ませるのも大切な仕事なのだ。



 ◇



 ふーん……レベル3ダンジョン『コボルト洞窟』で大渋滞発生ねー……。


「お待たせしました。クルトさん」


 ボードに貼り出されている情報を確認していると、後ろから僕の名前を呼ぶ声がかかった。振り返ると、金髪のさわやかイケメンが居た。ラインハルトだ。朝も早いというのに、柔和な笑顔が眩しい。


 今日は、ラインハルトと一緒に情報収集する約束をしていた。元々『百華繚乱(仮)』の情報収集担当はラインハルトだったらしい。「情報は僕が集めておくから体を休めて」と言ったのだけど、僕はラインハルトにいいように言い包められて、結局ラインハルトと一緒に情報収集することになってしまった。


 まぁ、いきなりパーティに入ってきた新人に、時に命を左右する情報収集を任せたりしないか。


 なんだか信用が得られていないようで少し悔しいけれど、ラインハルトの行動は正しい。僕にそんなつもりは無いけれど、もし僕が『百華繚乱(仮)』に対して害意のある人間だったら大変なことになってしまうからね。


「ん?」


 ラインハルトの向こう。ラインハルトに隠れるように小柄な人物が居るのに気が付いた。ラインハルトの横からぴょんぴょんと長い金髪が飛び出ている。あれは……?


「さぁ、貴女も挨拶しないと」

「あぁ! ちょっと!」


 ラインハルトが横にずれると、今までラインハルトの後ろに隠れていた人物が現れる。慌てたように、あちこち跳ねた黄金の髪の毛を手櫛で手早く直している小柄な女の子だ。


 僕はその女の子が一瞬誰か分からなかった。昨日のいかにも新人冒険者らしい貧相な格好から、質素ながらもかわいらしいシックな紺のワンピース姿の可憐な少女が結びつかなかったからだ。もしかして、本当にルイーゼなのか……?


 ルイーゼは髪が乱れているのが恥ずかしいのか、少し顔を赤らめて手櫛で髪を整えていく。でも、ルイーゼの寝癖は頑固なのか、あまり直ってない。その姿はあどけなく、とてもかわいらしいものに見えた。


「あの、おはよ……」


 少し恥ずかしそうに挨拶するルイーゼが抱きしめたくなるほどかわいらしい。


「うん。おはよう」


 僕はなんとか平静を保ってルイーゼに挨拶を返す。


 僕はルイーゼに会えて嬉しいけど、なんでルイーゼがここに居るんだろう? 情報収集はラインハルトの担当じゃなかったのかな?


 そんな僕の疑問を察したのか、ラインハルトが口を開く。


「今日はルイーゼも手伝ってくれるようですよ。いつもは私に任せっぱなしなのですが、どういう風の吹き回しか、クルトさんが来ると伝えた途端に急に乗り気に……」

「ちょ、ちょっと! あたしはその……あたしも情報はきっちり集めた方が良いと思っただけよ! あたしリーダーだし! リーダーはいろんなこと知ってないとダメじゃない? だから、情報収集に来ただけよ! だから、えっとその……そういうんじゃないから!」


 突然ラインハルトの言葉を遮って早口でまくしたてるルイーゼ。ルイーゼも僕に会いたかったのかなと思ったけど、そういうわけじゃないらしい。ちょっと残念だ。


 そんな僕たちの様子を見て苦笑いを浮かべたラインハルトが口を開く。


「では、さっそく情報収集を始めましょうか。私は単独で情報を集めるので、お手数おかけして申し訳ありませんが、クルトさんは情報収集のやり方をルイーゼに教えてあげてください」

「それはいいけど……」


 普通逆じゃない?


「クルトさんの情報の集め方を私たちも取り入れたいので」


 ラインハルトは僕の情報の集め方に興味があるらしい。僕の情報の集め方なんて、そんな特別なことしているわけじゃないんだけど……。


「では、そういうことで」


 それだけ言い残して去っていくラインハルト。そして取り残された僕とルイーゼ。ラインハルトにしては少し強引な感じだったけど、なんでだろう?


「それで? 情報収集って何をすればいいの? 話を聞いて回ればいいの?」


 いまだに手櫛で自分の髪の毛を直しているルイーゼ。どうやら彼女は本当に情報の集め方を知らないらしい。これは一度お手本を見せた方が早いかな。


「話を聞いて回るのは正解だよ。でも、まずはこれだね」

「これって?」

「冒険者ギルドが貼り出してる情報だよ」


 冒険者ギルドは、冒険者を束ねてクエストを発注するだけの無能なギルドではない。冒険者ギルドにとって、冒険者とはすなわち商品だ。冒険者の余計な損耗を防ぐべく、いろんな情報をこうしてボードに貼り出して教えてくれる。


 聞いた話では、新人冒険者相手に無料で講義すらしてくれるらしい。ルイーゼたちも受けたことがあるそうだ。


「ここで情報を拾ってから、足りない情報はないか冒険者に尋ねて回る感じだね。現場でしか分からないことってあるし。ルイーゼは文字は読める?」

「一応ね」


 さすが王都育ちのルイーゼだ。文字を読めるらしい。僕の暮らしていた田舎に比べるのも烏滸がましいくらい、王都は文字に溢れている。ある程度の読み書きができないと、とても暮らしていけないだろう。この王都で暮らしていくなら必須の技能だね。


「ねぇ?」


 ボードに貼り出されていた羊皮紙を指してルイーゼが言う。


「この単語ってどういう意味だったかしら?」


 ルイーゼの差した単語は“大渋滞”だった。まぁあまり日常では使わない単語だけど……もしかしたら、ルイーゼの読み書き能力はそれほど高くはないのかもしれないね。


 僕は空笑いを浮かべながら、ルイーゼに教えるために口を開くのだった。

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パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
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