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新選組 山南敬介の脱走  作者: まいるまいる
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この事件以来、土方と山南は事ある毎に対立するようになっていました。


 今では山南が新選組の方針に口を出すことはできないような状態が続いています。


(やはりあの時、土方君の言葉に従って平間を逃がすべきではなかったのだろうか)


 実は、この事件が引き起こした問題は、芹沢の仲間を逃がしたということだけに止まらなかったのです。


 新選組には勘定方が芹沢派、近藤派と実質二つある状態だったのですが、芹沢派の勘定を任されていたのが平間重助でした。


 事件後に調査した結果、芹沢派の勘定の調尻がどうにも合わなかったのです。四十両もの大金が事件を境に消えていました。


 状況を鑑みれば平間が逃走する際に持ち逃げしたと考えるのが自然でしょう。


 当時は、そのことでも山南は土方に咎められたのでした。しかし、今改めて考えてみるなら、その資金を使って平間が同士を募っているとしても不思議ではありません。


(もし、平間が本気で事を構えているとしたら新選組にとっても不味いことになる。まずは何としても真偽を確かめねば……)


 山南はこの件を誰かに相談しようとは思っていませんでした。


 願わくは間違いであって欲しい、が、そうではない場合であっても、できることなら自ら平間を説得して、あるいは力ずくでも騒ぎを未然に納めたい、そう考えていたのです。


 覚悟を決めた以上、一刻も早く出かけなければなりませんでした。もうじき土方が帰ってくるはずです。



 山南は稽古の監督を抜けて部屋に戻ると、武具一式と身の回りの荷物をまとめ急いで厩舎へと向かいました。


「馬を貸してもらえるかな」


 山南は馬番の男に声を掛けました。


「はい。でも、すごい荷物ですね。ひょっとしてここに嫌気が差して江戸に戻られるんじゃないでしょうね?」


 気さくな山南なら、この程度の冗談にすぐ乗ってくれるのを、馬番の男は承知しています。


「ははは、この陽気だ。そんな気分にならなくもないね。もっとも、江戸までこの天気が持てばだが」


 その間に男は手際よく支度を済ませ、山南を馬上へと誘いました。


「ありがとう。夕方までには帰って来るつもりだが、もし遅れるようなことがあっても心配するなとみんなには伝えてくれ。そういえば間もなく土方君も帰ってくるはずだから」


 わかりましたと応える馬番の見送りを受けて、山南は一人大津を目指したのでした。




 大津まで馬ならおよそ一刻の距離です。平間に会って話を聞く時間を合わせても、その日のうちに屯所に帰ることは十分可能だと山南は考えていました。


 利用している旅籠も聞いていましたから、それらしき人物が本当にそこに居るということはすぐに確認できたのです。


 しかし、付近をいくら探しても平間は見つかりません。どこに行っているのか、誰に聞いても手掛かりすら得られないのです。


 街道と旅籠を四半刻毎に行ったり来たりしているうちに、山南は誰にも告げずに屯所を出てきてしまったことを後悔するようになっていました。


 今回の件が会津藩からの正式な命令なら、こうして一人でやって来ることはなかったでしょう。あの場に近藤局長がいてくれていたなら、などと思わないこともありませんでしたが、それ以前に自らの軽率さを棚に上げようという気にはなれません。


(迂闊だった。焦っていたとはいえ、考えが足りなすぎた)


 そして、もうこれ以上ここに留まっているわけにはいかない、そう思い屯所に戻ろうと心を決めた時です。紛うことなき平間重助の姿がその目に飛び込んで来たのでした。


 山南だけではありません。平間もまたほぼ同時に山南の存在に気が付いたようです。


 人が増え始めた街道の中央、お互い至近距離であったために、どちらも逃げ隠れする余裕などはありませんでした。


 挨拶を口にする必要などはありません。自然に出たのはお互いを確認し合う言葉だけでした。


「山南か」


「平間さんですね」



 その頃、新選組の屯所では、未だ帰らぬ山南の行方を巡って大騒ぎとなっていました。


 いつもきれいに整頓されている山南の部屋ですが、書物が積まれているのみで武具が無くなっているために広さばかりが目立ち、より生活感を失ったようにも見受けられます。


 その様を見ては、脱走に違いないと強い語気を含んで言い出す者までいる始末。


 この状況をどのように解釈すればよいのか。近藤、土方を始め、江戸からの付き合いがある仲間たちが集まり、車座になって相談をしている最中のことでした。


 近藤を訪ねて、あの青年が再び屯所へやって来たのです。


「今朝方、総長の山南様にはお伝えしたのですが、大切な言づてですから、主人に言われた通り、近藤局長に、直にお伝えしなければと思って再度やって参りました」

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