妄想の帝国 その65 絶対地球防衛軍創設 地球を壊すあらゆる?敵を倒します
地球を守るべく創設された地球防衛軍、その創設を祝う式典で、世界の二大大国のトップ同士が口喧嘩を始めた。はらはらする各国代表の前で、地球防衛軍地球司令官がとった行動とは…
良く晴れた春の青空、その気候にふさわしい式典が行われようとしていた。
野外に設営された大会場には、世界各国の首脳、有数の大富豪や著名な科学者、文化人、エトセトラ、とにもかくにも世界中から集まった人々でいっぱいになっていた。
大観衆の前で、開催の挨拶をするのは極東島国のニホン国総理。すでに先進国から滑り落ちる寸前まで国力が落ちまくっているが、ニホン国出身の科学者や宇宙飛行士が少なからず協力したため、お呼びがかかったのである。もっともそういった優秀な人材はほとんどニホン国から出て行ったのではあるが。
「えー、今日、この日ついに絶対地球防衛軍、せ、せ、世界各国が協力し、科学者、宇宙飛行士、軍の精鋭を集め、ぎ、技術の粋を集めた自律型宇宙ステーションを建設し、そ、そして…」
緊張のあまり、どもりまくる総理。
「オーニホン国総理、長すぎだー、もっとシンプルに」
延々と続く前置きに飽きてきたのか、アメリカ大統領が呆れたように口をはさむ。
実質宗主国の長からのクレームにニホン国総理は慌てて
「こ、ここに地球防衛軍創設を宣言します。これで、地球は様々な危機から守られます」
会場が大きな拍手があがる。
役割を終えてほっとしたニホン国総理が
「つ、次にこの地球防衛軍創設に尽力した米国大統領から~」
と、米国大統領にマイクを渡そうとすると
「ちょっと、まった、創設に尽力したのは尽力したのは、アメリカだけではない、わが中国もかなりの人材、資材を投入している」
と中国首相が言い出した
「しかしだな、アメリカは宇宙開発の最先端であり、宇宙ロケットや探査機を何度も送っているし」
「いや、わが中国だって、優秀な人材を集め、何度も宇宙に人を送り込んでいる。第一今回の宇宙ステーションのエネルギーが自給できるのは我が国太陽光パネルがあってこそ」
「そういうならわがアメリカの科学者たちが開発した宇宙でも成長し収穫できる小麦、野菜そして合成肉といった食糧自給がなければ、自立した宇宙ステーションの運営は不可能だった!」
「それを言うなら完全水リサイクル及び空気清浄機はわが中国の技術だ!さんざ水汚染だの大気汚染だのの批判を受けて、科学者、技術者に開発させたんだ!わが中国が防衛軍に対し発言力が」
「いや、わが米国が」
二つの大国のトップ同士の口喧嘩?に会場はざわめいた。
“何をくだらないことで言い争っているんだ。アメリカ大統領が挨拶したら、中国首相も挨拶すればいいじゃないか”
“いや、この地球防衛軍に対して、どのぐらいの影響力があるかということも絡んでくる”
“まさか、宇宙からの脅威だけでなく、国家間の争いにも…”
“なにしろロシアの侵攻の際には、アメリカがロシアに制裁を科したのを聞いてアメリカの宇宙飛行士が宇宙から帰るのに協力するのしないのとロシアの会社が言い出したからな。それまで各国仲良くやっていたし、宇宙飛行士間ではそんな争いはなかったらしいが”
という各国首脳ら、出席者たちの嘆きをよそに中国首相とアメリカ大統領はヒートアップしていた。
「そこまで言うなら、わが軍のいや、我が国の力を思い知ってもらおう!」
と中国首相が言えば
「なんだと、ではついにあの地域に侵攻か!それはならこちらもハワイやニホン国に駐在する軍から」
とアメリカ大統領が応ずる始末。
二人のそばでおろおろするニホン国総理のうしろから、
「あのお二人を止めていただけませんかニホン国総理」
と低いがよくとおる女性の声が聞こえてきた。
「こ、これは地球防衛軍地球部隊司令官どのでしたか。いや、その、止めろといわれましても」
「両国ともに貿易、外交で深いつながりをもつ貴国ならば、仲をとりもつことができるのではないかと思いますが」
「む、無理です!わ、我が国はその」
「アメリカに追従して、中国を敵視するものの、面と向かって中国の人権侵害などを指摘もできない、ですか。しかし、このままでは非常に危うい事態になりそうです。貴国に駐在するアメリカ軍が中国軍と交戦するようなことになっては、貴国とて無事ではすみませんし、特にアメリカ軍基地のおおい地域は」
「あ、あの県はそのう、首都から離れていますし…、ほ、ほかの基地もその、そうなってもニホン国政府中枢は絶対に守られますし」
「21世紀になっても起きた数かすの侵攻や戦闘でどれだけの無辜の民が犠牲になったのか、その惨劇をお忘れですか?自分たち為政者たちだけが助かれば、自国民、女性や子供などの弱者がどうなってもいいと?」
「し、しかし、あの二大大国をどう止める手段など…」
とグタグタいうニホン国総理を尻目に
「仕方ありませんね、こんなに早くお披露目することになるとは思いませんでしたが」
と、言いながら地球防衛軍地球部隊司令官は何やらスマートフォンのような小型の装置をとりだしパチパチと文字を打っていた。
「こ、こんなときにスマホなんてえ」
とニホン国総理が言った途端
シャラーン
二筋の光が頭上から降りてきたと思ったら
「シェー」
「ジ―ザース」
と叫び声とともに中国首相、アメリカ大統領がひっくり返った。
「ひえええ」
と驚くニホン国総理のそばで地球防衛軍地球司令官は
「お二人とも地球に対する脅威とみなし警告をさせていただきました。もしこれ以上続けるなら、地球防衛軍運用法第二条第三項の規定により、拘束、場合によっては本格的な攻撃をさせていただきます、もちろんお二方のお国にも」
と淡々と述べた。
「う、地球防衛軍運用法第二条!そ、それは地球の脅威になるものに対するもので、ち、地球の国家に適用は…」
「できない、しないとは明記されてませんが」
と涼しげに言う地球防衛軍地球部隊司令官。
「は?」
「明記されているのは『地球に対する脅威全てに対して』です。すなわち大国間の核戦争も脅威の一つ」
「ええ!」
「地球が人類にとって、ほかの生物にとって住めなくなるようになること、生態系の壊滅的破壊、なども当然含まれています。大国間の核戦争などはその筆頭に挙げられるでしょう。他小規模の戦闘であってもそれにより危険な化学物質の拡散や森林などの生態系破壊、また各国の荒廃や暴動などの二次被害も脅威に含まれます。まして次世代を担う子供たちを傷つけ、多くの民が犠牲となる戦争もです」
「そ、その理屈で戦争をしかける指導者も脅威の一つとみなす、ということなんですか!し、しかし地球防衛軍の運営は、その各国から、そのアメリカと中国が支援打ち切りとか…」
「それはご心配なく。確かに地球防衛軍は各国の人間が集まってできていますが、彼らは完全独立組織です。宇宙ステーションそのほかは完全自給自足。攻撃や威嚇などは太陽光や宇宙での核融合炉エネルギーでおこなっております。食糧他が心配ないのは先ほど首相たちがおっしゃった通りで」
「そ、その宇宙ステーションにいる人々は自国に対する愛国心とか」
「もちろんありますが、それは自国の愚かな政府や指導者に対してではありません。自分の国を愛するからこそバカげた行いをする指導者を諫めるのです。それに宇宙に行ったものたちは地球が一つであり、妙なプライドに固執するのではなく人類が生き延びていくために協力すべきだという気になるのです。実際協力しないと生きていけませんからね」
「そ、そうするとこれからは」
へなへなと倒れるニホン国総理。
各国トップらも驚いて、いっそう騒がしくなった。
“軍事力をものに迂闊に隣国にちょっかいを出そうものなら、指導者たちは粛清されるわけが”
“地球防衛軍は宇宙、すなわち高度な文明をもっている宇宙人にも対抗できるようにと各国の最高の科学技術で作られた。もちろん最先端の武器装備だ”
“し、しかし今から開発してステーションを攻撃するとか”
会場のざわめきに地球防衛軍地球部隊司令官は
「ああ、皆さま。わが地球防衛軍にトップクラスの科学者たちが喜んで参加しているのをお忘れなきよう。もちろん彼らは創設の意義をすべてきちんと理解、賛同しております。なお、賛同しているのは世界屈指の富豪、インロン・パスク氏、ピル・ゲンツ氏や旧ソ連のポルバチョフ氏など各国の著名な方々もですので」
とにっこり笑って話す。
“そ、それでは資金源は豊富にあるぞ、へ、下手するとG20諸国よりあるかも”
“ということはすでに地球防衛軍には逆らえるものはない。紛争が起きた途端に、起こした側が攻撃されるのか”
“しかもカッコクレンのように大国同士のパワーバランスなども考えないから、軍事力などほぼ関係なく、侵略した側がやられる”
“そ、それだけではない。気候変動対策に協力的でないとか、自国の生態系を破壊する開発を黙認するとかいう政府も対象になるのか”
“ま、まさか原発とかの核廃棄物を放置するとか、重大事故での汚染物質放出とか”
との声にさらに青くなるニホン国総理。
「そ、その、十数年前にメルトダウンをおこした我が国の原発、ふ、フクイチでの、しょ、処理水は、その」
と顔面蒼白になりながら地球防衛軍地球部隊司令官に尋ねると彼女は
「ええ、その件については、この式典の後、協議することになっておりますので。よもや放射性物質の除去が不十分な処理水を垂れ流す、他国の労働者を下請けにして危険な処理をさせるなどをお続けになるおつもりではありませんよね」
と、笑いながら、ただし目だけは冷たく、答えた。
各国の代表たちの意向が反映されるはずの国連軍とかはいまだ機能していないとかなんとか言われていますが、いっそクラウドファンディングで戦争を絶対に止める組織とか作れないもんですかねえ、いや、マジで。