99 プロポーズ
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「え?あ····え?」
いつの間に兄と入れ替わったのだろうか?
いえ、とうとう緊張で頭が弾けて幻覚でも見ているのだろうか?
アウロラは混乱していた。
隣にいるのは確かにルーク様だ。
拐われた私を助けてくれたルーク様。
あの時は、胸の苦しさで意識が朦朧としていたので、正直現実かどうか分からなかった。
グリフォニア領へ医療団として滞在した時、唯一ルーク様と会ったのは、ルーク様が意識のない状態でベッドに横たわる姿。
今隣に立つルーク様は、王都でお会いしていた時よりも更に逞しく、背も高くなった気がした。
何より気配が、一段と大人の雰囲気に·····。
「ル、ル、ル、ル·····。」
固まってしまったアウロラにルークは苦笑し、握っていた手の指先に唇を寄せる。
「ルーク様·····。」
ルークが口づけた指先から血が通っていき、身体がゆっくりと熱を帯びてゆく。
固まっていた身体が、陽を浴びた雪のように解けていく。
グリフォニアから王宮に来ている、そう分かっていることなのに、実際目の前でその存在を確かめると、身体の中で、固く押さえつけていた感情が一気に溢れ出す。
「アウロラ·ホーヴェット伯爵令嬢、私にエスコートのお役目、お許し頂けますか?」
頬を上気させ目を潤ませるアウロラに、ルークは恭しく礼の姿勢を取る。
「はい、私で宜しければ、お願いします。」
そう言って微笑むアウロラは美しい。
やがて扉は開かれ、ルークとアウロラは入場する。
談笑していた者達も、主役の1人であるルークの登場で、視線が一斉に集中する。
後ろから続くセオドアと付き添いで付いてきていたエリナは、その様子を微笑ましく見守っている。
「セオドアお従兄様、アウロラは嬉しそうだわ。」
「そうだね。とうとうアウロラも結婚か····。」
「え?」
「え?」
「誰と結婚です?」
「いや、だからルークとアウロラだよ。」
「·····セオドアお従兄様、それアウロラは知ってます?」
「知って·····そう言えば言っていないかも。知らないかもしれない。数日前に王宮からグリフォニア側から、ルークとアウロラの婚姻を望んでいるが、異論はないかと言われ、当然の如く父はないと答えていた。まだ正式な決定ではないと言われたから、決定が伝えられてからアウロラに話そうと。。正式に連絡があったのは昨日だ。アウロラに会っていない····。」
「何やってるんです!ホーヴェット家は医薬以外は抜けてるんだから。ああ、お従兄様、そんな事になっているとは知らないアウロラは今、人生最高の思い出作りをしようと考えていると思うわ。」
「え?まあ、そうなるか····。今この状況で、耳打ちしに行くのはちょっと····。」
「こうなったら鋭い視線を送ってみましょう!ルーク様なら、ただならぬ視線に気づいてくれるはず。」
そう言って2人はルークに気づいてと、熱い視線を送る。
ルークは直ぐ様気づき、こちらに視線を寄越す。
『アウロラは···けっこんのことを···しらない。』
2人して声を出さず、口元をはっきりと動かせば、ルークは理解したのだろう、少し目を見張り、直ぐ様アウロラに視線を戻す。
「アウロラ、伝えたいことがあるんだ。」
「·····私もです、ルーク様。」
ルークの言葉にアウロラは一瞬顔を曇らせ目を伏せる。
それから心構えが出来たという様に、淡く微笑んで答えた。
「セオドアお従兄様·····アウロラのあの表情ですが····。」
「ああ、何か悪い予感がしているといった表情だ。」
「アウロラは昨日、言っていたんです。このパーティーでルーク様が他の令嬢との婚約を発表するのではないかと。だからパーティーに出席する事を躊躇していたんです。」
「え?そんなに弱気なのか、アウロラは。今ルークにエスコートされている時点で普通それはないと思うが。」
「だってこの前グルーバー様に婚約白紙の話をされたばかりなんですよ。自信を失っていても仕方がないわ。グルーバー様にはとても大切にされていたらしいですし。心を許していた相手2人と縁がなかった経験をしてるんですよ。もう期待するのを止めていると思います。」
「アウロラ·····。」
「ルーク様のあの様子ですと、このパーティーの間にプロポーズするんじゃないかしら。」
「そんな事したら、倒れるんじゃないか?」
「倒れますね。まあ、ルーク様に任せましょう。」
そう言って、セオドアとエリナは2人を見守るのだった。
会場に入場した2人はゆっくりと奥に進む。
女性達はルークの凛々しさにときめいている様で、頬を染めている。
隣を歩くアウロラには男性の熱い視線が集まるが、それに気付いたルークの鋭い視線で、皆目を反らすのだった。
何より2人の衣装が、特別な関係を物語っている。
ルークとアウロラは先に会場入りしている王太子に挨拶に向かう。
王太子のオーウェンは優しい笑みで2人を迎える。
「アウロラ嬢には、心を振り回してしまう結果になり、申し訳ないと思っている。まあでも、お祝いを言わせて欲しい。おめでとう。2人の幸せを願っているよ。」
「「有難うございます。」」
王太子の言葉にそう応えたものの、労う様な眼差しで、何故アウロラまでお祝いを言われているのか分からず困惑する。
やがて国王と王妃が入場し、グリフォニアの騎士団への称賛とパーティーの開始を宣言した事でダンスが始まる。
ファーストダンスは、アリーチェ王太子妃が妊娠中で参加を見送った為、第3王子のディランと婚約者のスフィアが務めた。
その後に高位貴族がダンスを行う。
今回の功労者であるルークもダンスに加わらねばならない。
「アウロラ、私と1曲踊って欲しい。」
「はい、嬉しいです。····久しぶりですね。」
そう言って、ルークとアウロラもダンスの輪の中に入っていく。
皆が2人に注目する。
揃いの衣装を身につけ、呼吸もぴったりで、流れるように踊る姿は、2人の親密さを感じさせるものだった。
「アウロラ····君は美しい。」
思わず呟いたルークの言葉にアウロラは頬を染める。
「有難うございます。ルーク様も変わらず素敵です。·····いい思い出になりました。」
「思い出か·····これからも沢山作って行こう。」
「?これからも?」
ルークの言葉に困惑するアウロラを余所にダンスは2曲目が始まり、多くの者が踊り始める。
「アウロラは聞いていなかったんだね。私は今回の褒賞にアウロラとの婚姻を望んだ。国王陛下はそれを許可してくれたよ。」
「え?ええ?」
突然の事で驚き、アウロラはステップを止めてしまう。
ルーク様が褒賞に私との婚姻を望んだ?
陛下に認められた?
私はルーク様と結婚出来るの?
頭の中で様々な考えが浮かんでは消え、アウロラは混乱していた。
ルークを呆然と見つめる視線の端にアシェルの姿が映る。
アウロラは思わずそちらに目をやる。
アシェル様はご存知だった?
褒賞として私が望まれたから、アシェル様は····。
『離したくない。』
『アウロラの幸せを願っているよ。』
アシェルの言葉が頭の中で反響する。
ああアシェル様·····。
見つめる先のアシェルは、アウロラの視線に気づき、小さく頷く。
アシェル様は私をルーク様の元へ送り出してくれたんだ·····。
アシェルの優しさを思うと胸が苦しくなり、大粒の涙がこぼれる。
アシェルは優しく微笑む。
それを見たルークは目を細め、その場に跪く。
「アウロラ·····アウロラ·ホーヴェット伯爵令嬢、私は今回の褒賞に貴方との婚姻を望んだ。私は貴方を心から愛している。どうかこれからの人生、私と共に歩んで欲しい。貴方の事は私の命に掛けて守る事を誓う。どうか私と結婚して下さい。」
ルークに視線を戻したアウロラの目に、再び涙の膜が張る。
「ルーク様·····私を選んで下さり有難うございます。これから宜しくお願いします。」
アウロラは涙を流し、震えながらルークの差し出した手を取る。
ルークは立ち上がりアウロラを引き寄せ、目元に口付けを落とす。
その間、音楽も止まっていたのだろうか。
踊るのを止め、立ち止まって見ていた者達から少しずつ拍手が上がる。
やがて音楽が高らかに奏でられ、再びダンスが始まる。
アウロラとルークは互いに微笑みながら、軽やかにダンスを舞うのだった。
それは漸く2人の想いが1つになった瞬間だった。
読んで下さり有難うございます。




