97 処刑された日
ズズ····ズズ····
硬く冷たい石畳の道を裸足で歩く。
目の前にあるのは処刑台。
覆面を被った処刑人達が、静かに待ち構えている。
ざわつく群衆。
よくまぁ人が処刑されるのを見たいと思うな····と
忌々しく思いながら、重い身体を前に進める。
「やめろ!やめてくれぇ!私は何もしていない!何もしていないんだあ!」
背後でマイケルが泣きわめいている。
もう処刑するからと、覆面の男達はマイケルの身体を殴って黙らせようとする。
「ぐあぁッ。」
マイケルは倒れ、そのまま引き摺られながら運ばれる。
ルイーズ達と王城に侵入出来たのは、以前何かの為にと予め作っておいた、偽のトルーソー家の通行許可証のお陰だった。
今回主だった罪として、王城内に侵入したのもさることながら、その偽造通行許可証を作っていた事の方が問題視された。
本物が手元になければ作成出来なかったという事は、私がトルーソー家を除籍される前から企てていたという事。
本来、除籍後犯した罪については、家へのお咎めは無いものだが、それが除籍前の罪となると当然トルーソー家にも類が及ぶ。
父は、私がルイーズの卒業パーティー出席に手を貸した時、私の貴族籍を剥奪するだけで、お咎めはなかった。しかし今回の事で反逆者を一族から出した罪を負うことになり、毒杯の刑に処せられた。
母と妹は貴族籍剥奪の上、国外追放になった。
妹には婚約者もいたはずなのに、申し訳ない事をした。
私の明晰さは家族の自慢の1つでもあったのに、今や一族の恥さらし。
憎しみの対象だ。
こんな人生を送るはずじゃなかった。
石造りの処刑台の階段を一歩一歩上っていく。
ふと視界の角に、こちらをじっと見つめる視線に気づく。
他の群衆と違うのは、その視線がまるで気付いてくれと言わんばかりに鋭いものだったからだ。
焦げ茶色のフードから覗く金髪。
あれはもしや······。
その人はフードを軽く持ち上げ少しだけ顔を晒す。
アリア·····。
まさか私が処刑される姿を見に来たのか?
彼女は私に伝えるかの様に何かを呟いている。
『あなたは····こんなところで·····おわるべきかたでは····ないのに。』
はは、君は怒っているのか?
まだ私にそんな事を言ってくれるのか?
『ジョセフ様だから出来る事です。』
『ジョセフ様だから選ばれたのです。』
『ジョセフ様だから····好きになったのです。』
それが君の口癖だったね。
すまない、アリア。
一番大事な選択を間違えたようだ。
「来てくれて····有難う。」
そう口を動かせば、アリアに伝わったのだろう。
今まで見たことがない程、顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙を流し泣いてくれた。
それを見て、嬉しさが込み上げる。
····ああ、これが愛か·····。
「別れは済んだか?」
ぞくりとする程冷たい声が頭上から聞こえた。
見上げれば、大剣を手にした、騎士の様な体躯の処刑人が立っていた。
その声······。
「本当に来たのか?·····ぶれないな。」
「ああ。お前の父親が命乞いをして、替え玉を用意していないか気になってな。お前を生かしておけば、また悪事を起こすかもしれないだろ?憂いは自分の手で刈り取りたいんだ。」
「彼女を国外へ連れていこうとしたのが、そんなに気に入らないか?」
「傷つけただろう?万死に値する。」
「そうだな·····さらばだルーク·····。」
「地獄で反省しろ。」
一瞬光が走った。
以前も見たな、この光。
そして意識はゆっくり暗闇に堕ちていった·····。
◇◇◇
「アウロラ探したわよ。その後体調はどう?って、こんな時間まで勉強?」
「エリナ。有難う心配してくれて。身体は大丈夫よ。いくら課題が免除されていると言っても、今まで
休んだ分は取り戻したいの。」
アウロラは学園に復帰してから、休む時間無く、研究棟へ行く時間以外、全て勉強の時間に充てていた。
本音は、勉強に打ち込んでいれば、余計な事を考えずに済むからだ。
「ねえ、もうすぐグリフォニア辺境伯の騎士団が、王都入りするらしいわよ。」
「そうなの?!」
「その後の式典では、ルーク様が『英雄』の称号を賜るらしいわよ。アウロラは勿論行くのよね?」
「父や兄は行くみたいだけど、私は呼ばれていないわ。」
「そうなの?····残念ね。それじゃあグリフォニアの騎士団が入城する所を見に行きましょうよ。ただ街の中は既に見物しようと、人で溢れているそうよ。」
「じゃあ、今からは難しそうね。」
「ねぇ、学園の屋上なら、見える場所もあるんじゃない?」
「時計台からなら見えるのではないかしら?」
「そうね、でもおそらく鍵が·····待って、そんな時こそトーマスよ。」
「え?トーマスさんはもう卒業されてるんでしょ?」
「大丈夫、まだ学園に出入りしてるから。何ならさっき見かけたし、まだいると思うの。待ってて、アウロラ!」
そう言い、エリナは慌てて出ていった。
アウロラは荷物を纏め、図書館を出る。
暫く図書館の入り口で待っていると、大きく手を振りながらエリナがトーマスを連れて戻ってきた。
「アウロラー、トーマスを捕まえたわよ!」
「ふふ、エリナ、そんな大きな声を出したら、またおば様に叱られるわよ。」
「大丈夫よ。ね、トーマス。」
「はは、大丈夫な要素は1つもないけどね。そろそろ貴族になった事を自覚した方がいい。
アウロラさん、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです。」
「お久しぶりです、トーマスさん。お仕事中なのに申し訳ありません。でも、時計台の鍵なんて、どうしてトーマスさんが持っていらっしゃるんです?」
トーマスにそう言うと、苦笑いを浮かべる。
「持ってるんじゃなくて、開けるのよ。」
エリナがこっそりアウロラに囁く。
「それって······。」
「さあ、アウロラは細かい事は気にしないで早く行きましょう!」
エリナに引っ張られながら、アウロラは時計台へ向かった。
時計台にたどり着くと、トーマスは難なく鍵を開け、アウロラ達は簡単に時計台に入る事が出来た。
トーマスさんって何者?
そう思いながらも、長い螺旋階段を上っていくと、最上階の展望室に着いた。
「足がパンパンだわ。トーマスは全然息も乱れてないのね。」
「鍛え方が違うから。」
そう言って笑うトーマスを見て、『商会の仕事って体力がいるのね。』と1人納得するアウロラだった。
「ほら、あそこ見えますか?もう王城の門まで来ていますね。」
トーマスが指差す方向を見ると、グリフォニア辺境伯領の騎士団の深緑色の騎士服の一団が見えた。
先頭の一際大きい2頭の馬に股がっているのが、辺境伯であるワイアットとルークなのだろう。
思わず身を乗り出す。
すると、ルークらしき人物がこちらを見た気がした。
もしかして気づいてくれた?
「ルーク様·····。」
思わすそう呟く。
「アウロラさんはこちらにいて、明日の準備は大丈夫なんですか?」
「私は式典にも、パーティーにも参加しないので。」
「え?そんなはずは·····。」
「ただグリフォニア辺境伯の皆様にはお世話になったので、ご挨拶に伺おうと思っています。」
王都には、グリフォニア辺境伯の屋敷がある。
ワイアット達は、王都に来た時にしか滞在しないが、王都の情報を入手する為にも、代理の者が常駐している。
ルークにお礼を言いたいと申し入れた時、その屋敷の場所を教えてもらっていた。
トーマスにその事を話すと、何故か怪訝な顔をされる。
「アウロラさん、私が聞いている情報と違いますね。取り敢えずこの後、エリナと寮に戻って、何か伝言が届いていないか確認した方がいいと思いますよ。」
「え?トーマスさんが持っている情報って?」
「アウロラ、トーマスがそう言うなら、確認した方がいいわ。早速行きましょう。」
「分かったわ。」
グリフォニアの騎士団の長い列は、そのほとんどが王城内に入っていた。
アウロラは何がなんだか分からないまま、急ぎ寮に戻った。
するとそこには、意外な人物がアウロラの帰りを待っていた。
読んで下さり有難うございます。




