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95 アシェルとアウロラ ①

「アシェル様。先ほど王太子殿下が来られていたとの事ですが。」

「ああ。」


ジョッシュは雑務を終え、王宮にあるアシェルの執務室に戻ると、何時もは机に向かっているアシェルが立ち上がり、窓の外をじっと見つめていた。


「宮廷はダラム王国との戦勝祝いの式典の準備で、かなり慌ただしかったですよ。あのグリフォニア辺境伯が久しぶりに王都に来ますからね。·····で、王太子殿下のご用件は、式典についてですか?」


ジョッシュがそう問うも、アシェルは窓の外を見つめたまま何も答えない。


こんなアシェル様、初めてかもしれない。


ジョッシュの中で嫌な予感が生まれる。


「もしかして、グリフォニア辺境伯への褒賞の件ですか?」


「ああ。」


やや間があって、アシェルは答える。


まさか····そうなのか?


ジョッシュは次の言葉を出せずにいた。

アシェルがこれ程考え込むとなると、今思い当たる事は1つしかない。


「グリフォニア辺境伯から陛下へ褒賞の要望があったそうだ。」


「はい。」


「褒賞として、アウロラ·ホーヴェットをルーク·グリフォニアの妻として嫁がせる事、だそうだ。」


「え?」


そう応えるしかなかった。

ダラム王国との戦後交渉にジョッシュも同行していた。

グリフォニア辺境伯であるワイアット·グリフォニアは、『氷の騎士』と異名を持つに相応しい、誰も寄せ付けない様な冷たいオーラを纏った方だった。

口数は少ないが、思慮深く、国内最も厳しいと言われる国境線を長年守り抜いてきた勇者だ。

そして現国王の有力な支持者の1人でもある。

更に同じく『冥府の使徒』という異名を持つ、ルーク·グリフォニアという若きワイアットを彷彿とさせる様な後継者を得たことにより、長きに渡るダラム王国との戦いを勝利に導いたグリフォニア辺境伯領からの褒賞の要望となると、当然王国としては無下に出来ない訳で·····。

グルーバー公爵は、アウロラさんが体調を回復次第、アシェル様との正式な婚約に向け動き出した所だと聞いた。

今まで不在だったホーヴェット子爵が戻ってくるからだ。

アシェル様は、アウロラさんにプロポーズし、その返事を聞く事にしていると言っていたが、本来、公爵家が声を掛けた時点でほぼこの婚約は決まっている様なものだった。

元々王家の打診の婚約、それを知っていて覆させるか。

ワイアット様と国王陛下は、亡くなった前王妃を巡って因縁の仲だと聞いた事がある。

それでも国王を支持する立場をとっていたのは、前王妃の残した子供、オーウェン殿下が早くに王太子に

なったからだと言われている。

推測するに、国王陛下が横恋慕したのだと思う。

陛下としては、ワイアット様に負い目があるだろう。

そんな状態で初めてグリフォニア辺境伯側からの要望。

それも国に多大な貢献した上での褒賞だ。

正直のまない訳にはいかないだろうが、まさか漸く婚約しようとする段階になって·····。

国王陛下はこの件は王太子殿下に丸投げなのだろう。

前王妃の忘れ形見である王太子殿下が絡むなら、例えその要望を拒否したとしても、ワイアット様なら引き下がってくれると踏んでいるのかもしれない。

王太子殿下は、アシェル様に何と言ったのだろう。


「その要望に対して王太子殿下は何と?」


「·····私に任せる、と言った。私とアウロラが婚約する事を望めば、グリフォニア側の要望を変えてもらうように交渉すると。」

「それなら·····。王太子殿下が矢面に立って下さるなら、お任せしてはいかがでしょう?」


アシェル様はアウロラさんの事をとても愛している。

あのように穏やかな表情のアシェル様は、アウロラさんに出会う前までは見た事がなかった。

幼少の頃のカメリアと良好な仲だった時でさえ、あのように愛しげに微笑まれたりはしていなかったと思う。


「アウロラが、グリフォニア側からその様な要望があったと知ったら、きっと喜ぶだろう。」


「アシェル様、それは·····。」


「そう、アウロラはきっと嬉しいはずだ。」


ああ、アシェル様·····なんて表情をなさるんです····。

毒を身体に受けた時とは違う、なんて切なげな·····。


アシェルを見ると、ジョッシュも涙が出てくる。


「拐われたアウロラを救いだした時、ルークはまるで頭から血を被ったかの様に血に濡れていた。

その時の表情を見ても、最早人外ではないかと思われるほど体温を感じさせないものだった。

そんな男がとても大事そうに、宝物を扱う様にアウロラを抱えていたんだ。アウロラを救出する前に私にルークは言った。自分がアウロラの剣になると。まさにその通りだよ。私はアウロラが拐われたと知っても、自分の手で直接救出する事は出来ない。ルークは直接自分の足でアウロラの元に行き、自分の手で敵を倒せるんだ。私にはそれは出来ない。アウロラに必要なのは、そういった男なのかもしれない。」

「しかし、アシェル様はこの国の公爵家の人間で、国を動かす実力者です。守り方が違うだけです。」

「······。」

「ああ、アシェル様、諦めないで下さい。」


「····泣くな、ジョッシュ。」


今まで苦労してきたアシェル様が漸く見つけた幸せ。

手放さないで欲しい。


「アウロラには、諦めていた毒の治療を行ってもらい、このように以前の体調を取り戻してくれた。そして今まで感じたことのない安らぎを教えてくれた。彼女にはもらってばかりだ。アウロラには幸せになって欲しい。私にはアウロラを諦めることでしか、それを返せないだろう。」


「もう決められたのですか?」


「ああ。本気で愛しているからこそ出来ることだ。」


そう言って微笑まれたアシェル様の横顔を、私は一生忘れないだろう。








読んで下さり、有難うございます。


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