91 ある古代種の末路
前回私の設定ミスで、誤って「完結済み」の表示がされていました。中途半端でびっくりされた方、申し訳ありませんでした。もう少し続きます。
更新遅くなり、申し訳ありません。
『神々は気まぐれだ。
彼等が選ばれた事に特に理由はない。
この世界は神々の箱庭の1つ。
神々のちょっとした遊び心で彼等が創られた。
退屈していた神は、様々な能力を持った生き物を創り出し、その生き物達の一生を1つの物語を読むかのように楽しんだ。
多くの種族がいた世界は、やがて人間の支配力が増していった。
そして人間は彼等を古代種と呼び、その能力を得るべく、古代種を狩りとっていった。
神々はそんな人間から、古代種がどうやって逃れ生き残っていくかを、まるでゲームを見るかの様に楽しんだ。
ある神は人間の恋愛という感情に興味を示した。
そこで見目も美しく、さらに媚香を放つ女の古代種を創った。
その古代種は、はじめは自分が特別な能力を持った古代種だということを知らなかった。
彼の女に関わる男は女の虜になる。
女は自分の能力に気づき歓喜した。
男と恋人関係や結婚を約束していた女達は男達の裏切りに皆泣いた。
やがて男達の中で、彼の女を巡り争いが起きた。
そして多くの者が死に、時には国さえも滅びた。
神々はその悲劇を、人間の愚かな様を、大いに楽しんだ。
神は次の物語を期待し、女に子供を産み、女の血を繋げば、その濃い血から転生出来る能力を与えた。
こうして生まれ変わることが出来た女は考えた。
前世では争いで国が滅びた。
ならば、自分が女王になれば、自分が欲する男達を皆夫に出来、争いもなくなり幸せになれるだろうと。
しかし何度生まれ変わっても女は女王になれず、女を愛した男達は不幸になった。
女は悩んだ。
ふと男達の元恋人や元婚約者達はどうしているか気になった。
すると幾人もの女達が、新たに相手を見つけ、幸せになっていた。
それが羨ましくて今度はその男達に近づいた。
しかし、その男達は女の媚香が効かなかった。
それは神が、真に愛する者が心にいる男は、媚香を不快な強い甘い香りに感じるようにしていた為だ。
媚香が効かない事に女は怒り狂い、女に妄信的な者達を使ってその者達を殺させた。
そんな女の醜さを面白がる神もいた。
やがて繰り返される物語に、人間が支配する箱庭に、神は興味を示さなくなった。
そしてその箱庭から神々は徐々に離れていった。
共存という摂理を乱す人間に愛想をつかした他の種族達も、神々に願い、新しい箱庭に移り住んで行った。
しかしその中で、残された人間と他の生き物達を憐れんだ神がいた。
特に媚香を放つ女の古代種の存在。
それをこのままにしておくことを懸念した。
そして女の媚香を打ち消せる者を創った。
見目も心も地位も、その人間が生まれた時次第。
媚香を無効化するだけしか能力を与えなかった。
さあ、どう立ち向かうか、それはその者次第····。
神々が去った後、その箱庭がどうなったのかは、きっと神々は知らないだろう。』
「カッセル教授、それが古文書に書かれていた世界の理だと?」
「はい、オーウェン王太子殿下。ハッコウカラスのムク様の助力により解読出来た内容です。」
王太子の執務室に、ミュラー教授と2000年前エルフが残したとされる古文書の研究を行っているカッセル教授が報告の為訪れていた。
そして部屋の照明には、ハッコウカラスのムク様が留まっていた。
「ムク様は解読を手助けしてくれたのだが、この内容を知っていたのだろうか?」
「800年前、我が生まれた時に出会った、この世界に残った最後の生き残りのエルフにこれに似た話を聞いた。彼等は嘘をつかない。そもそも、いくらエルフが魔法を使えたからといって、種族全員を空間移動させるなど、神の力を借りない限り難しいだろう。」
「なるほど。では、今地下牢にいるあの女は、この古文書に出てくる者だと思っていいのだろうか?」
「あの女に200年前の『ジネヴラ』の記憶があるなら、間違いないだろう。今のところまだ子は成していないようだしな。長きにわたるあやつの古代種としての生も、遂に終わりを迎えることになるだろう。」
「そうか···。では今から『ジネヴラ』の生まれ変わりか確認してくるとしよう。」
「私も参ります。この事を記録し、後世に残したいと存じます。」
「殿下私も古代種の末路を見届けたいですね。」
カッセル教授にミュラー教授も続く。
「ムク様はいかがするか?」
「そうだな。我も見届けようか。」
ムク様はそう言って、王太子の肩に飛び移った。
◇◇◇
ピチャン、ピチャン·····。
何処かで床に落ちる水滴の音が響いて聞こえる。
冷たい床に1枚敷かれた布の上で、静かに横たわる。
巨大化したトカゲの古代種に打ち飛ばされた身体。
胸を激しく打ち付け、おそらく肋骨は折れただろう。
朦朧とする意識の中で、ドラゴンと化したナナイロオオトカゲが、さらに咆哮を上げながらこちらに向かって来ているのを見た。
痛みと恐怖で意識を失ったが、負った怪我はきっと胸だけではないだろう。
薬を与えられていない身体は、身体中が痛みを感じ、指先を少し動かすことしか出来ない。
ああ、治療されず、私はこのままここで朽ちていくのだろうか?
コツコツコツ·····
複数人の足音がする。
誰か来たのね。
それなら大丈夫かもしれない。
ここさえ脱け出せれば、まだ助かるかもしれない。やり直せるかもしれない
「助けて·····苦しいの····薬を·····。」
弱々しい声で、涙を流して訴える。
「聞きたいことがある。君はジネヴラなのかい?」
この声は王太子?
そしてあの顔は、ケイルグの生まれ変わり。
「王太子殿下?いえ、ケイルグ····あなたはケイルグの生まれ変わりでしょう?覚えている?あなたと私は恋人同士だったじゃない?お願い、ケイルグ····私を助けて····。私は本当はあなたと添い遂げる為に生まれ変わったのよ。」
今世はあの邪魔なカミーユはいないはず。
ケイルグの生まれ変わりなら、きっと私を求めるはず。
「君が『ジネヴラ』だと証明出来る?」
「で、出来るわ。あ、あの王妃宮の庭の石像の下には、王宮を脱出するための秘密の通路があるわ。」
「·····王太子殿下、確かその通路は····。」
「ああ、そうだね。200年前ジネヴラが騎士と逃亡する時に使ったと言われる通路。それ以来そこは埋められ、通路はなくなった。今、それを知っている者はほとんどいない。」
「王太子殿下·····。」
「私はジネヴラよ。信じて·····。」
「そうだね。決まりだ、ジネヴラ····いやルイーズ。もう十分生きただろう。ここで君の歴史は終わる。処刑後海にその身を放ってあげよう。君の魂が2度と戻らないように。」
「え?な···どうして····。」
「ああ、寝ているから見えないか。君の足も手も潰れてしまっているよ。もう元には戻らない。ここまでだよ、ルイーズ。これ以上お前に傷つけられることはないだろう。さらばだ、ジネヴラの生まれ変わり。」
「待って····。」
王太子は警備兵に指示を出すと牢から出ていった。
「いやぁぁ、ケイルグ、いやぁぁ。まだよ、まだ終わりたくない····あああああ····!」
ルイーズの叫び声は、彼女が生き絶えるまで続いたという。
いつも読んで下さり有難うございます。




