90 アウロラの救出 ③ (ルーク視点)
残酷な描写があります。ご注意下さい。
伝令を受けてからほどなくして、王都から追跡部隊が1台の馬車を護衛しながら到着した。
その中にはダンテ·モーガンもおり、彼は馬車の中のものを護衛するために来たと言う。
「今回の犯人は伝令で知らせた通り、ジョセフ·トルーソーとマイケル·マーフィー他、当時のサミュエル殿下のご学友で処分を受けた者達だ。彼等は暗殺集団として名高い『狩人』を多数雇っている。おそらくダラム王国経由で入手したと思われる幻覚剤を使い、研究棟や、1部騎士団を身動きが出来ない状況に陥れ犯行に及んだ。目的は古代種の捕獲と思われる。拐われたアウロラ·ホーヴェット嬢は逃亡するための人質だ。奴等は予め逃亡ルートを確保していたらしく、追手を撹乱するための馬車を数台用意し、これらを王都から各地へ放っていた。そこで臭いを感知出来る古代種の力を借り、人質となったホーヴェット嬢の行方をたどり、1台の馬車を確保したが、それは完全な囮だった。中の身代わりの者にホーヴェット嬢が着ていた衣服を着せ彼女に見せかけていた。それで随分時を稼がせてしまったが、今回はおそらく間違いないだろう。」
「臭いを探知出来る古代種とは?」
「ああ、その古代種に再度探知させ、その示した方向からこのグリフォニア方面だと分かったんだ。そしてその古代種は広大なグリフォニア領の中でも場所の特定が出来るという。連れて来ているから共に向かうとしよう。」
そう言って馬車へ行き、古代種を呼ぶ。
馬車の中から現れたのは白いカラスの様な鳥を腕に乗せた男だった。
「ルーク·グリフォニア様、初めてお会い致します。生物学研究棟のネイサン·ジャッシェと申します。そしてこちらが古代種のハッコウカラスです。」
「ああ、アウロラが『ムク様』と呼んでいた話せる古代種。それでは、ムク様、私の名はルークと申します。どうぞアウロラの元へお導き下さい。」
「ああ、アウロラの元婚約者だな。」
古代種に対して、恭しい態度をとるルークに、周りは怪訝な表情を浮かべていたが、ムク様の渋い美声での言葉を聞くと、それは驚愕したものに変わっていた。
「ムク様の能力は、身体を発光させるだけでなく、臭いも感知出来ると?」
「左様。囮にはまんまと騙されたがな。まさかアウロラの着ていたドレスを別の者に着せるとは。まあ、今回は間違いない。臭いは直ぐにたどれる。馬車は今でも走っているだろう。我が探知して案内する故、直ぐについて参れ。」
そう言うとムク様は身体を発光させながら、空へ舞い上がった。
その様子に見とれている者達に激を飛ばし、ルーク達はアウロラの捜索へと向かった。
ハッコウカラスは辺り一帯を照らしながらアウロラの臭いを辿り、暗い森を進む。
ほどなくすると、高く飛行していたハッコウカラスが急降下し、強く発光した。
おそらく矢を警戒したのだろう、直ぐに上昇し上空を舞う。
あそこか·····。
ルークは示された場所を目指し、馬を加速させる。
すると森の中の道の遠く先に、光石のランタンを下げた馬車が見えた。
その周りには、雇ったと思われる、馬に乗った複数の傭兵が見えた。
あちらもこちらに気づいたのだろう。
馬車は先に行かせ、傭兵達はそのままこちらに向かってきた。
すれ違い様に戦闘が始まる。
数名を斬り殺し、あとは後部の隊に任せ馬車を追う。
さほど距離を置かず馬車は停まっていた。
そこで待ち構えていた男と対峙する。
明らかに違う、男が纏う気配に、『狩人』だと確信する。
馬の背を叩き下馬を伝え、男の手前で飛び降りそのまま戦闘が始まる。
戦闘は数回斬り合った後、男は胴を真っ二つにし絶命した。
馬車の中を確認するが、既にもぬけの殻。
歩いて逃げるには夜の森は厳しい。
おそらく何処かに隠れているはず。
戻ってきた馬に再び股がり、周囲を確認する。
草や土が踏みしめられた古い側道を見つけ、馬と共に入っていくと前方に獣の気配を感じた。
直感でそれが野獣だと分かると襲いかかる野獣めがけて斬りかかる。
まだ若く、さほど大きくない体躯だった為、1体は頭部を、もう1体は首を切断して倒す。
周りに他の野獣の気配がない事を確認してから、前方でこちらに剣を向けているジョセフ達と向き合う。
アウロラ·····。
ジョセフが苦しげに呼吸するアウロラを胸に抱いていた。
生きている事に安堵しながらも、アウロラの服装が身体に合っておらず、乱れている姿が目に入る。
その様子に、到底抑えきれない感情が胸の奥から溢れてくる。
「アウロラの服を誰が着替えさせた?」
気づけば第一声そう問いかけていた。
殺してやる。
しかしこのままジョセフを切り捨てる事は出来ない。
まだ奴には聞かねばならない事もある。
今は生かさねばならない。
剣を持つジョセフの手首を斬り落とし、腕が弛んだ瞬間ジョセフの胸からアウロラを救いだした。
自分が受けた返り血でアウロラを汚してはならない。
痛みで唸るジョセフと失神したマイケルはそのままに、自身のマントを外し、血で汚れていない面でアウロラを包み込む。
「アウロラ·····。」
苦しげな息づかい。
アウロラが手で押さえている胸の傷跡部分を確認する。
そこは何か固いもので覆われていた。
これは以前アウロラから聞いていたナナイロオオトカゲの粘液かもしれない。
これのお陰で止血と傷口をふさぐことが出来たが、固く塊になってしまった為、胸を圧迫しているのだろう。
血で濡れた手袋を外し、安心させる様にそっと頬を撫でる。
するとそれに気づいてか、アウロラは俺の手を握り、うっすら目を開けた。
「ああ····ルーク様····。」
アウロラの目から涙が溢れ出す。
「夢····でも嬉しい。」
そう言って、俺の手のひらに頬を刷り寄せる。
その仕草が堪らなく愛おしくて、額に口付け、優しく抱き締める。
「アウロラ、もう大丈夫だ。」
そう言うと、アウロラは安心したのか、身体の力が抜けていった。
「ルーク殿!」
そこへ漸く残っていた傭兵を倒し、ルークの後を追ってきた騎士達が現れた。
彼等にジョセフとマイケルを託し、アウロラと共に馬車の位置まで戻る。
するとそこには、同じく後を追ってきたのだろう、アシェル達が待っていた。
アウロラを抱き、アシェル達の元へ向かう。
彼等はルークに気づくと、その血濡れの姿を見て絶句した。
その中でアシェルだけは、マントに包まれたアウロラに気づいたのだろう、アウロラの名を呼び駆け寄ってきた。
「アシェル様、お待ち下さい!」
周りは一瞬アシェルがルークの元へ向かうのを止めた。
それもそのはず、ルークからは、ただならぬ殺気が漏れていた。
しかしアシェルはお構いなしに近寄っていく。
「ルーク、彼女は大丈夫なのか?」
ひたすらアウロラを心配するアシェルに、ルークも殺気を解く。
この男は·····。
正直、もうアウロラを手放したくはない。
ただ今はまだ、ここで事を起こすべきではない。
そうルークは判断し、アウロラをアシェルに差し出した。
アシェルは当然の如くアウロラを受け取り、大事そうに抱き締めた。
再びルークに黒い感情が生まれるが、何とか理性で抑え込む。
アウロラ、待っていて。
心の中でそう呟き、ルークはその場にいた騎士達に帰還の指示を出した。
「なぁ、お主はどう思う?」
ルーク達の様子を見ながら、なぜかダンテの頭に着地したムク様が問いかける。
「アウロラ嬢は大丈夫そうです。俺はあんな殺気だったルークに、とても近づけませんが。」
「我もあやつの血の臭いは躊躇するぞ。だが、漸くアウロラを救えた。アウロラを労るとしよう。」
「古代種殿、お力添え感謝します。」
「我はアウロラの保護者だ。気にするでない。」
ムク様はそう言って、アウロラの元へ飛んでいった。
「さて、ルークはどうするかな。このままでは終わらないだろう。」
そう呟いたダンテの言葉は、その場にいた誰もが予感するものだった。
あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願いします。




