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9 侯爵令嬢からの呼び出し

「あなたがホーヴェット男爵令嬢ね。私の名はスフィア·ミュランダンですわ。どうぞ宜しくね。」


くせのない艶のある真っ直ぐな長い黒髪に、ややつり目気味でグリーンの瞳。少しキツイ印象を与えるが、美しい顔立ちと凛とした佇まいは、第3王子の婚約者として相応しい方だった。


「はじめまして。アウロラ·ホーヴェットです。宜しくお願いします。」



いつかこんな日が来ると思ってました。

だからエリナ達と別れる放課後、誰かに話しかけられる前に直ぐ研究棟へ向かう毎日でしたが、この日は授業を休んでいらっしゃたのでしょうか、なんと待ち伏せされていました。


「ミュランダン侯爵令嬢がお呼びです。」


そう高位貴族の名を出されれば着いていくしかありません。


こうしてアウロラが案内されたのは、高位貴族の令息、令嬢のみが使用出来るサロンの一室だった。

基本高位貴族は食堂は使わず、数部屋あるサロンの一室を貸し切りで利用し、昼食をとる。

そのサロンで密室状態にされ、現在侯爵令嬢と差し向かいで座っている。


あぁ、特製胃薬を飲む時間が欲しかった。


そう心の中で悲鳴をあげながら用件が早く終わる事を願う。


「今日お呼びしたのは他でもありません。あなたはペータース子爵令息のご婚約者で間違いありませんわね?」

「はい。」

「あなたは今この学園を騒がせているルイーズ·オヴァフ男爵令嬢の事はご存知?」

「は、はい。」

「彼女はこの学園内で多くの男子生徒に手を出していらっしゃるの。それも婚約者がいらっしゃる貴族ばかり。そのお相手の女生徒の方々は皆心を痛めておいでですわ。」


第2王子のサミュエル殿下とミュランダン侯爵令嬢の婚約者の第3王子のディラン殿下もですよね····。


「学園は元々勉学の為に開かれた場。『学園では皆平等である』という崇高な精神は、男女の色恋の為にあるものではありませんの。」


おっしゃる通りです。


「彼女の影響はあなたのご婚約者のペータース様にも及ぶかもしれなくてよ。」


そうですが····。先日薬草園で見た限りは大丈夫に思えます。


「ねぇホーヴェット様、あなたは既に研究所に身をおく程、とても優秀な方だと伺ってますわ。」

「優秀かは分かりませんが···。」

「頭のよろしいあなたなら、こういった場合どうしたらいいとお思い?」


全くの専門外なんですが。

やっぱりこうなりました。

先日薬草園で見た事を、エリナと丁度その時一緒にいたトーマス様に話し、相談してみました。

二人にはその内、高位貴族から呼び出しがかかるだろうと言う予言を受け、さらにエリナ曰く、『どうしたらいいと思う?』の質問から、『あなたなら何が出来る?』の質問へ移行し、最後には『実行して下さるわよね?』という話の流れになるだろうと言われていました。

まさにその通りね。

トーマス様にも『事前にアウロラさんなりの考えをまとめていた方がいいだろう。』と言われ、私なりにあれから色々考えてきましたわ。


アウロラは頭の中で考えてきた内容をもう一度まとめ直してから口を開いた。


「あくまでも私の意見ですが···。」

「ええ、どうぞ。」


アウロラは、ミュランダン侯爵令嬢の側に控えていた従者に紙と書くものを借り、5つの提案を書いた。


① 婚約者方とルイーズ·オヴァフ男爵令嬢との行為を一切干渉せず、完全に放置する事。

② 婚約者方とルイーズ·オヴァフ男爵令嬢の行動を目撃したら、その日時、場所、内容、またそれを目撃した人の名前を記録する事。

③ 自分達の毎日の行動を記録しておく事。

④ 王妃様、もしくは高位の方の後ろ楯を得る事。

⑤ エリーサ·リュクトフ伯爵令嬢の諫言した内容を正当化する証拠を得る事。


アウロラは書き終えるとミュランダン侯爵令嬢に手渡し、確認して頂く。

紙を受け取った令嬢は一通り確認すると、早速質問してきた。


「まず1つ目の内容ですと、これは彼女を野放しにするという事ですの?これでは彼女の行動がさらに増長しませんこと?」

「させればよろしいのです。そうすれば不適切な内容の目撃情報を多く得る事が出来ますので。情報は必ず役立ちます。」


エリナ達商人は情報こそ宝だと言っていた。

アウロラの研究でもそうだ。


「それに今の婚約者の方々に何を言っても、きっと受け入れたりはしないでしょう。それはエリーサ·リュクトフ伯爵令嬢が諫言した後に起こった事からもお分かりだと思います。婚約者の方々が身をもって知り、理解しないと解決はしないでしょう。」

「エリーサ様の件をご存知だったのね。本当にお気の毒でしたわ。エリーサ様がオヴァフ男爵令嬢に諫言した内容は貴族として、また学園に通う生徒として当然のものでしたわ。それをあの方はその場では殊勝に聞いているふりをなさって、私と第2王子サミュエル殿下のご婚約者のシャーロット·ジェンセン公爵令嬢が王子妃教育で数日不在している時を見計らって、殿下方に泣きついたのです。私共が戻って来たときには、エリーサ様はすでに自主謹慎なさってましたわ。殿下方に抗議しましたが、自主的に謹慎した事だからと、聞き入れて頂けませんでしたの。」

「今後出てくる目撃情報の中にエリーサ·リュクトフ伯爵令嬢様の諫言された内容に合うものがあれば、それが正当なものだったと証明される事になります。そしてどれだけ多くの方が男爵令嬢と接触し、不適切な行動をとっているか知ることになれば、皆様考えを変えられると思います。

俗な言い方をしますと、自分以外の男性にも色目を使っている事を良しとする人は、きっといないという事です。」


ミュランダン侯爵令嬢は深く頷く。


「ただ一つ懸念されるのが、情報を提供する事で、殿下方の不興を買う事を恐れる方々がいらっしゃるという事です。特に私共の様な下級の者は学園に居られなくなるかもしれません。その為に王妃様の様な高位な方々の後ろ楯が必要なのです。」

「なるほど、理解しましたわ。私の父上にもお話してみますわ。それで、『私達の行動も記録する』というのは?」

「ルイーズ·オヴァフ男爵令嬢に何かあった場合、私達が冤罪をかけられるのを防ぐ為です。ですので、今現在彼女を廃したいと思われている方がいらっしゃったら、どうぞ思い止まる様にお話し下さい。そしてこれらを実行されるならば、どうぞご内密に。」

「分かりましたわ。シャーロット様にもお話ししてみます。さすがホーヴェット様ね。ご提案下さった事、感謝致しますわ。どうぞこれからは私の事はスフィアとお呼びになって。」


そう言って、ミュランダン侯爵令嬢は今までの冷たい雰囲気は何処へやら、とても優雅に微笑んで下さった。


「有難うございます。私の事もどうぞアウロラとお呼び下さい。それから申し上げにくいのですが·····。」

「何かしら?」

「実は今、取り組んでいる研究で忙しく、今後なかなかお力になりそうもないのですが。」

「そうですのね、残念ですわ。ですがその為に学園に学びに来られていらっしゃるのだから、どうぞお気になさらないで。頑張って下さいませ。」


ふぅ····良かったぁ。これで解放されるわよね。


「では私が持っている目撃情報ですが。」


そう言って、最後に今まで見た内容を紙に書いてお渡しするも、スフィア様のそれを読む表情が鬼の様になっていたのは言うまでもない。

読んで下さり有難うございます。

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