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87 アシェルとルーク (ルーク視点)

更新遅くなり、申し訳ありません。

感想を下さり、有難うございます。励みになります。

時は少しさかのぼる。


第2騎士団に護られながら、王家の紋章の入った豪奢で堅牢な馬車の中から降り立ったのは、アシェル·セラ·グルーバー次期公爵。

オーウェン王太子殿下の最側近で、自身も王位継承権の資格と言われる紫水晶の瞳を持った人物だ。

以前サミュエル殿下の護衛の際会った時は、王太子殿下を庇って受けたという毒の後遺症のせいか、顔色は悪く、どこか儚げな印象だったのを覚えている。

しかし、目の前のアシェルはどうだろうか。

噂に違わなぬ彫刻の様に整った顔立ち、黒髪から覗く紫水晶の瞳は神秘的だ。

ただそれ以上に今までと異なるのが、以前には感じられなかった生気。

王太子殿下に感じたものと同じ為政者として国を治めるに足る堂々としたオーラだった。

正直、オーウェン王太子殿下とアシェルがいれば、例えサミュエル殿下とディラン殿下が女で潰れようとも、次世代の王権は揺るぎないものだと確信できる。

最早アシェルの代名詞となっている半仮面は、未だ着けたままだった。

見て直ぐに感じ取れる程の明らかに改善された体調の変化。

それは聞いていた通り、アウロラによる治療のお陰だろう。


領主であるワイアットからの出迎えを受け、粛々と入城する。

アシェルの意向で直ぐ様場所を移し、2日後に行われるダラム王国との会談のための対策を話し合う事になった。


「まずはじめにこの度の諸君が導いてくれた勝利に、心より礼を言う。会談を無事終えたら、王都にて戦勝祝いの席を設ける予定だ。その際に陛下より褒賞が授与されるだろう。それからダラム王国の王太子を討ち取った者、ルーク·グリフォニアには『英雄』の称号が与えられるだろう。心しておくように。」


そう言うと、アシェルはルークに視線を向ける。


「ルーク·グリフォニア卿、この度の働き大義である。」

「有難うございます。」


ルークは騎士の礼をとる。

その時、ここに来て初めてアシェルと視線が交わった気がした。


恐ろしく美しいこの男は、俺の事をどのように思っているのだろう。

アウロラがこのグリフォニア領への遠征に参加していたこともあってか、まだ婚約を結んだという話は聞いていない。

だが見て分かる。

アシェルはアウロラに想いを寄せている。

彫刻の様な無表情の中に、騎士としての俺というよりも、アウロラの元婚約者としての俺という人間を窺う視線を感じる。


アウロラとはどこまで関係を築いているのだろうか。

しっかり者のアウロラがたまに見せる、ちょっと抜けた所や、顔を真っ赤にして恥ずかしがる姿。

アシェルもそんなアウロラを知っているのだろうか。

アシェルの身体を治すため、献身的に治療を行うアウロラの姿は、容易に想像できる。

俺にとって、今アシェルは最も恵まれている男。

正直、嫉妬でどうにかなりそうだ。

あの時アウロラがグリフォニア領に来ていると知っていたならば、自分を抑える事は出来なかったかもしれない。


ルークは感情を押し潰すように、きつく目を閉じる。




ダラム王国との会談は、国境近くにある砦で行われた。

砦は負傷者と共に残っている第3騎士団の半数と、王都から来た第2騎士団に護られており、多少有事が起きたとしても対処するに十分の兵力だった。

会談相手は、ダラム王国の宰相を務める男だった。

ダラム王国の王太子の証とされる指輪と、戦いの神ルダーンの神器とされる剣は、彼の国では国宝である。

ダラム王国は、当然これらの返却を求めた。

ローヴェル王国国内の一連の毒による攻撃の関与は曖昧だったが、豊かな農地を狙っての侵攻は、王太子独断の行動だったと、国としての減刑を求めてきた。

しかしアシェルは、手付かずにある国境付近の3つの鉱山を含んだ土地をローヴェル王国の領地とする事、討ち取った王太子の子をローヴェル王国側に人質として差し出す事を了承させた。

妥協を一切許さないアシェルの姿勢に、ダラム王国の宰相達が震え上がっていたのは言うまでもない。


会談は無事終了した事で、まだ安心出来ないとはいえ、グリフォニア領の者達には安堵の表情が見てとれた。

だからだろうか。

その後開かれた宴で、浮かれる者も現れた。

遠縁だからと、マーガレットを妾にと勧めてきたザルダ殿だ。


「この度の交渉役として、グルーバー次期公爵様にお出で頂けるとは思っておりませんでした。大変光栄にございます。」


やはり普段から『氷の騎士』の異名を持つワイアットと接しているせいか、ザルダは王族であるアシェルに対しても、さして躊躇することをなく接していた。


王都ならば、不敬で摘まみ出されそうだ。


「グルーバー様は未だ王太子殿下を庇われた時に受けた毒に苦しめられていると伺ったのですが、このような辺境の地へ来られて、お身体は大丈夫ですか?このルーク殿も、この度の戦いで毒により命を失いかけましてな。その際、こちらに医療団として来ていた、ホーヴェット家の若い娘の医師に助けられました。いやはや、あの技術は素晴らしいものでした。グルーバー様も1度診て頂いてはいかがですか?爵位がどうであれ、彼の娘をグリフォニアの誰かと引き合わせ、この地に留まらせたいと思いました。」


「ザルダ、余計なことを申すな。不敬だぞ、慎め。」


ワイアットがザルダを制す。


「ハッハッハ、申し訳ありません。少し酔いが回ったようです。」


ザルダはアウロラが俺の元婚約者だという事を知らなかったのだろう。

あの時思わず打ち明けた騎士は、吹聴することはなかったようだ。

神殿でもセオドアにアウロラの事を迫ったが、聞いていたであろう周りの人間も黙ってくれていたらしい。


今まで無表情だったアシェルが、アウロラの事を匂わせる話に反応をみせる。


「王都にて私もホーヴェット家の令嬢より治療をしてもらっている。ホーヴェット家の技術の素晴らしさに関しては、身をもって体験している。仮面は私の代名詞のようなものだから着けているが、毒による瘢痕は、今や薄い痣を残すのみだ。」

「ほう、左様でございましたか。それでしたらホーヴェット家は子爵、側室にでもされるのですか?」

「いや、彼女の価値は爵位に囚われるものではない。私は正妃にと望んでいる。」

「これはこれは。」


あまりにはっきりしたアシェルの物言いに、ザルダもたじろぐ。


「ルーク、少し向こうで話そうか。」


俺個人を指名したこともあって、他の者が割り込んで来ることはなかった。


「この度の戦いで命を落としかけたそうだが、その後の体調は大丈夫か?」

「はい、ご心配有難うございます。」

「グリフォニア領から帰ってきたアウロラに会ったが、彼女は泣いていたよ。」

「!!」

「アウロラが来ていたことを知らなかったのだろう?そしてアウロラも知らせなかった。彼女は今回の遠征に参加を希望したのは、一重に君の力になりたいという想いからだ。彼女は君の命を救えたことで役目を果たせたと満足している。他の者達も大勢救っているがな。」


「······。」


「私が君に会って伝えたかったのは、私は彼女を愛している。きっかけは王家からの打診だという事は否定しない。彼女を好きになる理由は君も分かるだろう?私はこの先彼女と共に歳をとっていきたいと思った。」


「······。」


「オーウェンから聞いていると思うが、彼女は『古代種に愛されし乙女』で、それは古代種と共に国を繁栄させる存在だと言われている。そして国が保護すべき存在だ。私の妻となったなら、グルーバー家も彼女の後ろ楯となる。私が一生彼女だけを愛し、護ると約束しよう。」


アシェルの迷いなき言葉にルークは何も言えなかった。



その時だった。



にわかに会場が騒がしくなった。

見ると急ぎの伝令でもあるのか、執事と騎士がワイアットに何か話している。

ワイアットの視線がこちらに向く。

やがて従者が近寄って来て、アシェルとルークを別室に案内する。

どうやら王都から急ぎの伝令が届いたようだ。


別室に行くとワイアットが届いた書状をアシェルに渡す。

アシェルはそれに目を通す。


書状を読んだアシェルは表情を厳しくさせる。


「これは誠か?」


アシェルは伝令の騎士に冷たく問う。


「はい。王都の研究棟の研究員、アウロラ·ホーヴェット子爵令嬢が、王城に侵入したジョセフ、元トルーソー伯爵令息の手により、拐われました。足取りを追っていますが、得た情報によると、今日明日にでもこのグリフォニア領の何処かを通過するだろうとの事です。」

「間違いないのか?」

「はい。ダラム王国との緊張は続いていると思いますが、グリフォニア領をはじめ、騎士団の皆様で令嬢の捜索を行うようにとの事です。」

「承知した。アウロラ·····。辺境伯よいな?」

「はっ。」


「グルーバー様、辺境伯様、私が参ります。」


「ルーク、そうか。指揮は君が確実だろう。必ず救出するように。髪の毛1本傷つけるな。」

「はっ、承知しました。」

「第3、第2騎士団には君の命に従うように申し付けよう。頼んだぞ、ルーク。」

「はっ。」


ルークはそう応えると、アシェルを真っ直ぐに見つめる。


「アシェル様、あなたが彼女の盾になるならば、私は彼女の剣になります。」


読んで下さり有難うございます。

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