86 拐われたアウロラ ②
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「なんだ、あれは?」
夜の帳が下りた城内を、馬に乗り、ハッコウカラスのムク様の光に先導され神厩舎にたどり着くと、そこには真っ赤な竜の様な生き物が咆哮をあげ、荒ぶるテンセイバは皆で抑えられている所だった。
深傷を負った騎士達と、既に絶命したのか侵入者達の倒れた身体がそのまま放置されていた。
ムク様はその身体から強めに光を発し、注意を引く。
そして竜の頭に乗り宥める様に声をかける。
「落ち着けトカゲ、なんて姿だ。」
「まさか、それはナナイロオオトカゲなのか?」
王太子をはじめ、駆けつけた騎士達は驚愕の表情を浮かべる。
テンセイバもハッコウカラスの姿を確認すると、落ち着きを取り戻していた。
そこへマシューが肩を押さえ、ふらつきながらも王太子の元に駆け寄る。
「王····王太子殿下····。」
「マシュー·ヘリング、如何した?アウロラ嬢はどうした?」
「それが、胸を刺され····連れ去られました。」
「何だと?」
「お主、アウロラが刺されたと申したか?!」
ムク様もマシューの言葉に驚き、声を荒らげる。
「侵入者はジョセフ·トルーソーとマイケルという男。そしてルイーズという女です。他は手練れの者達を雇っている様でした。彼等はナナイロオオトカゲを狙っていたようです。ナナイロオオトカゲは危険を察知し、擬態の能力で姿を消したのですが、侵入者達はナナイロオオトカゲをおびき寄せる為に、アウロラさんを刺しました。」
「まさか······。」
王太子の顔色は更に悪くなる。
「アウロラさんが刺された後、奴等の思惑通り、ナナイロオオトカゲが姿を現しました。そこで傷口を舐めていましたので、粘液の効果で傷は塞がっている可能性は高いですが、本当に大丈夫なのかは分かりません。申し訳ありません·····。」
マシューはそう言うと、その場に跪く。
「そなたも傷を負っている。誰か、ヘリングを治療に連れていくように!」
マシューは騎士に支えられながら、王宮へ向かう。
「令嬢が拐われた!急ぎ城内を確認しろ!令嬢は深傷を負っている。慎重に、且つ速やかに対応せよ!」
王太子の言葉で騎士達が一斉に動き出す。
それから王太子は古代種達に目をやる。
「ムク様、この竜はナナイロオオトカゲで間違いないのだろうか?」
「左様。危機を感じてやむなくだろうが、急激に身体を成長させた為に、まだ自身を上手く動かせていないのだろう。」
ムク様は巨大化したナナイロオオトカゲの頭に乗りながら、そう話す。
一旦は大人しくなったものの、竜という異質な生き物を目の当たりにし、騎士達は警戒するが、王太子はお構い無しだった。
王太子は目の前の竜を諭すように語りかけ、護衛する騎士達も落ち着かせる様に指示する。
「我等がここで騒いでも、アウロラ嬢の救出には繋がらない。今は大人しくしていろ。
ナナイロオオトカゲもテンセイバと共に神厩舎で保護せよ。他の研究員達が来ていないとなると、研究棟で足止めされているな。騎士達は研究棟を直ぐに確認し、ネイサン他研究員を世話人としてこちらに連れてくるように。そこでムク様に頼みたいことがあるのだが、アウロラ嬢達を追えるだろうか?」
「まぁ、もとよりそのつもりだ。」
ムク様の言葉を聞き、王太子は口角をあげる。
「ハッコウカラスはただ単に身体を発光させるだけが能力ではない、そうだろう?」
「······。」
「通常、鳥にはほとんどないと言われる嗅覚と人間と変わらないと言われている視覚、この2つが、異常に発達している·····そうだろう?」
「よく覚えていたな、王太子よ。」
王太子は少し笑みを見せると、直ぐ様指示を出す。
「あのジョセフの事だ。逃げるための手は打っているだろう。城外へ出た場合を想定し隊を組み追え!急げ!」
夜の城内に王太子の厳しい言葉が響きわたった。
◇◇◇
「よく王都を抜け出せたよな。」
王城から脱出したジョセフ達を乗せた馬車は、王都を抜け、北部の国境を目指し向かっていた。
「元々、アリーチェ王女の情報は得て利用しようと思っていたが、王女を城から脱出させたり、古代種を連れ出したりする事は、不可能に近いと分かっていた。だから失敗しても脱出できるだけの準備はしていた。」
「そんな難しい計画だと分かっていながら、何故こんな危険を冒したんだ?俺達は平民として商会を成功させ、俺達を女にかまけた愚か者だと笑っている奴等を見返すんじゃなかったのか?」
「そうだな。それでルイーズを迎えて裕福に生活出来れば良かったはずだがな·····。ルイーズが望んだ事は叶えてやりたいと思った。失敗するとしても彼女の気がすめばと。」
「俺も彼女に再会して顔を見たら、確かにそんな気持ちにはなったさ。だが、どうだ?こんな大それた事に足を突っ込む事になるなんて。それにルイーズ·····彼女はもう昔の彼女じゃない。あんなに平気で人を刺すなんて····人を傷つけるのを何とも思っていなかったじゃないか?。あんな醜い····。俺達はあんな女に全てを捧げていたのか?」
心労の為か、頬はすっかり痩け、生気をなくしたマイケルが、ジョセフに訴える。
ジョセフも同様に気持ちは沈んだままだった。
「ルイーズはどうなったんだろう?あの変異した古代種に吹き飛ばされていただろう?もう死んでるよな?」
「ああ、生きていたとしても、重傷だろう。」
「脅せば良かったんだよ、脅せば!俺は知ってるぞ、あの令嬢、ルークの元婚約者のアウロラ·ホーヴェットは研究棟では『古代種に愛されし乙女』と呼ばれているんだってな。古代種の逆鱗に触れたんだ。俺達はきっと呪われているよ。どうせ捕まって処刑される·····。」
「落ち着け、マイケル。あれから既に2日経っているが、未だ追手は来ていないだろう?元々逃げる際、撹乱させるために数台の馬車を囮にして、各地に走らせているんだ。『狩人』達は夜目も利くし、夜でも馬車を走らせ逃げる事が出来ている。このまま行けば、無事国外へ逃げおおせるさ。」
「見つかったら?」
ジョセフは自身の膝を枕にし、眠っているアウロラに視線をおとす。
「その為に彼女を拐ったんだ。彼女はいい交渉材料になる。」
「追手の騎士達がホーヴェット嬢を見捨てるかもしれないぞ。彼等にとって、令嬢の命より、俺達の捕縛を優先させるかもしれないじゃないか。」
「彼女を優先させるように仕向ければいい。」
「どうやって?」
「彼女を絶対に優先させる人間がいるだろう?」
「まさか·····。」
「そう、ルーク·グリフォニアがいる、グリフォニア辺境伯領だよ。そこならホーヴェット嬢が人質の効果が十二分にある。」
「しかし、あの冷徹なルークが令嬢を優先するだろうか?」
「お前は見ていなかったのか?卒業パーティーでの2人を。ホーヴェット嬢に向ける、ルークのあんな表情は見たことがなかった。あいつは心のない狂戦士だと思っていたからな。ホーヴェット嬢の事を心から愛しているよ。間違いなくルークは彼女の命を優先する。最悪、戦闘になったら、『狩人』達にルークの相手は任せ、私達はグリフォニア領を突っ切るだけだ。」
ジョセフは眠るアウロラの頭を優しく撫でながら、そうマイケルに話す。
「····このまま彼女を国外へ連れていくのもいいかもしれない。」
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