84 狙われた古代種 ②
残酷な描写があります。
ご注意下さい。
「ルイーズ、本当について来るのか?」
「ええ、トカゲの古代種を捕獲するのに立ち会いたいの。もし古代種を連れて来れないなら、少しでも身体を切り落としてでも持ち帰りたいの。何ならその場で傷つけて、血を啜ってもいいわ。」
「血を啜るって、ルイーズ·····。」
ルイーズの異様な発言にジョセフもたじろぐ。
「身体が元通りになるなら何でもするわ。それでジョセフが私の事を嫌いになるならそれでもいい。私1人でも逃げて生き残るわ。」
ジョセフは、薬を盛られ、子を産めなくなったと知ってからのルイーズの変化に異常さを感じながらも聞き流すことにした。
「 この国から出て、静かに暮らすようになれば、ルイーズも元通りになるはずだ。」
ジョセフは自分に言い聞かせる様に、そう呟いた。
◇◇◇
共に来ていた研究員は、そのまま神厩舎に留め置き、ネイサンとアウロラの2人が騎士と共に研究棟に戻る。
ミュラー教授は不在だった。
残っていたマシューに事情を話し、ナナちゃんを連れ出すと、今度は温室に行きムク様を呼び出す。
「ムク様!急ぎおいで下さい!緊急事態です!」
アウロラの声に応え、ムク様が舞い降りる。
「アウロラ、慌てて如何した?」
「テンセイバが念話で、そう念話でおっしゃったのです。古代種を狙った侵入者がいると。この温室に居て、万が一毒の煙など炊かれてはたまりません。テンセイバは神厩舎に来るようにとおっしゃっていました。」
「落ち着けアウロラ。お主、テンセイバと話したのか?」
「え?あ、はい。突然声が頭の中に響いてきて。テンセイバは『神厩舎に連れて来るがいい。我が守ろう。』とおっしゃっていました。」
「そうか。あやつは大地の守護者だ。地脈を通して何かしら悪意を感じとったのだろう。おそらく一番狙われているのはトカゲだ。」
「ナナちゃんが?」
「ああ、昔から再生の加護のある古代種と言われ、食せば怪我も病もたちどころに治ると思われている。」
「食す?ナナちゃんを?」
「まぁ、捕まりはしないがな。アウロラは危険だからここに居よ。我は勝手に飛んで向かうから。」
「駄目です。矢で射られたりしたらどうするんですか?私が胸に抱えてお連れします。」
「胸にか?」
「ムク様とナナちゃんの事は必ず守ります。これだけは譲れません!」
アウロラは外套で隠すようにムク様を包み胸に抱く。
そのまま温室で迎えに来る騎士の一団を待つ。
ネイサンは長期戦を考え、食料などを準備すると研究棟の厨房に行っている。
「たまに不審者が襲撃してくる事はありましたが、こんな大掛かりなのは初めてですね。」
ナナちゃんを抱えたマシューも緊張した面持ちだ。
「あの煙は王城のどの辺りなのでしょうか?」
古代種が襲われる事が懸念される中、煙の出所が気になる。
おそらく計画ではあちらに注意を逸らして、こちらを襲うつもりだったのだろうと思う。
テンセイバの言葉をアウロラが拾わなければ、皆あちらに気を取られていただろう。
「王太子妃殿下の宮殿だと思われる。」
共に救援を待つ騎士が言った。
王太子妃·····アリーチェ王女様の······。
パーティーでの圧倒的な存在感の王女の姿が思い出される。
最近、ご懐妊されたという話を聞いたばかりだ。
まさか王女も命を狙われて·····。
心配だわ·····。
どうして突然、誰がこんな事を。
アウロラはえもいわれぬ不安に苛まれる。
「王宮の建物から煙が上がったとなると、様々な脅威を想定して騎士団も対処しなければなりません。元々研究棟はそれなりに警備体制を敷いているので、通常追加の人員確保は後回しになるかもしれませんが、ディラン殿下が直々に要請に行って下さっているのでしょう?侵入者がこちらに来るまでには、きっと救援の人員も配備されるでしょうから心配しないで。」
マシューが怯えるアウロラを慰める。
「はい、マシューさん。」
アウロラがそう返事をしたその時だった。
にわかに温室の入口付近が騒がしくなる。
救援の騎士が来たのかと思えばそうではないらしい。
「早くここから出て下さい!」
守衛だろうか、こちらに向かって叫んでいる。
共に古代種の警備についていた2人の騎士の内の1人が確認の為に入口へ向かう。
外はもう薄暗い。
「もう神厩舎には行かず、このままここに居た方がいい気がします。」
確認に行った騎士の背中を見守りながらマシューが小声でそう呟く。
「ですが、かたまって居た方が騎士の皆様も守りやすいのでは?」
「確かにそうですね。」
「静かに。様子がおかしい。」
小声で話していたアウロラ達に騎士が声を潜めてそう告げる。
温室内の噴水の音だけが静かに響く。
アウロラ達は温室の入口を目を凝らして見つめる。
暗闇に慣れてきた目が、入口にいた騎士がゆっくり倒れるのを見とめる。
「!!」
そして入口から誰か分からない2つの人影が入ってきたのが見えた。
「止まれ!名を名乗れ!」
騎士が牽制し、アウロラ達を守る様に前に立つ。
誰?怖い·····。
ムク様を抱き締める腕に力がこもる。
「アウロラ、落ち着いて、手の力を弛めよ。」
先程までアウロラの胸で気持ち良さそうに目を閉じていたムク様が静かにそう話す。
アウロラが力を抜くと、ムク様は腕から抜け出し、アウロラの頭に飛び乗った。
「ムク様、危険です!」
「大丈夫だ。皆の者、目をつぶっておれ。」
何時もより低い、ムク様の美声がそう告げた。
アウロラ達は言われるがまま目をつぶる。
刹那、目をつぶっていても眩しい程、ムク様が発光した。
「うくっ」
すぐ近くで知らない声が聞こえた。やがて光は落ち着き、恐る恐る目を開けると、そこには抜いた剣を持った男達が、光で目が眩んだのだろう、そこに立ち尽くしていた。
すかさず騎士が斬りかかるが、相当な手練れなのだろう、目をつぶったまま応戦していた。
「逃げろ!」
騎士が叫ぶ。
アウロラとマシューはそのまま温室の入口を目指す。
「アウロラさん、騎士の応援は来ていませんが、このまま王城の神厩舎に行きましょう!」
マシューが叫ぶ。
侵入者2人を騎士が抑え、アウロラ達を追っては来ていない。
マシューはナナちゃんを、アウロラはムク様を抱き留め神厩舎に向け走った。
王城の神厩舎まではそれなりに距離がある。
マシューはなるべく目立たないように、少し遠回りになるが、隠れながら向かう。
「研究棟内のネイサン達は大丈夫でしょうか?温室に残った騎士様も····。」
今言っても仕方がない事だとは分かっていながらも、不安から思わず呟いてしまう。
「ナナちゃん、ムク様、絶対守りますからね。」
震える声でそう話すアウロラを逆に励ます様に、ナナちゃんはアウロラに顔を擦り付け、ムク様とマシューは頭を撫でる。
何時もの王城の守衛の姿は見えない。
アウロラ達は慎重にそこを通過すると、神厩舎が見える所までたどり着く。
「アウロラさんっ!」
マシューさんが焦った声をあげる。
神厩舎は3名程の侵入者に襲われていた。
残っていた騎士と守衛達だろう。激戦が繰り広げられていた。
既に倒れている人の姿も見える。
「なんっ·····。」
「隠れましょう、アウロラさん!」
「は、はいっ。ムク様、ムク様は今のうちに空高く飛んで逃げて下さい!私達と居る方が危険なようです。王宮の····王太子殿下の元に、早く!」
「助けを呼んで来よう。」
ムク様はアウロラの手から飛び立つ。
ムク様の白い身体を見送りながら、アウロラ達も身を隠そうとした時だった。
「こんな所にいたのね。」
聞き覚えのある、少し笑みを含んだ声がした。
アウロラは振り返る。
そこにはフードを深く被った3人の何者かが立っていた。
1人がフードを持ち上げ、こちらに顔を見せる。
「どうして····。」
アウロラは驚きで立ち尽くす。
「ごきげんよう、アウロラさん。カメリアさんとはあの後、和解出来たのかしら?ああ、そう言えば、グリフォニア辺境伯領への遠征に参加されたのですってね。噂で聞きましたわ。ルーク様には会えまして?そうそうグリフォニア辺境伯領でマーガレットさんには会えました?ルーク様が大好きで、嫉妬心と独占欲が強い方。ある意味とても女性らしいけれど、アウロラさんは仲良く出来たかしら?」
アウロラに話しかける女は、つい目の前で死闘が繰り広げられているのが目に入っていないかの様な穏やかな口調だ。
ただ、手には刃物が握られている。
「ルイーズさん、どうしてここに·····何をしようというの?」
「そこの後ろの方が抱いているのは古代種のトカゲなのでしょう?私達はそれを捕まえに来たの。渡して頂ける?」
「渡せません。」
「アウロラさんはその古代種を研究されていたのだからご存知でしょう?再生の能力があるとか。私身体が良くないの。食べさせてもらえる?」
「食べる?こ、殺させません!」
「少し尻尾を切らせてもらうだけでもいいわ。あなただって、お肉位食べるでしょう?別にトカゲを食べたっていいじゃない。」
「ナナちゃんは、この子は家族です。渡せませんし、殺させません。」
「ナナちゃんだなんて。ふうん、懐いているのね。」
「ナナちゃん、擬態して逃げて!」
マシューがナナちゃんを地に放つ。
途端に嘘のように見えなくなる。
「しまった、擬態だ!まだその辺りに居るはずだ!」
ルイーズの後ろにいた2人がマシューとアウロラの方へ駆け寄る。
「止めて下さい!」
マシューとアウロラは手を広げ邪魔をする。
「ジョセフ、大丈夫よ。」
ルイーズはそう言い、アウロラに近づき、突然その胸に刃物を刺し入れた。
「アウロラさん!」
マシューが叫ぶ。
「ルイーズ、何て事を·····。」
ジョセフも想定外だったようで、動揺を見せた。
「名前を呼ばれて、言う通りに行動する位懐いてるみたいだもの。飼い主が死にかけたら、心配して近寄ってくるんじゃないかしら。それに丁度いいから、本当にこの古代種で怪我が治るか試してみましょうよ。」
ルイーズはそう言い微笑む。
倒れたアウロラの胸は、血で染まっていった。
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