78 ルイーズの狂気
生暖かいものが、ねっとりと背中に広がっていく。
エマは徐々に熱を帯びてきたそこから、一気に力が抜けていくのを感じた。
ジョセフを締め上げていた腕に力が入らない。
ジョセフもその事に気付いたのか、直ぐにエマの腕から逃れた。
「許さない····許さないわ····。」
先程まで青ざめていた顔色は一気に怒りの表情と共に赤みを増していた。
「何てことをしてくれたの!子供を残せなければ、私は生まれ変われない!そう····やり直せない!どうしてくれるのよ!」
ルイーズは怒りに任せて、再びナイフでエマを刺そうとする。
「やめろルイーズ!それより早くここから出なければ!」
ジョセフはルイーズを抑え、ナイフを取り上げると、近くにあったタオルでルイーズの血のついた手を拭う。そしてストールを手に取ると、ルイーズの頭から被せ、顔を隠す。
そうしてそのまま手を引き部屋を飛び出した。
その時エマは力なくその場に手をつき、かろうじて身体を起こした状態で、2人が部屋を出ていくのを見つめていた。
「私に手をかけましたね。·····これであなた達は処刑台行きだ····。」
血の気の引いた顔で不敵に笑うエマに苛立ちを覚えながら、ルイーズはジョセフに手を引かれるがまま出ていった。
ルイーズ達がいた宿は忙しい時間帯に入ったようで、受付は賑わっていた。
2人は何食わぬ顔で人の間を通り抜け外
に出た。
ジョセフ達は裏に停めていた馬車に乗り込むと、御者に行く先を告げ、何処かへ向かって馬車を走らせた。
「ルイーズ大丈夫か?」
「ええ·····ジョセフ·····。ごめんなさい。」
「刺したのは驚いたが、逃げるためにはそれしかなかったかもしれない。」
「·······。」
「しかし、何らかの監視はされていると思っていたが、予想外だったな。あの女が生きていても死んでいても、いずれにしろ追手がかかる。今のうちに王都を出るぞ。」
「王都を出る?」
「ああ、元々ある情報を確認する為、出る予定だったんだ。それが早まっただけだ。それにその情報は我々の切り札になる。」
「分かったわ。ジョセフ、でもその前に病院に連れていって。わたし、本当に妊娠出来ない身体になったのか知りたいの。」
「今じゃなければ駄目か?」
「ええ、体調も悪いから今すぐにでも。」
「····分かった。王都の外れに誰でも金さあえあれば診てくれる医者がいる。そこに向かうぞ。診てもらったら直ぐに出発する。」
こうしてルイーズ達は急ぎ医者の元に向かい、ルイーズの身体を診てもらった。
ルイーズの症状から、エマがルイーズに飲ませていたのは、よく貴族の間で使われる毒性の強い避妊薬らしく、服用する期間により妊娠しない身体になってしまうだけでなく、命を落とす危険もあるものだった。
どうしよう······。
「ルイーズ泣くな。お前の面倒は俺が一生みるから。」
「ジョセフ、そうではないの。その先の事を言っているの。」
「その先?」
ジョセフは一生より先の事が何を意味するのか分からず困惑する。
あの女·····絶対に許さない。
でもどうしたらいいの?
子供を生まないと命を繋げられない。
そうしたらもう生まれ変われない。
嫌よ····まだ····私は····私は女王になれていない。
女王にさえなれば····権力が手に入れば、私はこの媚香の力で男達を私の意のままに操れる。
そうすれば皆、幸せになれるのに。
思い出して·····何か手があるはずよ。
今まで何回生まれ変わっていると思ってるの?
何か·····何か·····。
『·······。』
あれは誰だったかしら?
『あんたも王の妃の1人だろう?知識不足も甚だしいな。』
『失礼ね。それでその●●●は殺せるの?』
あれはいつ?
誰との会話?
何の話をした?
あの時のあの男·····あの男は何と言っていた?
『····因みにここには他の●●●はいるのか?』
ああ、あれは私がジネヴラと呼ばれていた頃。
『ある古代種のトカゲを探しているんだ。再生の加護を持ったやつで、何でも不治の病や怪我もそいつを食せば治るらしい。』
「古代種······。」
「ルイーズどうした?」
「ジョセフ、古代種よ。古代種だわ!」
「古代種?何の古代種だ?」
「トカゲよ。トカゲの古代種よ。」
「トカゲの古代種がどうしたんだ?」
「トカゲの古代種は再生の能力があると聞いたことがあるの。食べると不治の病や怪我も治るそうよ。私もそれを食べれば、きっと元の身体に戻れるわ。私だけでなく、サミュエル様だって、去勢された身体を元の身体に戻せるわ。」
「サミュエル殿下か·····。」
「ふふ、別にサミュエル様だけではなくて、ジョセフ、私はあなたとの子供も作れるのよ。私は子供が欲しいの。」
「ルイーズ······。」
「お願いジョセフ、トカゲの古代種を探して。」
「トカゲの古代種か·····。そう言えば、アウロラ·ホーヴェットが褒章を受けた研究は何だった?確か、ナナイロオオトカゲの古代種についてじゃなかったか?」
「ナナイロオオトカゲ?」
「ああ。古代種については、その希少性故に秘匿されるんだが、彼女の書いた論文を父伝いで、情報を洩らさない約束で読ませてもらったんだ。皮膚の再生について書かれていたと思う。」
「その古代種はどこにいるの?」
「王都、研究棟だ。」
「きっとそれよ!捕まえて食べればいいのよ!」
「食べる····古代種を?」
「お願いジョセフ!私のためにその古代種を捕まえて!」
そう懇願するルイーズの目は狂気に充ちていた。
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