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75 グリフォニア辺境伯領 ⑨

「ローラ、お疲れ様。」

「え?サルト、もう戻ったの?」


ルークが意識を取り戻してから2日後、グリフォニア城では簡易的ではあるが、祝勝会が開かれていた。

兄セオドアをはじめ、王都の研究棟から来たホセやディック、ホーヴェット医療団のサルトをはじめとする医師数人はそのパーティーに呼ばれて出席していた。

勿論アウロラにも声がかかったが、出席する気になれず、神殿に残り、病室の患者一人一人の体調の確認を行っていた。

痛みや熱が振り返し、苦しんでいた患者達に一様に薬を服用させ、無事穏やかな寝息を確認した頃、パーティーから一足先に戻ったのか、サルトが病室に顔を出した。

アウロラは話を聞くため病室を出る。


「サルトもお疲れ様。まだパーティーは続いているのでしょう?もっと沢山食べてくればいいのに。それで、パーティーはどうだった?」

「その前に、ほら、これ。」


そう言って、サルトはアウロラにお菓子の包みを渡す。


「わぁ、有難う。丁度甘いものが食べたいと思っていた所よ。」

「ああ、給仕さんに分けてもらった。」

「ふふ、有難う。嬉しいわ。」


そう言って微笑むアウロラに、サルトは気遣わしげな視線を向ける。


「それでパーティーはどうだったの?」

「ああ、グリフォニア辺境伯様が勝利宣言と、皆を労う言葉があった。」

「そう。こちらにも歓声が聞こえてきたわ。」

「それからルーク卿が顔を出していた。顔色はあまり良くなかったな。まだ本調子ではないからだろう。直ぐに居室に戻っていた。会場はルーク卿が生還したことに対しての喜びの歓声も上がっていたよ。」

「そう、良かった。ルーク様はもうこの土地にはなくてはならない存在なのね。お兄様もルーク様の傷はあの薬の影響からか、回復が驚くほど早いとおっしゃってたわ。」

「そうだな。まぁ、ルーク卿だからリハビリも上手くして、復帰も早いだろう。」

「お兄様はまだ暫くパーティー会場にいらっしゃるのかしら?」

「セオドア様?ああ···白衣を脱いで、マスクを外しただろう?あのお顔が晒されている訳だ。パーティーに来ていた貴族の令嬢をはじめ、多くの女性が一斉にセオドア様目掛けて押し寄せていたよ。」

「ああ···昔からお兄様は人気ですものね。サルトもでしょう?女性に何時も囲まれるじゃない?抜け出すの大変だったでしょう?」

「俺は平民だし、セオドア様ほどじゃないからな。それよりもお前だよ。城内でマスクを外してうろついただろう?神殿でもそうだが、ルーク殿を救った美しい『ローラ』はパーティーに参加していないのか、婚約者はいるのかとか質問責めにあったよ。セオドア様の顔が人気という事は、そっくりなお前も人気があるに決まっているだろう?マスクをなるべく付けろよ。病室でも不用意に手を握られたり、言い寄られたりしていないだろうな?」

「ふふ、心配しすぎよ。皆さん一切そんな素振りはないわ。顔が赤くなるのも熱があるからだし。それに手を握るって、寧ろ脈をとる為に、私の方から積極的に触りにいってるみたいなものだわ。」

「ああ···ホーヴェット家の人間の自覚のなさは、本当に危ういよ。」

「それに私は明後日にはこちらを立つし。」

「ああ、そうか。両目をやられた騎士と傭兵1名と先に王都に戻るんだったか?」

「ええ。例の目の薬を使っての治療を試みる予定なの。本人達には治験の許可はもらっているわ。先発隊の騎士の半分も王都に帰還するから、その方々と一緒に。」

「そうか。俺達は後10日ほどこちらに残って治療を手伝う予定だ。」

「そうなのね。宜しくお願いします。」


「アウロラ、本当にルーク卿に会わなくていいのか?」

「ええ、ここでの私の目的は果たせたわ。役立てて良かったと思ってる。」

「だが、ルーク卿の耳に『ローラ』の事が耳に入るのは時間の問題だぞ。あと、小耳に挟んだんだが、ルーク卿の婚約者になる貴族の令嬢を探しているらしい。男爵位であっても構わないとか。実際、もう『ローラ』の名前も上がっているそうだ。」

「『ローラ』はあくまでも平民の女性という設定だから。ああ、それでマーガレットさんが貴族かどうか心配していたのね。声が掛かるかもしれないから。」

「探りを入れられていたのか?」

「探りは言い過ぎだけど。でも大丈夫。私は静かに退場するから。」


そう言ってアウロラは切なく笑った。


◇◇◇


「ルーク様、お加減はいかがですか?」


マーガレットはルークが意識を取り戻してからも、神殿から容態確認という名目で頻繁にルークの部屋を訪れていた。


「マーガレットか。セオドア殿が朝夕こちらに往診に来てくれているから心配ない。マーガレットも仕事があるだろう?ここには顔を出さなくて大丈夫だ。」

「いえ、私がルーク様のお顔を見に来たいのです。」

「······。そうだ、マーガレット、君に預けていた銀のペンダントを返して欲しい。」

「え?あっ····そうでした。ずっとお借りしてて申し訳ありません。」


マーガレットはそう言うと、ポケットから銀のプレートのヘッドが付いたペンダントを取り出しルークに渡す。

受け取ったルークは、形状は同じだが、何処と無く違和感を覚える。


「これは····君に預けていたものと同じものか?」

「え?あ····はい。あの····。」


答えるマーガレットは何処かぎこちない。


「何だ?」


ルークは視線をマーガレットに向ける。

マーガレットの目が、一瞬怯える。


「あの····実は、このペンダントは王都の騎士団の皆様に配布されているものだと伺いました。それで王都から来られた方に、私がルーク様からお預かりしたこのペンダントを大事にしているお話をしたんです。そうしたら、『ルーク様の身の安全のためには、ルーク様が常日頃から身に付けられる事が必要だ。』と言われまして、同じものを頂いたのです。今お渡ししたのは、そちらの方ですわ。」


ルークはマーガレットの話を黙って聞いている。


「ルーク様、申し訳ありません。ルーク様からお預かりしたペンダントをこのまま私に頂けないでしょうか?私····このペンダントを持っているととても心強いんです。お願いします。」


マーガレットはそう言うと、ルークに深々と頭を下げ懇願する。


「このペンダントは特注品なんだ。同じものは2つだけだと聞いている。

「え?でもそこに·····。同じデザインですよね?」


ルークはあらためてペンダントのデザインを確認する。

マーガレットは訝しげにルークの手元にあるペンダントを見つめる。

そして同じようにペンダントを見つめていたルークの表情が、変わったことに気が付いた。


「ルーク様?」


「これを渡してきたのはどんな人間だ?」

「え?ああ、あの王都から来られた医療団の方です。」

「名前は?」

「あ、はい、『ローラ』さんです。」

「『ローラ』?顔は?」

「あ····医療団の方々は白衣に、髪を隠す帽子にマスクまでしていらっしゃるので、よく見たことはないのですが、瞳はグレーがかっていたかと。」


ルークはマーガレットの話を聞きながら、ペンダントヘッドから目を離せずにいた。


ペンダントヘッドには、持ち主の名前を示す『アウロラ』の名前が彫られていた。



数ある作品の中から、見つけて、読んで下さり、

有難うございます。

また、ブックマークをして下さっている皆様、何時も有難うございます。


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