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73 グリフォニア辺境伯領 ⑦

「まず背中の傷を確認しましょう。」


そう言うとアウロラは、厚手のバスタオルを巻いて抱き枕の様にしてルークに持たせると、身体を横に向けさせ、巻かれている包帯を取り、背中の状態を確認した。

ルークの背中の傷は、軽く縫われていたが、毒のせいか皮膚は黒く変色していた。


「傷口を少し切除します。バズ、手術の準備をしましょう。」

「は、はいっ。」


アウロラは局部の麻酔をし、処置を始めた。

毒のせいか、皮膚の状態は思いの外悪い。

アウロラは部屋の暖炉で鉄の棒を熱し、患部を焼き止血。

その後、ナナイロオオトカゲの粘液で作った薬を塗り込み、更に保護膜シートを貼る。

肩の傷も同様の処置をした。

バズも手術の立ち会いは初めてだったが、アウロラの落ち着いた指示で、何とかその役割を果たせていた。



セオドアがルークの居室に顔を出せたのは、一報を受けてからしばらく経っての事だった。

セオドア自身、重篤の患者の手術を数件終え、更に急変した患者の対応に追われていた。

それも落ち着き、ルークが一命を取り留めたと聞いて、心から安堵した。

こうして漸くルークの元へやって来て、部屋の前の護衛に許可を得て、中に入る。

出来る処置は全て終わったのだろう。

室内は落ち着いていた。

アウロラはルークの手を取り、ひたすらその寝顔を見つめていた。

バズは疲れたのだろう、部屋のソファーに横になり、毛布が掛けられ眠っていた。


「アウロラ。」

「お兄様。」


セオドアが声を掛けると、アウロラは少しほっとした表情を見せた。


「遅くなってすまない。アウロラが向かったと聞いて、任せてしまった。」

「いえ、あれだけ重篤の患者がいたのです。仕方ありません。私が無理だと思えば、直ぐに呼びに行きました。なんとか私でも対応出来たので良かったです。あとは意識を取り戻すだけなのですが。」

「アカメワサビは服用させたのか?」

「はい、先ほど。少し表情が変化したので、意識は何とか繋ぎ留めているようです。」

「 そうか。アウロラも少し休め。」

「あと少ししたら、もう一度解毒剤と解熱剤、アカメワサビの刺激剤を服用させますので、それから次の薬の時間まで休ませて頂こうかと思います。あの、お兄様、どうかこのままルーク様の意識が戻るまで、私をこの部屋に居させて下さい。」

「ああ、分かっている。ホセ殿達にも伝えているから気にするな。だが、無理だけはするなよ。」

「はい。有難うございます。」


セオドアはルークの脈を確認すると、アウロラの頭を一撫でし、眠るバズを背に抱え部屋をあとにした。


それからアウロラは定期的に薬をルークに飲ませ、ルークは意識はないものの、何とか口移しせずとも薬を飲めるようになっていった。

背中や肩の傷も一時はかなり腫れていたが、時間が経つにつれ、ナナイロオオトカゲ由来の薬の影響からか、見るたびに劇的な早さで回復していった。


アウロラはルークの身体の治療をしていて気づいたが、以前ディセック教授が話していた通り、そこには深い傷跡が幾つもあった。

それを見ただけでもアウロラは泣きそうになった。

それらは今までのルークの努力の証であり、そしてこれからまた今回の様に戦いに身を投じる事になったとしても、アウロラはルークの側に立ち治療することはないだろう。

そう思うと、どうしようもなく悲しくなった。


◇◇◇


それから4日後。


「ローラさん、大丈夫ですか?」

「あ、マーガレットさん。」

「ご依頼の物をお持ちしました。確認して下さい。」

「有難うございます。」


ルークの治療を始めた翌日から、マーガレットは神殿とルークの居室を行き来する役を買って出たようで、こうして頻繁に訪れていた。

当初は彼女もルークの姿にかなり動揺している様子だった。

おそらくマーガレットも心配でしょうがないのだろう。


「ローラさんは身体を清める時以外は、ずっとこちらにいらっしゃいますよね?そろそろゆっくり休まれてはいかがですか?」

「お気遣い有難うございます。でもまだルーク様の意識が戻らないので、何かあってもすぐ対応出来るように側にいたいのです。」

「そうですよね·····。あと、すみません、頼まれていた薬草で分からない物があってお持ち出来ていません。神殿の方々もまだまだ忙しそうで声を掛けることが出来なくて····。勝手に探す訳にもいかないので、宜しければローラさんご自身で取りに行って頂きたいのですが。その間は、私が代わりにルーク様を見ておきます。外には護衛の方も侍従の方もいらっしゃいますので、何かあれば直ぐに呼びに参りますから。」


確かに確認すると、解熱剤がない。


「そうですね。先ほど薬を飲ませたばかりですので、大丈夫だと思います。では少しの間、お願いします。」


アウロラはそう言うと、外にいる護衛にも声を掛け、ルークの部屋をあとにした。



「ローラさん、お疲れ様です。」


神殿に戻り病室を伺うと、ディックとガルマ神官がアウロラを迎えてくれた。


「こちらをお任せしてしまい、申し訳ありません。」

「何を言うんですか。次期辺境伯になられるルーク様が重篤なのです。付きっきりになるのは当然です。しかし、一時は心拍が停止したとか。危なかったですね。本当に良かった。」

「意識の方は?」

「はい、戻っていません。ですが、アカメワサビの刺激剤には反応しています。このまま刺激を与え続けていれば、そのうち意識は回復すると思います。」

「そうですね。同時に解毒も行っていることですし。早く意識が戻られるといいですね。それで、こちらには?」

「はい、マーガレットさんにお願いしていた薬が分からなかったようなので、取りに来ました。」

「マーガレットさんが?薬の事は聞かれてないですね。」

「皆様お忙しそうで、声を掛けられなかったそうです。病室も漸く落ち着いた所ですか?」


ディックとガルマ神官は顔を見合わせる。


「もう昨日には落ち着いてましたよ。今のところダラム王国との戦いは、王太子を撃った事で終息したそうですから。これから負傷者が増える事は、今のところないようです。」

「·····そうなんですね。では少し休んでから、また城の方へ戻らせて頂きます。」

「こちらの事はご心配なさらずに。」

「有難うございます。」


マーガレットさん·····。

ルーク様と2人きりになりたかったのかな。


アウロラは少し胸にモヤモヤしたものを感じながら休憩のため部屋に向かった。



小一時間ほど眠ろうとしたが、ルークの事が気になって、眠りに落ちれずにいた。

結局休憩もそこそこに、アウロラは取りに来た薬をもって、ルークの居室に向かった。


ルークの部屋の扉は常に半分は開けられており、その横に護衛騎士が1名と、侍女が待機していた。

アウロラは軽く会釈をし、部屋に入ろうとする。

しかし、アウロラの足は部屋に入ることなく、その場に釘付けになった。


ルークのベッドの側で、アウロラがしていた様にマーガレットもルークの手を握っていた。

そして愛おしそうに、片手でルークの頬を包んでいる。

その姿は、マーガレットがルークに対し、いかに心を寄せているかを知るには充分だった。

それからおもむろにマーガレットは腰を上げ、ルークに顔を寄せ、そのまま口付けた。


!!


アウロラの頭の中は、一気に真っ白になった。


瞬きも出来ず、足は一歩も動かなくなった。

一気に血の気が引いた。


マーガレットさんが······。

こんな····こんな····。


アウロラはただそこに、立ち尽くすしかなかった。



数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

また、ブックマークをして下さっている皆様、何時も有難うございます。

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