69 グリフォニア辺境伯領 ③
「ゆっくり飲んで下さいね。少し苦いので休み休みで大丈夫ですよ。」
「有難う····。」
「熱が出るのは菌と戦っている最中だからです。薬で少し楽になると思いますが、ここを乗り切れば直ぐに元気になりますよ。」
アウロラ達の治療は順調に行われ、多くの者が復帰を果たしていた。
毒の治療を受ける患者は減ったが、怪我で運ばれて来る者は日に日に増えている為、昨日の夜から怪我の治療班の手伝いに来ていた。
「ローラさん、もうじき夜が明けます。交代の人間も来ると思いますので引き継ぎの準備だけお願いします。」
「分かりました。少し解熱剤を補充した方がいいと思いますので、取って来ますね。」
アウロラはそう言うと、神殿の3階に保管されている薬を取りに向かう。
アウロラ達がいるこの神殿は、王国にある神殿の中でもかなり大きい建物だった。
グリフォニア領でこの神殿は、軍関連の治療院も兼ねている事から、その役割は大きいと言える。
元々高台にあるグリフォニア場内にある神殿なので、3階まで上がると城塞都市が一望出来る。
アウロラは部屋の窓を少し開け外を伺う。
ひんやりとした空気が肌を撫で、疲れていた頭が少し覚醒する。
神殿の下の広場には丁度騎士団が出発の為の準備をしている所だった。
つい2日前、王都に残っていた第3騎士団200名と傭兵200名が到着しており、今日の戦闘に加わる模様だ。
戦闘の際、目立たない様にする為だろう、グリフォニア騎士団は深緑色の隊服、そして王都の騎士団はルークも着ていた黒色の隊服だった。
何とはなしにルークの姿を探す。
「ここに居たのか?交代だそうだ。」
「ああ、サルト、有難う。今戻るわ。」
声を掛けに来たサルトも今まで共に患者の容態確認を行っていた。
「今からダラムとの戦線に向かうようだな。戻りは夕方か?それまで休んでいよう。おそらく負傷した兵が多数運ばれて来るはずだ。」
「新たな毒が使われていなければいいけど。」
「そうだな。特に毒矢には気を付けなければならないだろう。それよりアウロラ、ルーク殿には会ったのか?」
「そんな暇はないわ。それにルーク様は次期辺境伯になったのよ。そろそろどなたかと婚約されてもおかしくないわ。今私が会いに行っても困らせるだけな気がするの。」
「ルーク殿は会いたいと思っていると思うが。」
「私達が想い合っていてもどうする事もできないわ。それに実はここに来て、こういう話を聞いたの。ある女性がルーク様とのお子を残さないかと言われているらしいわ。」
「明け透けな話だな。その女性本人から聞いたのか?そうならアウロラのことを牽制してるんじゃないか?」
「私のことを?彼女は私の事情を知らないはずよ。」
「どうだか····。そう言えば、例の毒の瘢痕の治療で使う薬を治験をしたが、その公爵家との縁談があるんじゃなかったか?」
「ええ、でもどうなるか分からないの。それから皆の治験のお陰で薬が使用出来て、無事にほとんど回復されているわ。」
「そうか。その治験ついでに母さんの痕も綺麗になったよ。感謝する。」
「ううん、こちらこそ。お母様もここまで回復するには長かったわね。」
「ああ。」
「·····もし公爵家と上手くいかなかったら、ホーヴェット領に戻って来いよ。お礼に俺が一生傍に居てやるから。」
「サルト····。有難う。でもあなたはホーヴェット領でモテモテでしょう?あなたは愛する人とちゃんと一緒にならなきゃ。」
そう言ってアウロラは微笑む。
サルトは少し困り顔だった。
◇
異変が報告されたのは、アウロラが仮眠を終えた昼過ぎの事だった。
アウロラ達に報告しに来てくれたバズは、少し興奮気味だった。
「調理場で敵の間者が捕縛された?」
「はい、そうなんです。少し行動が怪しいというか、何か探している風だったんで、声を掛けたんです。俺がまだ少年だし、医療団の白衣の格好なので、グリフォニア領の人間じゃないと油断したんでしょう。」
「バズが気付いたの?」
「そうなんですよ!」
ニカッと笑う姿は、アウロラに褒めてもらいたそうで、嬉しそうに尻尾を振る子犬に見えてしまう程だ。
「俺は蒸留水の管理を任されている1人なので、担当になっていない人間には必ず声を掛ける様にしているんです。セオドア様から調理室の人にも蒸留水機には近づかない様に通達されているので。それでその人物に、共に管理を任されているホーヴェット領から来た護衛の人と一緒に問い詰め、身体検査をしたんです。そうしたら毒を隠し持っている事がわかりました。」
「そうなのね。バズ凄いわ。私達を救ってくれたのね、有難う。それでその毒を確認することは出来るかしら?」
「はい、セオドア様がグリフォニア領の上の方に確認されているそうです。」
「他にも紛れているかもしれないわ。口に入る前に必ずアクトリ草で確認するようにしましょう。」
「はい。」
「バズも今回は護衛の方と一緒だったからいいけど、もし1人の時にそういう人物を見つけた時は、応援を呼んでからにしてね。襲いかかられてバズが傷つかないか心配だから。」
「はい、大丈夫です。」
バズはアウロラの言葉に嬉しそうに頬を染めた。
◇
「ローラさん、お聞きになりましたか?」
バズが立ち去った後、直ぐに声を掛けてきたのはマーガレットだった。
「はい、間者が調理場に潜り込んでいたそうですね。」
「そうなんです。一応全ての食料、飲料を調べましたが、今のところ被害は報告されていません。」
「アクトリ草の事はご存知ですか?」
「はい、医療団の方から頂きました。あの草にそんな毒を見分ける効果があるなんて驚きです。そうそう、でも私にはこれもあるので、皆さんの食事はご安心下さい。」
そう言ってマーガレットが首元から取り出したのは銀のプレートがついたペンダントだった。
「それ·····。」
「これは以前私が毒の混入について不安になった時、ルーク様にその事を相談したんです。そうしたらこれを貸して下さいました。銀で出来ているそうで、ヒ素の毒物に反応するとか。」
「そうなのですね·····。」
あれは間違いない。
私が以前ルーク様にお渡ししたもの。
『ルーク』の名前と蔦の葉が彫られている特注で、私とルーク様お揃いで作ったもの。
それをマーガレットさんに·····。
「銀のペンダントは毒の確認の為に王都の騎士団に配布されました。それをマーガレットさんに渡したという事は、ルーク様は·····。」
「そうなんですよね。ルーク様ご自身の身を守ることより、私のことを心配して下さったと思うと嬉しくて。私にとってはお守りです。」
ズキン·····
「マーガレットさんはルーク様のことを?」
「はい、心からお慕いしています。私は騎士爵の家の三女という身分です。次期辺境伯になられるルーク様の隣に立つには分不相応です。でも何とかして近づけたらと。第2、第3夫人でもいいと思ってるんですよ。」
「それほどまでに·····。そのペンダントはお借りしているという事は、いずれルーク様にお返しするのですか?」
「そうですね·····この戦いが終わったら。」
「それではそれをルーク様にお返ししたら、マーガレットさんはこちらをお使い下さい。ルーク様には身の安全の為にも、お早めにお返し下さい。」
そう言うとアウロラは自身が着けていたペンダントを外しマーガレットに渡す。
私も相当ね。
アウロラは自分の行動に苦笑いしながら、その場を 立ち去った。
そして、そのアウロラの後ろ姿を見つめるマーガレットがどんな表情していたのか、アウロラは知らない。
ここまで読んで下さり、有難うございます。
またブックマークをして下さっている皆様、何時も有難うございます。




