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67 グリフォニア辺境伯領 ①

「説明してもらおうか、フィル·スペンサー。」


グリフォニア辺境伯、ワイアット·グリフォニアは、長年片腕として執務を行ってきた男の喉元に剣を突き付けながら問う。


「勝手に印を使い許可証を作り、ルイーズ·オヴァフを領外に出すとはどういった了見だ?あの女の色香にあてられたか?」


剣を突き付けられ、身体を硬直させた男の顔は蒼白で、今にも倒れそうだった。


「いなくなった事も気づかせぬ様に工作するなど、随分女のために尽くすのだな。あれが王家より預かった正体の知れぬ罪人だから充分注意する様に言ったはずだが?」

「あ、預かりの身故、身の安全を考え、領外へ避難させる措置をしました。」

「伺いも、了承もなしに行ったという事は、王家の命にも背いた事になる。覚悟はあるのだろうな?」


男はワイアットの冷たい覇気に息をのむ。


「外部との接触を禁じていたはずだが、定期的に商人と面会させ、且つ王都から付いてきていた監視役の侍女が別の要件で離れている間を狙って領外に出すとは、随分計画的な事だな。こんな事をしたら、自身だけでなく、妻子にも罪が及ぶ事は考えられなかったのか?」

「!!妻と子供には関係ありません!私はただ、彼女が憐れだったので·····。それに戦闘が終われば戻って参ります!」

「どこが憐れだ?グリフォニア領の領民一丸となってダラムに対抗していると言うに、それを乱す行為、許されると思うな。」

「も、申し訳ありません!どうか妻と子供はお許しを!」


男はその場に土下座し、懇願する。


「ルーク。」

「はい。」

「フィルとは私が辺境伯となる前からの付き合いだ。そんな男がこの有り様だ。ルイーズとか言う女はそれ程の者なのか?」

「皆、あの者が持つ媚香に狂います。」

「王家の人間も骨抜きにされたとかいうあれか。お前は正気を失っていないじゃないか?」

「私の大事な婚約者の前では、邪魔な存在なだけでした。」

「なるほど。お前も災難だったな。その女、もう処分してもいいのではないか?」

「あの女が何なのか分かるまで、生かしておくようにと王太子殿下の命です。詳しい事はあらためてご説明致します。」

「生かしておけか。早々に側近に影響が出るのでは先行きが思いやられるな。捕まえ次第神殿預かりではなく、一生牢にいれておけ。」

「承知しました。」

「フィル、邪魔するようなら今度は容赦しない。一族の命はないと思え。」

「し、承知しました。」


約3ヶ月程前、ルイーズが神殿から姿を消したにも関わらず、フィル·スペンサーの手により、ワイアットやルークまでその事が報告に上がらなかった。

そしてルイーズに付けていた侍女のエマが別の任務から戻り発覚。

直ぐ様足取りを追うと共に、協力者の洗い出しをその本人であるフィルに任せていた事で、真相が分かるまで時間がかかってしまった。


日に日にダラム王国との国境を挟んでの戦闘は頻度を増し、同じように国境に接している周辺の領地の町や村では、毒による患者が急増していた。

城塞都市であるグリフォニア領は、早い段階から毒に警戒していた事もあり、被害はさほど出ていなかった。

ローガン国王はこれらを受け、大規模な戦闘に備える為、新たな防御線を築くべく、今回の第3騎士団の遠征を決めた。


「お話のところ失礼します!」


慌ただしい音と共に、執務室に伝令が入る。


「ダラム王国との東の国境で20頭ほどの野獣が放たれ、戦闘が始ました!」


「報告します!城より西にあるルドンの村の周辺に呼吸困難を来す毒がまかれているそうです!」


「毒がまかれた?」

「はい、それも日中太陽の熱で気化した様で、それを吸った人間や動物に呼吸困難の症状が出ているとの事!」

「新手の毒使いか。」

「現在王都研究棟のディセック教授とエイダン·ホーヴェット子爵が治療にあたっております。」

「直ぐ様少人数で隊を組み、国境地帯を(くま)無く偵察させよ!毒がまかれた地域は2次被害を恐れ、侵入して来ないだろう。その他の地域を入念に確認しろ。敵を見つけても気付かれるな。速やかに報告し、部隊を編成した後向かわせろ。」

「馬や兵の足にまかれた毒がかからぬよう、布などを巻いておいた方がいいかと。」

「そうだな。あとは呼吸か·····出来るだけマスクをさせろ。馬が先にやられるか····厄介だな。ルークは野獣対策へ向かえ。おそらくその後ろに騎馬隊が隠れている可能性がある。」

「承知しました。」

「王都からの兵はいつ到着だ?」

「5日後です。」

「到着まで無理な戦闘は避け、現状を維持しろ。フィル、お前の処分はこの戦闘が終わってからだ。減刑を望むなら力を尽くせ。」

「っ!承知しました!」


これから、グリフォニア領最大の戦闘が、始まろうとしていた。


◇◇◇


森を抜け視界が開けると、そこにはローヴェル王国最大の城塞都市が現れた。

長年、外部からの侵攻に耐え抜いた重厚な城壁に囲まれたそれは、来る者を圧倒する迫力がある。

幾つかの門を潜り、都市内部に入った遠征部隊は、第3騎士団と医療団に分かれ行動する事になった。

アウロラ達医療団は、グリフォニア城内の神殿に案内された。

こごでは、神官が医師の役割を担っていた。

ホーヴェット領には、こういった各領地の神殿から神官が派遣され、医師の勉強をする者が多い。

ここの神官もそういった者達だろう。


アウロラ達は荷物を下ろし、指定された空き部屋に、医療道具を運び込んだ。

白衣に着替え、一旦集合する。

するとそこには兄セオドアがいた。


「お兄様!お着きになっていたのですね。」

「ああ、アウロラも無事で良かった。取り敢えず、医療団は一旦手を止めて集合してくれ!」


セオドアの掛け声に皆、集合する。


「今回、医療団を任されているセオドア·ホーヴェットです。研究棟からのホセ·アルソー殿とディック·スタン殿宜しくお願いします。まず現状を説明すると、5日前、ダラム王国との本格的な戦闘が始まった。今回第3騎士団が加わる事で、戦略的にも戦闘激化が予想される。またここ数ヶ月の間、ダラムからは新たな毒の攻撃も始まった。そこで治療班を主に怪我治療班と毒治療班に分けることにする。怪我治療班のリーダーはサルト·カクタス。毒治療班のリーダーはホセ·アルソー殿にお願いする。その他の雑務はダックがまとめる様に。」


ダックはホーヴェット家に仕えている従者の1人で長年医療団に参加している男性だ。


「それと今回、私の妹のアウロラが参加しているが、王家の判断により、偽名で呼ぶようにとの事だ。他国の間者が紛れ込んでいる可能性もある。貴族の令嬢となると誘拐され、交渉の道具にされるかもしれない。名前は『ローラ』。平民として接するように。」


「「承知しました。」」


セオドアの指示の下、全員が手慣れた様子で動き始める。


「さすがですね。それぞれが何をすべきか分かっている。さぁ私達も始めましょう。」


ホセの声でアウロラとディックも所定の場所へ向かう。


神殿内の集会室の1つだろう。

30床程のベッドが用意されている部屋に、既に20名程の患者が治療を受けていた。

アウロラ達が部屋に入ると、老齢の女性神官が気付き挨拶しに来た。


「医療団の方ですね。こちらを診ておりますミラと申します。毒の治療は経験が浅いため宜しくご指導下さい。」


ミラ神官に自己紹介をし、現状を説明してもらう。


「5日程前、領内の村付近で毒がまかれました。その後気化した毒を吸ってしまった者達が、咳が止まらなくなり、次第に呼吸困難に陥っています。」

「肺か····。」

「薬は?」

「解熱剤のみです。」

「肺水腫になっているかもしれません。早速治療を始めましょう。」


こうして到着間も無く、アウロラの戦いが始まった 。




その様子を部屋の入り口で覗いている女性がいた。

アウロラはまだ彼女の存在に気付いていない·····。

読んで下さり有難うございます。

またブックマークをして下さっている皆様、何時も有難うございます。

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