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49 アシェルの治療 ③

アウロラは今、グルーバー公爵邸の客間に居る。

アシェルの治療を行う間、公爵家に滞在することになり今に至るのだが、さすが公爵家。

この部屋が特別な客間ではないにしても、ホーヴェットの屋敷の客間の2倍以上の広さだ。


昨日の夕方、公爵家の侍女がわざわざ寮に来て、教科書等の最低限の荷物をまとめ、侍従達とアウロラの荷物を持ち出していた。

本当に教科書等、勉強に関する物だけで、下着を含め衣類等は全て公爵家で用意するからと一切持ち出されなかった。

更に通常なら、自分の侍女も伴って行く所、ホーヴェット家の事情を知ってか、身ひとつでいいと言われていた。


ホーヴェット家では茶会や夜会の際の身支度以外は、自分でしてしまう。

貴族とは言え、機会があれば山に薬草を取りに行き、野営することもしばしば。

自分の身の回りの事は自分でする事が身についているから、普段から侍女がいないのは当たり前なのよね。


「ホーヴェット様の滞在期間中お世話をさせて頂きますサブリナと申します。何なりとお申し付け下さい。」


黒髪をきっちり結い上げた、30代位の品のある女性だった。


「お世話になります。宜しくお願いします。私の事はアウロラとお呼び下さい。」


公爵家の侍女となると、私より高位の家の出の方もあり得る。

そう思うと、日頃あまり意識していない仕草も気になり緊張してしまう。


「あの、私は正直、先日父が子爵になったばかりの田舎者です。礼儀作法等好ましくない事がありましたら、是非教えて下さい。宜しくお願いします。」

「はい、承知しました。アシェル様からアウロラ様には快適にお過ごし頂ける様にと仰せつかっております。ご心配な事がございましたら、ご遠慮なくお声掛け下さいませ。」

「有難うございます。」


サブリナが微笑んだ事で、アウロラの緊張も幾分か解れた気がした。


「これからお着替え頂いて、アシェル様がお戻り次第、ご夕食とさせて頂く予定です。」


サブリナはそう言うと、部屋のクローゼットを開ける。

そこには10着以上の衣服が掛かっていた。


「こちらでお過ごし頂く際のお召し物をご用意させて頂きました。本日再度サイズを確認させて頂き、改めて注文させて頂きます。」

「いえ、そんなに沢山は·····。」

「必要でございます。どうぞお任せ下さい。」

「·····はい。」


さすが公爵家。これが普通なのね。


それからサブリナは、ベージュに所々紫の刺繍が施されているワンピースに着替えさせてくれた。

髪も後ろに結われ、紫色のリボンで飾られる。


「素敵·····。」


自分ではなかなか出来ない髪型に、またもや感動してしまう。

公爵家の侍女ってすごい。


◇◇◇


「アウロラ嬢、ようこそグルーバー家へ。何時も待たせてしまい申し訳ない。」


アウロラの身支度が整って間もなく、アシェルが帰宅した。


サミュエル殿下が王位継承権を剥奪されアザレア殿行きとなり、弟のディラン殿下も王位継承権保留の措置がとられている。

その為王位継承権が2位は保留、3位はアシェルの父親のグルーバー公爵、そして4位がアシェルとなった。

その為、2人の王子殿下が行っていた公務を、特に次期公爵のアシェルが主に行う事になり、以前にも増してアシェルは多忙になってしまった。

そんなアシェルがこうして夕刻に屋敷に戻るのは珍しいのだと、サブリナが教えてくれた。


「本日よりお世話になります。宜しくお願いします。」


アウロラの言葉を聞き、アシェルは優しく微笑む。

そんなアシェルを見て、侍従達の気配が一瞬ざわついた感じがした。


アシェルと会うのは今回で3回目で、幾分慣れてきたものの、相変わらずの彫刻の様な美しさについつい見惚れてしまう。

ただ今日の本題は、食後に行うアシェルの治療法についての説明なので、気を引き締め直す。

今はとにかく食事に集中するアウロラだった。


◇◇◇


食後、応接室のひとつでアシェルとジョッシュ、侍従長とアシェル専属の侍女2人に説明を行う事になった。

アウロラはまず、用意してきた資料を皆に渡す。


「この短期間でこれ程の資料をご用意頂けるとは驚きました。手書きで複写するのも大変でしたでしょう?」


ジョッシュは資料を見ながら感心している。


「必要な事ですから。では早速ご説明させて頂きます。まず、アシェル様の瘢痕を拝見させて頂いて分かりましたのは、おそらく毒はまだ身体に残っていて、今もなお、お身体を蝕んでいるという事です。そしてこの毒に対し、皮膚の組織が過剰に反応して起こる症状でもあります。通常は外傷による瘢痕は長くても2、3年で落ち着くものです。しかしアシェル様の瘢痕は未だに熱を帯び、落ち着く気配がありません。今は炎症を抑える薬でかろうじて現状を維持しているように見えます。」


アシェルから軽いため息が漏れる。


「ですので、まず始めに活性炭を服用して頂き、毒素を体外に排出させます。」


そう言ってアウロラは瓶に入った黒い粉末をテーブルに置く。


「朝食後炎症を抑える薬を服用されるとの事ですので、こちらは夕食後、取り敢えず小匙一杯水に溶かして飲んで下さい。大量に飲むと腹痛をおこしますので量は守って下さい。これを一週間続けてみて、アシェル様の体調を確認させて頂きます。一週間後の状態によって次の治療に進むか判断させて頂きます。そこで皆さんにお願いしたい事が何点かあります。」


アウロラは資料を捲り、皆に確認を促す。


「まず、アシェル様がこちらで飲む水はなるべく蒸留水にして下さい。ホーヴェットの屋敷に頼んでいた蒸留水機はこちらに届きましたでしょうか?」

「はい、届いております。厨房でお預かりしています。」

「では後程確認させて頂き、使用方法をお教えします。蒸留水は不純物を取り除いた水です。アシェル様の毒が、何に反応するか分からないので、より身体に負担がかからないように出来るだけ飲む水は蒸留水にして頂きます。

それから先日確認させて頂きましたが、アシェル様の体温は低く、末端が冷えている症状が見られます。その為血行を良くし、内臓の機能を活発にし、新陳代謝を促す必要があります。但し、血行を良くするとなると、瘢痕に痒みが出てしまいます。炎症を抑える薬は今のところはそのまま服用して頂いて、痒みがある場合は、更にこちらの痒み止めの薬を塗って下さい。」


アウロラは塗り薬の入った瓶をテーブルに置く。


「取り敢えず1週間様子を見てみましょう。順調なら、資料に記載の食事療法を取り入れて行きます。食事療法に関しては、後程料理長と確認させて頂きます。それから·····。」


アウロラは資料を確認するアシェルに目をやり話を続けた。


「アシェル様、この後の湯浴みの後にお時間を頂いてマッサージをさせて頂ければと思いますがいかがでしょうか?」


アウロラの無防備な発言に、一瞬応接室が凍りついた事にアウロラは気づいていない。



読んで下さり有難うございます。

またブックマークをして下さっている皆様、何時も有難うございます。

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