48 アシェルの治療 ②
初顔合わせから3日後、アシェルの元にアウロラから治療法について手紙が届いた。
ただアシェルに提案する前に一度、主治医代理である執事のジョッシュ·ハウアーと治療内容について確認したいと記されていた。
手紙を受け取って2日後、ジョッシュが研究棟に直接足を運ぶことになり、許可証発行の上、研究棟の応接室で会う事になった。
「今日はお忙しい中、お時間を頂き有難うございます。」
「いえ、こちらこそ研究棟に足を運べる事は光栄なことです。どうぞお気になさらずにお呼び下さい。」
短く切り揃えられた金髪は清潔感があり、公爵家の執事でありながら医師でもあるジョッシュは物腰も柔らかく、常に笑みを絶やさない、そんな印象だった。
「では早速こちらを。今回まとめたアシェル様の治療計画です。ハウアー様にご確認頂きたいのは、これまで食べ物や薬でアシェル様の身体に拒絶反応がなかったかという事です。」
「拝見します。
アシェル様は今の所、食べ物で体調を崩された事はありません。
なるほど、活性炭ですね。お恥ずかしながら、今まではとにかく痒み対策として炎症を抑える薬の投与しか行っていない状況です。皮膚が元の状態には戻らないだろうと皆、諦めている状態といいますか。あまり瘢痕についてあれこれ触れると、アシェル様を傷つけることに繋がると考えている所があり·····。」
話を聞くに、治療も含めて瘢痕の話題自体がアシェル様のお気持ちを乱すと考えていたという事だろう。
でもそれではアシェル様の為にならないのに。
ちょっとモヤモヤする······。
「それから宜しければ、アシェル様の治療を行う間、公爵家の屋敷にご滞在されてはどうかとの事です。」
はい?
滞在?
「実はこの件に関しては、先日お父上のホーヴェット子爵にはお話してあります。子爵からは許可を頂いております。」
公爵家からのお話を子爵であるホーヴェット家が断れるはずもない······。
でも滞在って、明後日から学園も始まるし、公爵家から通うってこと?
ど、ど、どうしましょう·····。
固まるアウロラを見て、ジョッシュは笑みを深める。
「大丈夫ですよ。ホーヴェット様も治療中のアシェル様の体調は気になるでしょう?アシェル様は大変お忙しい方です。屋敷でゆっくりされる事はあまりありません。定期的に、また必要な時にすぐ診て頂く環境を整えさせて頂くだけです。そう気を張らなくても大丈夫ですよ。」
私にアシェル様の側に四六時中いる訳ではないという事を伝えたいのだろうと思うけれど、そうじゃなくて。
公爵家にいるというだけで、落ち着かない事を分かって欲しい。
まぁ、でも確かにアシェル様の容態を確認しやすくなるのは間違いなくて·····。
「あの、学園に通うのは公爵家からという事になるのでしょうか?」
「はいそうです。基本的に公爵家から通う事になるだけで、何時も通りに学園で勉強した後、研究棟に行って頂いて構いません。アシェル様の都合で、途中で公爵家にお戻り頂く事もあるとは思いますが。当然馬車の手配は致しますので、ご心配なく。」
「分かりました。一応、研究棟の生物学のミュラー教授と、医·薬学のディセック教授はいらっしゃいませんので、助手のエトロン様にお話させて頂きます。」
「ええ、グルーバー公爵家からも書面にてお伝えしておりますが、ホーヴェット様からも宜しくお願いします。」
「はい。あの、私の事はどうぞアウロラとお呼び下さい。」
「有難うございます。私の事もジョッシュとお呼び下さい。ではアシェル様へのご説明ですが、5日後の夕刻、公爵家で宜しいですか?学園が終わり次第来て頂く事になりますが。」
「分かりました。」
「アウロラ様のお荷物は、始めは必要な物だけお持ち頂いて、屋敷でお過ごしになられる衣服はこちらでご用意致します。」
「有難うございます。」
こうしてアウロラは、アシェルの治療の間、公爵家に滞在することが決まった。
◇◇◇
「なんですって!」
春休み期間中ほとんど会えなかったエリナに、2学年が始まった初日、朝から質問責めにあった。
エリナの耳に、アウロラの縁談の話が入っていたのだろう。
学園のクラス分けでは、エリナとも、リリィとマリーともまた同じクラスになることが出来た。
1年生の終わりの卒業パーティーでの出来事による様々な憶測は、春休みを挟んだことで落ち着いたが、アウロラは未だ好機の目にさらされていた。
そして、接触を図ろうとする男子生徒が後を断たないのである。
「グルーバー公爵令息の治療ね。それでその期間中公爵家に滞在ね。·····アウロラがそういう方向に行ってしまうなんて。」
「そういう方向って·····。エリナ、大きな声で話さないで。色々誤解されそうだから。」
「みんなに聞こえていいのよ。グルーバー公爵家でしょう?アウロラに群がる男子の牽制になるわ。」
「エリナ、群がるほどの人間じゃないんだから、そんな言い方恥ずかしいわ。それにグルーバー様は純粋に治療にご興味がおありなんだから。」
「アウロラ·····まぁ、いいわ。なるようになるでしょう。」
「でもその話、ワクワクするのは私だけかしら?」
リリィが何か興奮している。
「私も。治療はそうだけど、私はグルーバー様とどんな感じなのか気になるわ。」
マリーも何か妄想しているらしい。
「いや、何もないわよ。」
「アウロラ忘れてない?あなた、グルーバー様の治療の前に、そもそも縁談の話があるでしょう?」
縁談·····忘れてました。
「でも、治療が上手くいけば、グルーバー様も他の方との縁談に前向きになられるかも。とにかく今は縁談の話が進む事はないわ。」
「でも公爵家に滞在って、すでに嫁あつか、ムグッ。」
「エリナは黙ってて。」
マリーが何故かエリナの口を塞ぐ。
「アウロラ様、お話楽しみにしていますわ。」
リリィとマリーの期待の眼差しに、ちょっとたじろぐアウロラだった。
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