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47 アシェルの治療 ①

「グルーバー令息の治療か。」


アシェルとの顔合わせから屋敷に戻ったアウロラは、固唾を飲んで戻るのを待っていた父エイダンと兄セオドアに、アシェルの瘢痕の状態を話した。


「お父様達は、アシェル様の毒の治療については聞いていないの?」

「ああ、在学中お声掛け頂いた事はあるが世間話程度で、アシェル様の治療については話した事はないな。公爵家だとお抱えの医師がいるだろうし、当時もそうだが、下位貴族の人間が自ら首を突っ込む事は出来ない。」

「ホーヴェット家は元々戦いの前線に赴いて治療を行ったり、各領地より流行り病の治療の依頼等、王都外の土地での活動だからな。王都には王都の医者がいる。まぁ、情報は研究棟で共有はするが、その様に住み分けされているといった感じだな。」

「特にアシェル様の治療は、王太子を庇っての事。王宮医師の威信を掛けて治療を行った事だろう。彼等も一流だ。要請がない限り我等に出番はない。」

「活性炭は使用された事があるでしょうか?」

「元々我々は、話したようにどちらかというと中央だと騎士団と懇意にしているからね。彼等なら使用したこともあるだろうが、当時の事を考えても、『新しい治療法はある程度実績が無いと』と言って、中央の貴族は使ってないかもしれないな。」

「そうなんですね。······あのアシェル様の瘢痕、私、見覚えがあるんです。7年前領地で、初めて毒と向き合った治療で。」

「ああ、私達が丁度流行り病の治療で他の領地を駆けずり回っていた時か。確かそんなこともあったな。」

「もし似たような症状なら、アウロラも力になれるだろう。」

「はい、まだ私は9歳でしたが、当時の治療については細かく記録しています。その記録を丁度領地から持ってきていますし、それを元に治療計画を立てたいと思います。それでお父様とお兄様はいつまでこの屋敷に?」

「アウロラが公爵家と何も無かったなら、明後日の朝にはここを立つつもりだった。国境沿いの村で確認したい事があってね。ディセック教授と共に現地へ向かうことになっている。」

「また毒ですか?」

「検問を通らず直接村に逃げ込んで来た者達がいるらしくてね。口々に毒の実験にされたと言っているらしい。」

「え?」

「毒を受ける事になった経緯と症状を聞く必要がある。当然治療も行う。」

「もしかして······。」

「ああ、近いうちに戦いが始まるかもしれないな。」


国同士の戦いとなれば、前線になるのは辺境伯領だ。

ルークの事が頭を(よぎ)る。


私が王都でルーク様に出来る事は、間違いなく研究棟挙げての毒対策だろう。

アシェル様の治療と共に、研究棟での作業も力を尽くさねばならない。

何時までも悲しみに暮れている場合じゃない。

私で役に立てることを、全力でするだけだわ。


「ではお父様、お兄様、私は調べる事がありますので失礼します。」


そう言って、席を立つアウロラ。


「アウロラ、待て待て。」

「はい?何か?」

「今日はアシェル様と顔合わせだったのだろう?治療の話の他に何かなかったのか?」


あ······そうでした。忘れてました。


診察を終え、早々に帰宅した事を思い出す。

本来ならお互いを知るために、庭の花等を愛でながら歓談するものだ。


アシェル様と瘢痕の治療について以外、何も話していない。


表情が固まったアウロラを見て、2人共、盛大に溜め息をついた。


「まぁ、詳しくはマルサから聞くとしよう。」

「はい·····すみません。」


「それとこれは別件なんだが、アウロラは大神殿の神官、クリス·ハンセン様を知っているかい?以前『タレッタ村』へディセック教授と共に治療に行ったことがあるだろう?その時にお会いしたとおっしゃっていた。」

「あ、はい、存じています。」

「そのクリス·ハンセン様から連絡があり、少年を1人ホーヴェット家で修行させてもらえないかと言われてね。」

「少年·····もしかしてバズという名ですか?」

「おお、そうだ。アウロラは知っていたんだね。大神殿の神官に直々紹介されたら間違いないと思ったんだが、そうか····。じゃあ、その少年を面倒見る事にしよう。」

「はい、街の治療院で医師になるため働いていると言っていました。医学に熱心な子かと。」

「分かった。では、この件はオーソンに任せよう。アウロラもたまには屋敷に戻って顔を見せてやるといい。」

「承知しました。他に何も無ければ、今からアシェル様の件を調べたいのですが。」

「ああ、大丈夫だ。いい治療が出来るといいな。」

「はい。」


アウロラは微笑んで返事をすると、そのまま足早に自室へ上がって行った。


「父上。」

「ああ。アウロラの心に火がついたようだな。アウロラは一度集中すると他への意識が遮断されるからね。今のアウロラには丁度いい。これでルークの事から少しでも心が離れればいいんだがな。」

「そうですね。」


先程のアウロラの微笑みを見て、少し泣きそうになっている2人だった。


◇◇◇


7年前アウロラが9歳の頃、数ある薬草保管庫の1つで窃盗が行われている事が判明した。

量は僅かだったが、定期的に無くなっている事が分かり調べると、1人の少年が犯人として捕まった。

その少年は、母親と共に半年前にホーヴェット領に他国から移り住んで来た者だった。

どんな事情があれ、罪を犯した者は北部の山脈地帯にある鉱山に送られるのがローヴェル王国の決まりだった。

少年に話を聞くと、母親が腕に毒を受け、その治療費を払えなくなり、薬草の栽培が盛んなホーヴェット領に来れば何とかなると思ったものの、母親の容態は悪くなる一方で薬も足りなくなり、盗みを行ったとの事。

丁度その頃、ホーヴェット領の隣接する他領で、ある病が流行し、ホーヴェット家の者の多くが他領での治療に出払っており、家に残っている者もまた、領内の感染対策で忙しかった。

少年の処分は、これらが落ち着いた頃にという事で保留になった。

それを聞いたアウロラは、少年の母親が気の毒になり、1人その家に向かった。

その事がアウロラが初めて毒の治療を行うきっかけとなった。


アウロラは治験と称して、少年とその母親と話し合いながら治療を行った。

試行錯誤しながら、3年の歳月をかけ、症状は無くなっていき、毒による瘢痕も目立たなくなった。

この事をアウロラは記録として残している。

因みにその少年は、ホーヴェット領で新薬の治験者となる代わりに、罪は不問にされた。


あの時の毒は、動物や植物ではなく、完全に毒薬によるものだった。

少年と母親はそれなりの学識があった為、おそらく他国の貴族階級の人間だったと思われる。

本人達は逆に迷惑がかかるからと詳しい事は話さず仕舞いだったが、もう2度と罪は犯さないと約束してくれた。

領主の娘と今は平民となった少年だが、あの時から友人となり、アウロラが王都に来た今でも、手紙のやり取りをしている。


アウロラは当時の記録を辿りながら、アシェルの治療計画を立てて行った。


明日、お父様とお兄様、研究棟に戻ってディセック教授にも見て頂いて、アシェル様にご連絡しよう。


アウロラが作業を終えたのは、アシェルとの顔合わせを終えた翌日の、空が白みはじめた頃だった。


◇◇◇


「アウロラ嬢との顔合わせはどうだった?」


宮廷にある王太子の執務室で、外交資料を確認しているアシェルに王太子のオーウェンは話し掛ける。


「毒の治療をしてくれる事になった。」

「へぇ、よくある顔合わせとは違うようだけどアウロラ嬢らしいね。良くなりそうなの?」

「診察が終わり次第、調べる事があるからと帰ったからね。治療について何か思い当たる事があるんだろう。」

「ははは。何だかその様子が目に浮かぶなぁ。見る限り、今までの治療法ならこれ以上の回復は見込めない様だしね。アウロラ嬢には期待したいな。」

「·····そうだな。」

「それで、いつになく表情が柔らかいのはアウロラ嬢の影響かな?」


「·····そうかもしれない。初めて·····。初めて欲しいと思ったよ。」


思いがけないアシェルの言葉に、オーウェンは一瞬言葉を失う。


「そう····アシェルがそう言うなら、応援しないとね。」

「ああ。」


そう言ってアシェルから向けられた強い眼差しに、オーウェンもまた笑みを浮かべて応えるのだった。



読んで下さり有難うございます。

ブックマークをして下さっている皆様、何時も有難うございます。

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