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4 婚約者からのお願い

「オーソンさん見て下さい。今日、太陽はルーク様の為に天に昇っている様です。

ほらあそこ、ルーク様の所だけ、やたら輝いて見えますでしょう?」

「オーソンと呼び捨てで、お嬢様。天の恵みたる太陽の光は、今日も万物平等に降り注いでいることかと。」

「あぁ、そうですね。ではきっと、ルーク様ご自身が発光されているのでしょう。眩しくて、私は目が眩んでしまいそうです。」

「いやいや、エイダン様よりお話は伺っておりましたが、これ程とは。」


朝一番に、ペータース子爵家の馬車で迎えに来てくれたルーク様は、今馬車を降り、こちらに近づいて来るところだ。


先ほど窓から馬車の車体を確認するや否やいても立ってもいられず、こうして出迎えに降りて来たものの、ルーク様の姿をみとめると、その神々しさに思わず足が止まる。


「おはよう、アウロラ。久しぶりだね。出迎えてくれるなんて嬉しいよ。」


そう言ってルーク様は私の手を取り、指先に口唇をよせる。

途端に私の身体に痺れるような衝撃がはしり、私は漸く意識を取り戻す。


「ごきげんよう、ルーク様。今私は、ルーク様の神々しさに惚けておりました。」

「ははは、アウロラは相変わらずだね。アウロラこそ益々美しくなったよ。今日黄色のワンピースを着た君は、まるで花の妖精の様だ。」

「ルーク様····。あぁ、私の魂が全力で天に昇ろうとしています。」


オーソンさんをはじめ側にいた使用人達は、私達を見送った後、砂を吐くほど甘かったと脱力していた事を私は知らない。


◇◇◇


庭に薬草園を確保したいということで、王都の中心部より少し離れた場所に位置するホーヴェット家の屋敷を出て間もなく、私はルーク様に用意しておいたお薬ポーチを渡した。

ルーク様は興味深けに、ポーチの中身を確認すると、早速ネーム入りの薄い木箱を取り出した。


「これが例の『傷保護シート』?」

「はい、量産出来ないので、まだ売り出してはいません。手紙で生物学のミュラー教授から、製造過程をまず論文にまとめる様言われていたので、今回書いた論文を持参しているのですが、どうやら教授曰く、王家主催の研究発表会で、その効能を公認して頂ければ、国として何かしら補助を得る事が出来るかもしれないと。」

「そう、それで量産化の道も開けたらいいね。」

「はい、期待しています。」


「この入れてるケース、いいね。アウロラも持ってるの?」

「は、はい。お揃いにしちゃいました。」


ルーク様は、そっと木箱を指でなぞる。

それが何だか色っぽくて、なぜか私は赤面してしまう。


「それに、この前送ってくれた伸縮性のある包帯。あれは画期的だね。怪我を固定しつつ、伸縮性があるから動きやすい。騎士団のみんなも驚いていたよ。やっぱり織り方に秘密が?」

「そうなんです。既に織り機は完成していて、ある程度の量作れます。ペータース子爵領の騎士団にも送らせて頂きました。」

「アウロラが考えたんだろう?本当に凄いよ。」

「いえ、職人の皆様が私の希望を上手く汲み取って工夫して下さったので。」

「アウロラは僕の自慢の婚約者だよ。」


ルーク様は手を伸ばし、優しく頭を撫でてくれた。


◇◇◇


そう話していると、馬車は漸く賑わう街の中へと入っていった。


今日のアウロラは、気軽に街を散策出来る様にというルーク様からの伝言を受けて、動きやすく、色は淡い黄色と華やかだが、胸元に少しのレースとスカートの裾に控え目なフリルがある程度のシンプルなデザインのワンピースを着ていた。

髪は後ろの低い位置にまとめ、緩く結っているが、そのスタイルはいつもより少し大人びた印象だ。


ルーク様は白いシャツに焦げ茶のパンツと、それに合わせた品の良い織り柄があしらわれたはジャケットを着ており、とてもよく似合っていた。


馬車から降り立ち、ルーク様は私の手をそっと握る。


「街の中ははぐれやすいから、今日はこのままで。」


そう言い、優しく微笑む。


こ、この状況は!!

そう、私が何度も脳内で夢見た、『ルーク様と恋人らしく過ごす理想的接触行動 その① 手つなぎ』ではないですか!


「幸せ····」


そう思わず心の声を漏らせば、ルーク様の耳に届いていたのであろう、くすッとした笑みをこぼし、そのまま今度は私のおでこに軽く口唇を寄せた。


!!! おでこチュー!!!


こ、これは『理想的接触行動 その② 何気におでこチュー』

ル、ル、ル、ル、ル、ルーク様、立て続けに色々盛り過ぎです!!


脳内パニックに陥り、思わず目を潤ませ見上げると、ルーク様は困ったなぁ、といった笑みを見せ、そのまま、さぁいこうと手をひいてくれた。


ルーク様の整った顔はすっかり大人びて、1年前と比べ背も伸び、私を握る手も剣の稽古で硬くなった男らしい感触で、細めに見える背中も腕もしっかり筋肉がついて頼もしい。

私の心臓は痛いほど高鳴っていた。


◇◇◇


ルーク様は、はじめに街で人気だというアクセサリー店に連れて行ってくれた。

宝石を加工する際出る小さな宝石くずを使ったアクセサリーは、その宝石の細かさゆえ、活かせる技術とデザイン性が職人に必要とされるが、この店の職人が作ったアクセサリーは、繊細で美しく、とにかくセンスがいいと評判に。

また材料費が安くすむことから、価格も高額ではない為すぐ売れ、品切れ状態に。

さらに製作に時間がかかる為 、すっかり入手困難となっていた。


そんな店に入ったルーク様は、店員に声を掛ける。

裏に一旦下がった店員はトレーに商品を乗せて戻って来る。

そのトレーには、蔦の葉と花のモチーフのデザインの髪留めが乗せられていた。

シルバーの土台に、白、黄、若草色と優しい色合いの細かい宝石が散りばめられており、華やかさと上品さを持ち合わせた素敵な一品だった。

店員さん曰く、なんと1年も前から注文していたものらしく、ルーク様は、私が学園に入学する予定を話した後、直ぐに準備してくれたのだった。


こんなの嬉しすぎるわ。


目元を潤ませ感激する私にルーク様は、髪留めを手に取り、そっと髪につけてくれた。


「うぅぅ、ルーク様。本当に、本当に嬉しいです。有難うございます。一生大事にします。」


涙声で感謝を伝える私を見て、ルーク様はとても満足そうに微笑んでくれた。


それにしても、蔦の花言葉は確か『永遠の愛』ではなかったかしら。


永遠の愛、永遠の愛、永遠の愛·····


くぅぅ···私もですわーー!!


心の中で大いに叫び、爆発しそうな思いを何とか押し止める。


「アウロラ、良く似合ってるよ。」

「ルーク様···有難うございます。大好きです。」


その時申し訳ない事に、私の中で店員さんの存在は何処かに吹き飛んでしまっていた。


◇◇◇


私達は店を後にすると、街の屋台で軽く昼食をとり、ちょっとお洒落なカフェでお茶をした。

私が手紙で、ずっとしたいと書いていた事を、ルーク様は実現させてくれているようで、とても嬉しかった。


その後、お店を見がてら、王都が見渡せるちょっと小高い場所に行き、ベンチで休憩した。


「ルーク様は、普段どのように過ごされているのですか?」

「そうだね、朝、寮の前の空き地で鍛練して、時間になったら殿下をお迎えに上がり、学園へ共に向かう。学園内では、勉学と同時に殿下の護衛でずっとお側にいることになる。殿下を送り届けた後は、騎士団に行って、1日の報告と鍛練。寮に戻り勉強だね。」


「えぇぇ···。とてもお忙しいんですね。」


驚いて目を丸くする私の手を、ルーク様はそっと取り、少し寂しげに笑う。


「アウロラは放課後は、研究生として研究棟で過ごすのだよね。」


ホーヴェット家の屋敷が学園と離れていることもあり、アウロラは入寮することになっている。

また、領地より連れて来た、ナナイロオオトカゲのナナちゃんは研究室で預かってもらうのだが、その世話は当然アウロラが中心になってする。

よって、1日のうち研究棟で過ごす時間はそれなりに長い。


「僕がゆっくり時間がとれるのは、20日に一度程度。だからアウロラがその間研究に集中してくれるのは、僕としては有難いんだ。それは結婚してからも同じだと思う。その代わり、会える時はおもいっきり甘やかすから。」


結婚という言葉にきゅんとくる。

そう、ルーク様にとっては、私が忙しくしているのは、きっと都合がいいだろう。

何もなかったら、会えない寂しさが、やがて苦しさとなり、相手を傷つけてしまうかもしれない。

私達はお互いに条件がいい相手だと思う。


「私達はお互いの忙しさを理解し合える仲だと思います。私はルーク様が騎士だから、こういうものがあったらお役に立てるかもしれないと思って研究しています。」


私はルーク様の手をきゅっと握りなおす。


「だから、会える時はお互いを甘やかして、癒し合いましょう。」


私が満面の笑みを見せると、ルーク様はほっとしたように目元を緩める。

そして隣あって座る私の肩を優しく引き寄せ抱きしめた。

ルーク様の温かさが、私にゆっくり伝わってきて、何だか心から安心できた。


「アウロラ、僕のことはルークって呼んで。」

「え?あ、は、はい、ルーク様。」

「ふっ」


ルーク様と私は、きっとお互いを尊重し合える、素敵な夫婦になれる。

そう思った。


◇◇◇


帰りの馬車の中、私達は窓の外の街並みが夕日に染まるのをぼんやり眺めていた。

心地よい穏やかなひとときだった。


「アウロラにお願いがあるんだ。」


ふと、ルーク様は呟くように言った。


「はい。」


私は続きを促す。


「学園での生活だけど、アウロラには変装してでも見た目を地味に、行動も目立たず過ごして欲しいんだ。」


え?


それは突然の申し入れだった。

私は、なぜその様な事をルーク様が言い出したのか理解出来ず、ただ固まってしまった。

そんな混乱する私とは裏腹に、ルーク様の表情は苦し気で真剣そのものだった。










読んで下さり、有難うございます。

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