39 ジネヴラの見る夢 ②
「わ、私のせいではないわ·····。」
「はい、存じております。」
「でも疑われているのでしょう?!」
ジネヴラは声を荒らげる。
「今宮廷では、他国からの刺客を視野に入れたお調べが続いております。」
「他の王子の仕業ではないわね?」
「分かりませんが·····第2王子殿下は食事会にご参加のご予定でございましたが、公務で遅れて来られたようです。実際、第2王子殿下は食事ではなく、席に予めセッティングされていたグラスに毒が塗られていたそうです。第7王子殿下はこの度迎えられる王女様の入宮のご準備の為、ご欠席でございました。第4王子殿下はご存知の通り、あの決闘以来、ご自身の宮殿にてご謹慎されていらっしゃいます。」
「そう······。」
どうしたものか。
折角アスラン王が帰還する前に、王太子の妃になれる算段がついていたのに。
残った3人の中から改めて選ばなければならないなんて·····。
結局、犯人が捕まらないまま、料理人や給仕していた侍女や下働きの者達を含め、全て処分された。
謹慎中だった第4王子は、亡くなった王子達の公務をこなすべく復帰した。
第2王子は悲しみを忘れるかのように、寝る時間を惜しんで執務室に入り浸っていた。
第7王子は、混乱を極める宮廷の事態収拾に全力を挙げていた。
ジネヴラは暫く与えられた宮殿に引きこもり、大人しくしていた。
◇◇◇
「漸く、宮廷は落ち着きを取り戻しつつあるようですね。」
「ああ、陛下に急報を送っているが、今おられる地域では戦闘が続いている。簡単にはこちらにお戻りになられぬだろう。」
あれから1ヶ月、亡くなった王子達の葬儀は、アスラン王の帰還後ということになっていた。
「私を疑っておいでですか?」
「いや、調べられたかと思うが、毒物の入手を含め疑わしい所はなかったと報告を受けている。」
「そう·····良かった。」
王宮にある中庭の1つで、第7王子のケイレグと漸く顔を合わせることが出来た。
「それを聞いて安心しましたわ。あなたにずっと疑われているのではないかと心配していたの。」
ジネヴラは眉を下げ、困ったように微笑む。
ケイレグはそれを眩しそうに目を細めて見ていた。
「こんな時期なのに王女様が入宮されると聞いたわ。」
「国同士の盟約で決まっていた事だから。日程を変えることは出来なかった。こちらがもたついている間に、王女を他国に奪われるかもしれないからね。」
「そんなに大事な王女ですの?」
「土地の浄化の神獣と言われる古代種と共に我が国にやって来る。因みに王女の国、ラジャルはこの婚姻で我が国に統合される。他国から常に狙われていた資源豊かな国が我が国の領土になるんだ。他には譲れない。」
「まぁ、亡国の王女になるのですね。」
少し侮蔑の意味を込めてそう話すが、ケイレグはそれに対し、特に何を言うでもなかった。
この第7王子のケイレグは私と同じ歳だし、王子達の中でも特に美しい顔をしている。
何より若いながら頭脳明晰と評価する声も多く、他の王子達が生きていた頃から、第7王子という立場ながら重要な公務を数多く任せられていた。
ジネヴラの中では当初から理想の結婚相手だった。
ケイレグもまた、あからさまではないが、ジネヴラに好意を示してくれていた。
王子が3人となった今では、逃したくない相手だった。
「私も寂しくなりますわ。」
ジネヴラは視線を落とし囁く。
「そうだね。」
ケイレグの悪くない反応に、この時のジネヴラは満足していた。
◇◇◇
そして1ヶ月後、カミーユ王女がローヴェル王国にやって来た。
出迎えは第7王子と宰相以外誰もおらず、寂しいものとなった。
到着後早々に、喪中という事でその場で必要書面に署名するだけの形ばかりの婚姻が結ばれた。
いくら喪中とはいえ、カミーユ王女を迎える事は、大事な国同士の盟約にも関わらず、王女をぞんざいに扱うローヴェル側の対応に、共に来たラジャルの兵士達は不満を露にし、その場は一時剣を抜きそうな程険悪な雰囲気になった。
一瞬慌てるローヴェル側に対し、カミーユ王女はその場を上手く収め、何とか事なきを得た。
ジネヴラはその話を侍女から聞き、一人ほくそ笑んでいた。
ケイレグの心がジネヴラにあるため、その様な態度をとったのだろう。
カミーユ王女を迎えたと言っても、数ヶ月もすればケイレグは再びジネヴラの元へと戻るだろう。
残った3人の王子達全てに、今度はゆっくりともっと上手く、その心を完全に私のものにしなければ·····そう強く心に決めるジネヴラだった。
◇◇◇
その違和感はカミーユ妃が入宮してから1ヶ月程から現れた。
自身の息子を失ったアスラン王の妃やその妻である妃達は皆、宮殿に引きこもっており、妃達の公務に滞りを見せていた。
そんな中カミーユ妃は、それを補うべく精力的に公務をこなし、宮廷でのカミーユ妃の評価もどんどんと高まっていった。
そして他の妃や3人の王子達と公務を機会に接することが多いカミーユ妃は、彼らの信用も徐々に得ていった。
ジネヴラは面白くなかった。
元々ジネヴラの身分もあり、公務もあまり与えられていないこともあるが、数ヶ月もすれば王子達はまた昔の様に癒しを求めてジネヴラに会いに来ると思っていた。
しかし誰一人訪ねて来る者はいない。
王子達の心が今度はカミーユ妃に向いている気がしてならない。
どんな女なの?
今まで眼中になかった存在が疎ましく思えてきた。
カミーユ妃がどんな女か調べる必要があるようね。
ジネヴラは侍女にその行動を調べさせ、ケイレグとカミーユが忙しい合間を見つけては2人でよく過ごす庭園があることを知った。
実際目で確かめるべく、ジネヴラは自らその庭園へ向かった。
侍女の言う通りの時間、その庭園では誰も奥へ入れぬよう近衛騎士が数人配備されていた。
「ジネヴラ妃殿下、いかがなさいましたか?」
「こちらにケイレグ殿下とカミーユ妃がいらっしゃると伺ったのでご挨拶に参りましたの。お通し下さる?」
「只今、殿下より誰も中へ入れるなと指示を受けております。別の機会に改めて事前に侍従を通じてお約束下さい。」
「まぁ、以前はその様な事はありませんでしたのに。私だと申し上げても駄目かしら?悲しいわ。」
あからさまに悲しげな表情を見せると、今までの関係を知ってか少し考えた後、「確認します。」と中へ入って行った。
ジネヴラはその後にそのままついて入って行こうとすると、「ジネヴラ妃殿下、お待ちを!」と他の騎士に止められるも、「大丈夫よ。」と余裕の微笑みを見せ騎士を制し、強引に中へ入って行った。
その庭園は他の場所と違い、大きな古い木と草が短く刈られた広場の様な造りだった。
その大きな古木の木陰の下、座る黒髪の女性の膝を枕にし、ケイレグは横になっていた。
優しく風が撫でるように2人の側を通って行く。
静かな、とても穏やかな美しい光景だった。
離れた場所に待機している侍従に騎士は声を掛け、用件を伝える。
侍従は騎士の後ろから着いて来たジネヴラに目をやると、困ったように渋々ケイレグに確認をしに向かった。
侍従に声を掛けられたケイレグは、珍しく遠目でも分かる位、不機嫌に身体を起こすと騎士と共に立っているジネヴラを見た。
その目は、今までジネヴラに一度も向けられた事のない、冷たい眼差しだった。
その瞬間、ジネヴラの中で何かが変わってしまった事への恐怖を感じたのだった。
読んで下さり有難うございます。
またブックマークをして下さっている皆様、何時も有難うございます。




