36 ある推察 ①
「王国の守護たる獅子、王太子殿下にご挨拶申し上げます。」
「出立前に悪いね、ルーク。ただどうしても話しておかないといけない事があってね。先ずは我が愚弟が迷惑をかけた事を謝罪する。君とアウロラ嬢には特に申し訳ないと思っている。実際の所、君とアウロラ嬢が婚約を解消する必要があったのかという声があるのは知っている。君が納得するかは分からないが、こちら側の事情を詳しく話しておこうと思ってね。因みにこの話は、ペータース伯爵にはしないから。身内であっても他言無用だ。」
「承知しました。」
「まぁ、座ってお茶でも飲みながら説明しよう。それから今回色々と説明するにあたって私よりも適任者がいてね。それが彼だ。」
「初めまして、かな。ルーク·グリフォニア辺境伯令息。リアム·ミュラーだ。」
「アウロラより、よくお話は伺っておりました。どうぞルークとお呼び下さい。宜しくお願いします。」
王太子宮の中庭がよく見える客間に設けられた茶席には、王太子のオーウェンの他に生物学研究棟のミュラー教授の姿があった。
ミュラー教授がいることを意外に思いながらも、ルークは席に着く。
「早速、今回のサミュエルとディランを含む貴族令息達が、ルイーズ·オヴァフに入れ込んでしまった件だが、君は一番側で見ていたから分かるだろう?ちょっと異常だと思わなかったか?」
「私はサミュエル殿下の側にいましたので、殿下について申し上げると、当初ルイーズは殿下と積極的に学園内で遭遇するのを狙っていた様に思えます。ただ、ルイーズに限らずそういう令嬢は たまにいるのですが、ルイーズは他とは違い、殿下の身体に積極的に触れようとしていました。他のルイーズの周りの令息に対してもそうしていたのではないかと。その内皆がルイーズに対する親近感の様なものが出来上がっていた様に思えます。」
「はは、男爵家では娼婦の手解きでも受けているのかな?学園に入学している平民でも、その辺りはわきまえていると思うよ。まぁでも接触行動か·····。」
「ルーク殿、君はその辺りは動じてないよね。何かルイーズに対して違和感があったからなのかな?例えば甘い香りを感じたとか?」
「私にはアウロラがいましたから。香りに関して言えば、ルイーズは何時も甘さの強い香りをつけていたと思います。」
「君はその香りはどうだった?」
「不快でした。」
「ああ、あれは私も感じたが、甘さの塊が近づいてくる様で不快だったよ。」
「そうですか。王太子殿下、おそらく間違いないでしょう。」
「そう。では、ミュラー教授の仮説を聞こうか。」
「私が古代種の研究をしている事はご存知だと思いますが、古代種というのは多種多様です。例えばトカゲ等の場合、古代種として確認されているのは『ナナイロオオトカゲ』であり、鳥類だと『ハッコウカラス』です。それぞれの種族の古代種を調べる内、ずっと考えていたことがあるのです。 人間に古代種はいないのかと。」
「へぇ、面白いね。」
「古代歴史棟の研究員達と古文書でも確認していますが、今の所、古代種特有の規格外の能力を持った人間の記録はありません。ただ歴史の中で、そういった超人的な能力ではなく、度々記録として現れるのが、いわゆる傾国の美女の存在です。はじめは何処の国でもまま見られる寵妃を巡る争いかと思っていたのですが、記録されているのは、どれもその容姿と状況が酷似している事。1人の女性に数多くの男性が妄信的に心酔し、言いなりになる。そして結果、彼女の唯一になる為に殺し合うといったものです。」
「1匹の雌を巡り殺してでも奪い合う、動物の本能剥き出しの行動だね。」
「まさにその通りです。その理性を狂わせるものは強烈なフェロモン。このフェロモンにあてられた者は皆同じ運命をたどっているという事。」
「その事例、我が国だけなの?」
「我が国はご存知の通り、約200年前に起こった悲劇。他はおよそ100年から200年周期で近隣諸国に類似した記録があることが分かっています。」
「その女が古代種だと?」
「はい、今回のルイーズ·オヴァフと200年前のジネヴラ妃はまさにその状況を作り出しています。ジネヴラ妃も一部の人間には強烈な甘い香りを感じさせていたと記録されています。その甘い媚香こそが理性を狂わせるフェロモンであり、古代種の持つ能力の1つだと考えられます。その媚香を不快に感じた者は理性を保っていたと。」
「それでルイーズとジネヴラ妃が血縁にあたるかだが·····」
「殿下もご存知の通り、ジネヴラ妃は国外逃亡したとされ、記録は行方不明です。どのような人生を送ったかは確認出来ません。推察するに繋がりは濃厚かと。」
「そうだね。ここでルークにも見せて上げよう。200年前のジネヴラ妃の肖像画だ。」
部屋の奥の棚にはそれぞれ白と黒の布が掛けられた2枚の画らしきものが置いてあった。
王太子は侍女に指示し黒い布を取らせる。
「これは·····。」
そこには、少し大人びたルイーズそっくりの姿が描かれている。
「驚くのも無理はない。これが稀代の悪女、ジネヴラ妃だ。ルイーズにそっくりだろう?これで血の繋がりがないとは、なかなか考えにくい。それで、このジネヴラ妃の血縁者が古代種と見ていいということかな?」
「まぁそうなりますが、私はそこが少し引っ掛かります。」
「何かな?」
「彼女の一連の行動を見るに、実に堂々としている。まるではじめから自分の能力を知っていたかの様に。」
「フェロモンで人の心を操る能力をか?確か母親とは、物心つく前に死に別れたと聞いている。教えられたのではなく、日々生活していく中で気づいたのでは?」
「元々彼女は知っていたという方がしっくりきます。」
「·····まさか、記憶を持って生まれたと?」
「ええ、彼女は記憶を持って生まれ変わっている『転生者』の可能性が大きいと思います。」
「『転生者』か····それではあれがジネヴラ妃本人でもあるという事か?」
「そうです。彼女は高位貴族や王族ばかり侍らせていたのでしょう?因みにジネヴラ妃は女王になる事を夢見ていたと言われています。」
「直ちに処刑すべきだったか?」
「いえ、転生者やジネヴラ妃の血縁者かなどは本人の口から聞かない限り分かりません。ですがもし転生者だった場合、転生の仕組みを知り、それを解かない限りは、また歴史は繰り返されるという事です。」
「ただ処刑にしただけでは、また何十年か何百年後には転生して現れ、子孫に危険を及ぼすと。」
「はい。」
「どうやってその仕組みを解明するかだな。」
「····あとは古代種の事は古代種に聞く、ですかね。」
「古代種に聞く?」
「殿下もご存知でしょう?人語を話す古代種。アウロラ嬢が『ムク様』と名付けた『ハッコウカラス』がいることを。この甘い香りはフェロモンで200年前のジネヴラ妃のものと酷似していると教えてくれたのが、『ハッコウカラス』なのですよ。」
「そうか。」
「すみません殿下。質問を幾つか宜しいでしょうか?」
「ああ、構わない。」
「200年前、ジネヴラ妃はどの様にして追い込まれたのでしょうか。」
「ああ、それはあのもう一枚に描かれている人物のお陰だと言われている。」
王太子は侍女に指示し、部屋に置かれている画の白い布を取らせる。
そこに描かれていたのは·····。
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