35 パーティーの後で ②
「シャーロット待ってくれ!まだパーティーは終わっていないだろう?」
アウロラの褒章授与の儀を見届けた後、パーティー会場を出て、馬車廻しの場所へ向かうシャーロットをサミュエル殿下が呼び止める。
サミュエル殿下の呼び掛けにシャーロットは立ち止まり、ゆっくり振り返る。
「両陛下には退出させて頂く事はご了承頂いております。私の事はどうぞお構い無く。殿下はパーティーをお楽しみ下さい。ではこれにて失礼致します。」
そう言うと、シャーロットはサミュエル殿下に礼をし、再び立ち去ろうとする。
「待て、シャーロット。ルイーズの事が気に入らなかったのなら謝ろう。しかしルイーズとはこれが最期だ。もう関わることはない。これからは、そなただけを見て過ごすつもりだ。約束しよう。」
「もう手遅れでございます。」
「何がだ?」
「·····あのルイーズ·オヴァフ男爵令嬢が着ていたドレスですが、あれは元々私の為に用意していたものではないのですか?」
「それは·····」
「1ヶ月程前王宮にて試着し、サイズを確認致しました。その後手違いがあったとかで、そのドレスは結局私の手元には届きませんでした。それをどうしてルイーズ·オヴァフ男爵令嬢が着て現れたのでしょう?」
「·····仕方がなかったのだ。このパーティーでしかルイーズが私と会う機会がないからと。最期の思い出を作りたいが、着ていくドレスがどうしても用意が出来ないと言ってきた。最期の願いを叶えてやりたいと思ったまでだ。本当に今日のこのパーティーまでだと。これからはシャーロットと共に生きていくと誓う。だから今回は目を瞑ってくれ。」
「あの宝飾品はどうされたのです?」
「あれは私ではない。別の誰かが用意したのだろう。」
「おねだりしたのは、殿下にだけではないという事ですね。」
「な?!·····シャーロット、ドレスの件は謝るつもりだった。本当にこれが最期だ。」
「ドレスなど·····最早どうでもいいこと。それよりもルイーズ·オヴァフ男爵令嬢に出会ってからというもの、度重なる私を蔑ろにするお振る舞い。そして今日のパーティー。これは殿下が我が公爵家を軽んじていると皆に知らしめた様なもの。今日このパーティーに招待されて来ているのは生徒だけだはありませんのよ。高位貴族の保護者、当然我が父、ジェンセン公爵も出席しております。その中であのようなものを見せられて、これまで通りの関係を続けられるとお思いですか?」
「········公爵には私から説明しよう。」
「『あれ程美しいなら、殿下がルイーズ·オヴァフ男爵令嬢に惹かれるのは仕方がない。』そういう声も聞かれましたわ。そして殿下方がご自身達を正当化する為に、そう皆様が思うのを狙って演出した事も存じております。」
「····ルイーズ自身が他の者の婚約破棄を誘導した訳ではないと分かってもらいたかったんだ。」
「彼女の行動がどれだけの人を傷つけていたかご存知ないのですか?·····何故今日、アウロラ·ホーヴェット子爵令嬢の前でペータース卿にルイーズとダンスを踊る事を命令されたのです?アウロラ様とペータース卿は今回の事に巻き込まれたのですよ?アウロラ様があの様なものを見せられて、傷つき、涙する姿を見て、殿下は何も思われないのですか?」
「·····すまない。」
「今夜で我がジェンセン公爵家はサミュエル殿下の後見の任を降りる事になりました。同時に殿下と私の婚約も破棄されます。これは陛下もご了承頂いている決定事項です。ですからもう、私達は婚約者同士ではありません。ですので、最後まで殿下の側にいる必要がなくなりましたので、これで失礼させて頂きます。」
「な·····シャーロット?婚約破棄とは?後見を降りるなど·····。」
「当然でございます。我がジェンセン公爵家を侮らないで下さいませ。」
サミュエル殿下を冷たくあしらうシャーロットであったが、その目からは涙がこぼれ落ちていた。
そして立ち去る姿を、サミュエル殿下は呆然と見送るしかなかった。
「殿下、会場に戻りましょう。」
専属護衛騎士のライアン·ロッシ卿がサミュエル殿下に声を掛ける。
「ライアン······シャーロットが行ってしまった。」
「はい、当然の結果かと。」
「当然の結果か、手厳しいな。·····学園を卒業してしまえば、この身は自由が効かなくなる。せめて学生の間だけは、多少の振る舞いも許されるかと、そういう思いだった。」
「·····シャーロット様は殿下の意思を尊重されておられました。殿下の事を誰よりも大事に想われておいでなのは、お側で拝見させて頂いていた者は皆知っております。殿下のお立場を考えれば、ルイーズ·オヴァフ男爵令嬢の様に、パーティーに出席したいなど、とても言えるものではありません。ルイーズ·オヴァフ男爵令嬢がこのパーティーに現れた事で、殿下の置かれているお立場は最悪なものとなりました。」
「陛下はご存知ないはずだ。」
「ドレスの件から、既にお耳に入っておられます。その上で、殿下が今夜どう動かれるか、窺っておいででした。そうでなくても、遅かれ早かれお耳に入る事には違いはありません。」
「·······。」
「あのドレスをルイーズ·オヴァフ男爵令嬢に届けた乳母殿は、王宮に勤める家族も含め、一族は王都を追放となります。そして私も·····本日を以て殿下の専属護衛騎士、近衛騎士の称号を解かれ、辺境の地へ追放処分を受けることになりました。」
「なんだと?!乳母のサラにドレスを任せたのは、周りの王宮の者達が王妃陛下の息がかかっているため、自由に動けなかったからだ。それにライアン、そなたにしてもルイーズとは距離を置かせていたはず。」
「お側にいながら、お諌め出来なかった罪です。」
「そのような·····ルイーズに惹かれた事がそれほど罪なのか?」
「殿下、シャーロット様の涙をご覧になっても、まだその様に申されますか?」
「っ······。」
「とにかく会場へお戻りを。最後のお務めをなさいませ。」
サミュエル殿下は重い足取りで、会場へと戻って行った。
◇◇◇
「兄上はどうなるのだろうな?そして俺も。」
「サミュエル殿下は、ただでは済まされないでしょう。ディラン殿下は今夜のパーティーにルイーズが参加することはご存知なかったのでしょう?」
「あぁ。何か兄上達がやろうとしているとは思ってはいたが。」
「パーティーの際、ルイーズの手を取らなかったのも大きいですわ。」
「あぁ、お前がしっかり後ろから引っ張っていたからな。」
「ディラン様。」
「分かってるよ。分かってるから、スフィア睨むな。」
「それに聞くところによりますと、ディラン殿下は学園内でアウロラ様にお会いした時、暴言を吐かれていたとか。」
「いや、ルークと彼女がこんなに愛し合っていたとは知らなかったからな。しかし驚いたな。ルイーズが太陽ならアウロラ·ホーヴェットは月の様な美しさだった。あの眼鏡にこんなにも騙されるとはな。」
「ペータース卿の独占欲ですわ。こんなにも大切にされていたのに婚約解消とは、本当にお気の毒ですわ。ディラン様にも罪がございますわよ。」
「ああ、今度会ったら謝罪しよう。」
「そうなさいませ、心を込めて。」
「ああ。·····スフィア、そなたにもすまないと思っている。」
「次はありませんわ。」
「分かっている。」
こうして、卒業パーティーは終わりを迎えた。
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