30 ある令嬢について思うこと( ダンテ視点)
更新遅くなってすみません。
「タレッタ神殿が襲撃されたって?」
『タレッタ』はルイーズが男爵家に引き取られる以前に過ごした場所であり、彼女の母親が埋葬されている場所でもある。
元々定期的に各神殿に殿下方の婚約者であるシャーロット嬢やスフィア嬢を伴って慰問する事は王家の慣例だった。
しかし最近は、学園が休みの日には、ルイーズと視察という名目で街に繰り出す機会が増え、そういった自発的に婚約者と行う公務が減っていた。
その内、王宮では殿下方の行動を良しとしない者達が増え始め、その矢先、ルイーズが故郷の神殿に連れていって欲しいと言ってきた。
『タレッタ』は王都の外であり、治安も良くないと聞いている場所だ。
おそらく王宮からは承認されないだろうと思っていた。
しかし、ルイーズの要望に応えたいと思ったのだろう。
サミュエル殿下はルイーズに想いを寄せているであろう学園に在席している見習い騎士数人と唯一正規騎士のルーク·ペータースを従え、『タレッタ』に向かった。
ルイーズとしては、神殿の運営を改善し、且つサミュエル殿下の温情を広める結果を期待していたのかもしれない。
結果、下賜した短剣を狙う輩に神殿は襲撃され、死者や重傷者を出すまでに至った。
サミュエル殿下はかなり落ち込んでいた。
俺もルーク·ペータースが事前に騎士団に報告し、安全を手配する等対策を行おうとしていた事も、襲撃の後、現地に赴いていた事も知らなかった。
ルイーズは短剣が下賜された事を吹聴する様、子供達を扇動していたくらいだ。きっと後悔し、酷く悲しんでいるだろうと思っていた。
しかしそれを聞いたルイーズの反応は意外だった。
神殿の状況よりも、短剣が盗まれ、その行方が分からないことに怒りを感じている様だった。
殺された下男はきっとルイーズがいた頃から知っている人間だ。
その上、育ての親の様な存在のアンナ神官が重傷なんだぞ。
それは心配しないのか?
その事に違和感を感じる。
サミュエル殿下も何か思う所があった様だが、その事に触れることはなかった。
その後、サミュエル殿下とルイーズが休みの日に会う機会は減っていった。
代わりにディラン殿下がルイーズを連れ回しているという話を聞いた。
学園を卒業したらサミュエル殿下は1年間留学する。
シャーロット·ジェンセン公爵令嬢という婚約者がいる限り、ルイーズが側妃になる事も難しい。
こうして少しずつ関係は離れて行くだろう。
まぁ、それが本来の関係だ。
そう俺は理解していた。
しかし王太子殿下が帰国し、王太子殿下の側妃の話題と共に、婚約者のラトゥナ王国のアリーチェ王女の侍女を探しているという噂を耳にしたルイーズは、是非とも自分を殿下方から推薦して欲しいとお願いしてきた。
「私が王宮に上がれば、学園卒業後も皆に会える機会があるはずだわ。私達の力で王家を、この国を支えて行きましょう。」
ルイーズのその言葉に皆頷いていた。
サミュエル殿下もルイーズの気持ちに今度こそ応えたいと思ったのだろう。
数日後には、学園の生徒を招いて王宮の花を愛でるという名目で皆を招き、王太子殿下との遭遇を図った。
結果、王太子殿下はルイーズの要求をのむ事もなく、ルイーズに心を奪われるでもなく、甘い香水の匂いがきついと言ってルイーズの要求を一蹴した。
「私、そんなに甘い香りがするかしら?」
王太子殿下達が立ち去った後、不安な表情でそう問いかけてきた。
「確かに強い甘い香りがするな。その香水をつけるのをやめればいいだけの話じゃないか?」
俺は素直にそう答えた。
ルイーズは信じられないといった表情で俺を見た後、キッと睨んできた。
「ダンテ様まで酷い。私そんな香りはつけてませんわ。」
え?嘘だろ?こんなにきつい甘い香りがするのに?
しかし俺以外誰もその香りを感じないらしく、皆訝しげだ。
まぁでも、王太子殿下もシャーロット嬢やスフィア嬢もそう言ってたしな。
すっかり機嫌を悪くしたルイーズは、俺と距離を置くようになった。
その頃俺自身もルイーズに違和感を感じる様になった。
そんな折、マイケルがエリーサ嬢にアリーチェ王女の侍女の件で、ルイーズの邪魔をしたと言い掛かりをつけ、それが両家の耳に入り、とうとう婚約を破棄するに至った話を聞いた。
いや、どうしてルイーズの邪魔をした話になるんだ?
あいつも王太子殿下がルイーズに断りをいれている場に居たはずだぞ?
ルイーズの事で度々エリーサ嬢に当たり散らしているのは聞いていたが、本当にどうしようもない奴だ。
以前はあのように短絡的な性格ではなかったのだがな。
婚約破棄騒動はそれで終わりではなかった。
学園で3名の見習い騎士がルイーズの専属護衛騎士の座をかけて、真剣での決闘をし処分された為、その生徒達の婚約は全て白紙になったとか。
自身の婚約者とは婚約を破棄して、ルイーズを迎えようとする者がいたり、学園内はルイーズを中心に無茶苦茶になりつつあった。
当のルイーズは誰ともそんな約束を交わしたことはないと殿下方に涙ながら訴えていた。
だが婚約を破棄するに至った女子生徒達の家の者達は皆口を揃えて、ルイーズが婚約者がいるにも関わらず不適切な関係を持っていたと主張した。
そこまで言われれば学園側も管理責任を問われる為、王宮にその処分に対する判断が委ねられた。
仲間の誰かが嘆願書を提出しようと言い出した。
殿下方もその話に乗った。
20名もの有力貴族の子息の署名が集まったその嘆願書のお陰で、ルイーズの修道院行きは防ぐ事が出来た。
その代わり········
「なんだって?ルークとルイーズが婚約するだと?」
まさに寝耳に水だった。
何でもルーク·ペータースはグリフォニア辺境伯の養子になり、ルイーズはそれに付いていく形になり、グリフォニア辺境伯の管理下に置かれる。
そしてルイーズは許可なく王都に戻る事は許されないという、実質王都追放だった。
王都追放とは言え、次期辺境伯のルークとの婚約だ。決して悪い処分ではない。
殿下方はその決定に納得していない様だった。
しかし厳しい処分を求めていた女子生徒側の貴族達から出るであろう抗議に対処するよう命じられた殿下方は、すっかり口を閉ざしてしまった。
おい、皆忘れてないか?
そもそもルーク·ペータースにはアウロラ·ホーヴェットという婚約者がいたはずだ。
今回の騒動に関係ない2人の婚約を解消する必要はあるのか?
ルークはルイーズの嘆願書の署名にも難色を示していた。
サミュエル殿下が半ば命令する形で署名した位だ。
ルイーズとの婚約も本意ではないはず。
そう考えていた矢先、学園の通路で殿下方と我々一行はアウロラ·ホーヴェットと遭遇した。
以前、古代種の外部持ち出しの任務の際、声を掛けて以来だった。
あの頃、ルークの話をすれば、キラキラと顔を輝かせていたのとは違い、すっかり気落ちした表情が痛ましかった。
あの嘆願書を出した影響がないとは言えない。
俺の中で罪悪感が生まれる。
ルークとの婚約を元に戻す為に力を貸して欲しいと懇願するアウロラ·ホーヴェットに、ディラン殿下が対峙する。
嫌な予感がする、と思った時·······
『ルーク·ペータースは案外喜んでいるんじゃないか。』
『あのルイーズを妻に出来るんだぞ。嬉しくない訳ないだろう?』
余計な事を!
俺は思わずディラン殿下の口を塞ぎそうになった。
サミュエル殿下がディラン殿下を制するがお構い無しだった。
それを聞いたアウロラ·ホーヴェットの目に、見る間に涙が溢れてきた。
まずい······。
その場にいた全員がそう思ったに違いない。
おまけに彼女はホーヴェット家の人間だ。
王都の騎士団関係から領地に私兵を抱える家まで、ほぼ皆ホーヴェット家の世話になった事がある。
医療技術もさることながら、義手、義足等の器具、また薬草の生産地としても名高い。
今回子爵に陞爵したものの、ホーヴェット家の価値が爵位にとらわれるものではない事は周知の事実だ。
その場が一気に苦々しい空気に変わる。
たまらずアウロラ·ホーヴェットを医務室に連れていく事を提案するが、彼女は申し出をにべもなく断り、その場を立ち去って行った。
残された俺達は完全に悪役と化した気分だった。
「他の女子生徒も泣いているのだろうか?」
サミュエル殿下の言葉は重かった。
それから卒業式まであっという間だった。
ルイーズは謹慎を言い渡され、学園に顔を出すことはなかった。
ルーク·ペータースはグリフォニア辺境伯との養子縁組みの為グリフォニア領へ行ったまま、未だ戻って来ていない。
結局ルークが姿を現したのは卒業式当日だった
今まで、何を考えているか分からない笑みを浮かべていた奴だったが、今のルークは険しく、冷たい表情だった。
そして俺は迎えた卒業パーティーで眼鏡を外し、着飾ったアウロラ·ホーヴェットを見る事になる。
その時の俺の感想は······
あの眼鏡にまんまと騙された······だ。
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