3 王都へ
「アウロラ、そろそろ着くけど体調は大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です。ナナちゃんもゲージの中ですやすや眠ってます。」
王都にある王立学園に入学する為、ナナちゃんと共に自領地を出発してから早4日。
ようやく本日、王都の邸宅にたどり着く。
王都に来るのは、幼少の頃以来10年ぶり、2回目である。
馬車の向かいの席に座る叔父のジャックは、4人兄弟の内、長男であるアウロラの父エイダンに次ぐ2番目である。
エイダンが男爵家を継いだのに対し、ジャックは父たる祖父の仕事仲間の商家、ロッシェ家に婿入りした。
祖父と同じ黒髪に少し白髪が混じりはじめた叔父は私と同じグレーの瞳で、目元にほくろがある色気のある美男だ。
ロッシェ家は爵位は持たないが、ホーヴェット家が薬を作る為に必要な素材の調達や作った薬の販売等、ホーヴェット家を全般的に支えてくれている公私共に信頼関係にある家だ。
叔父のジャックには子供が2人いて、娘のエリナはアウロラと同じ歳で、従姉妹であり親友でもある。
ジャックは仕事で各地を飛び回っていることが多いが、王都に商会を開いていることもあり、エリナは王都の邸宅に住んでいる。
アウロラとは昔から手紙のやりとりを頻繁にしており、アウロラにとっては、王都のファッションをはじめとする流行の情報源である。
そんなエリナも今年から王立学園に入学し、主に経済学を学ぶ事になっている。
アウロラは第2王子の護衛で忙しいルークになかなかゆっくり会えないだろうと思う分、エリナと過ごせる学園生活をとても楽しみにしている。
「エリナが邸宅で待ち伏せしているかもしれないね。日にちを手紙で知らせたら、いても立ってもいられない位、はしゃいでいたみたいだから。」
「エリナが迎えてくれたら、嬉しいわ。」
「完全に浮き足立ってるからね。そそっかしい所もあるし、入学してからもエリナを宜しく頼むよ。」
「ふふ···承知しました。でも私こそエリナがいてくれて、本当に心強いですわ。」
私の言葉を受けて叔父は柔らかく微笑むのだが、その際刻まれる目元のしわも魅力的だ。
その色気にちょっと緊張してしまう。
因みにエリナの母親のサンドラは、叔父に一目惚れし、猛アタックの末、結婚したらしい。
叔父は仕事上、貴族と関わる機会が多い事から、仕草もどことなく洗練されている。
素敵な自慢の叔父である。
◇◇◇
「アウロラー!待ってたわ!」
王都の邸宅に到着すると、待ち構えていたエリナが、両手を広げて、駆け寄って出迎えてくれた。
「エリナ、出迎えてくれるなんて本当に嬉しいわ。大好きよ。」
「アウロラ~。なんて可愛らしくて美しい私の自慢の従姉妹。王都に来たからには、とことんおしゃれさせちゃうから。」
エリナはそう言ってぎゅっぎゅっと私を抱きしめる。
「こらエリナ、落ち着きなさい。父親である私は目に入ってないのかな?」
「そんな事ないわ、私の愛しのお父様。あぁ、こうして見ると、髪の色は違うけど、やっぱりアウロラの方がお父様と似てるわね。うーん、妬けちゃうけたど、2人とも大好き。」
そう言って、エリナは父親のジャックにも抱きつく。
エリナは母親のサンドラ似で、艶やかな赤毛の髪にくりっとした茶色の目をした、丸顔の美少女だ。
「エリナ、嬉しいが少し落ち着きなさい。貴族の集う学園に入学するのだから、言葉づかいだけでなく、立ち振舞いも気をつけなければいけないよ。」
ジャックにそう諭され、エリナはしぶしぶ腕をとく。
「アウロラお嬢様お久しぶりでございます。ジャック様も長旅お疲れ様でございました。とにかくどうぞ中へ。お茶をご用意致しますので、そちらでご歓談下さい。」
折を見て声をかけてくれたのは、長年王都の邸宅を任せている執事のオーソンさんだ。
とある貴族の執事だったのを、そこの主人が亡くなられたのを機に、ホーヴェット家へ雇い入れた人だ。
田舎貴族が王都での貴族社会で生き抜く為の様々な手法を細かく教授してくれる、貴重な存在だ。
「お久しぶりです、オーソンさん。これからお世話になります。」
「お嬢様、丁寧なお言葉は大変嬉しいのですが、どうぞこれからは『さん』付けではなく、オーソンとお呼び下さい。」
「は、はい。」
こんな白髪で紳士的で、オーソンさんこそ貴族らしい雰囲気を醸し出しているのに、そんな方を呼び捨てしなければならないなんて、と心の中で苦笑する。
「それから、こちらがお嬢様に届いております。」
そう言って差し出されたのは、黄色を基調とした抱えきれない程の大きな花束。
「ルーク·ペータース様より、本日お嬢様のご到着をお聞きになっていらっしゃったとの事で、先ほどこちらに届きました。それからこちらがメッセージカードです。」
そう言って渡されたメッセージカードに目を通す。
『アウロラ、ようこそ王都へ。
待っていたよ。
到着を迎えられず残念だ。
明後日アウロラの都合が良ければ、早速王都
を案内したい。
早く会いたいよ。 ルークより』
きゃぁぁぁぁ
脳内で喜びの絶叫をあげてしまう。
顔は当然真っ赤になっているであろう。とても熱い。
「まぁ、アウロラ。早速こんな素敵な花束と情熱的なメッセージなんて。婚約式の時は、あまりこういった感情を表さないタイプかと思ったんだけど、実はとても情熱的な方なのね。羨ましいわぁ。」
エリナには少し悪いとは思うけど、嬉しくて、顔がニヤケるのを抑えることが出来なかった。
「エリナ、学園で二人の熱にあてられない様に注意しなさい。」
叔父のジャックからも冗談でそう言われるものの、私の頭の中はすっかり溶けきっていたので、言葉をまったく返す事が出来なかった。
エリナはその日、邸宅に泊まって一緒に荷物の整理を手伝ってくれた。
読んで下さり、有難うございます。