28 王子達の主張
新年の祝儀の翌日、王宮のある一室には、珍しく国王、王妃、王太子、そして2人の王子が揃っていた。
ゆったりとソファーに座る国王と王妃。
王太子は傍観する為か、こちらに背を向け部屋に飾られた絵画をじっと見ていた。
「どういう事ですか、父上、母上。何故ルイーズ·オヴァフ男爵令嬢がルーク·ペータースと婚約せねばならないのです?それに王都への立ち入りを禁ずるなど、王都を追放されるのも同然ではないですか?」
「王都追放は、あなた達をはじめ20名もの貴族の子息が嘆願書を出し、修道院送りはやめて欲しいと懇願して来たから、それに応えてのものです。何の不満があるのです?」
「側妃の噂と今回の3名の子息の決闘は、ルイーズの意図した事ではないからです。それなのに美しく、若い娘が修道院送りとは、あまりにも無体です。ルイーズに罪はない。」
「そもそもサミュエル、ディラン、あなた達が婚約者であるシャーロットとスフィアを蔑ろにして、学園内外でルイーズを侍らせていれば、その様な噂も立ちます。今までシャーロットとスフィアと行ってきた慈善活動も最近はしていないそうね。」
「それは·····。」
「サミュエル、あなたはルイーズと勝手に研究棟の薬草園に無許可で立ち入ったり、ルイーズの出身地の『タレッタ』の教会に無責任な慈悲を施した結果潰す事になったり、問題行動を起こしてばかりね。」
「それはルイーズのせいではなく私の甘さです。寧ろ教会については、彼女の心に傷を残してしまいました。」
「心の傷?教会襲撃の知らせの後、ディランと満面の笑みで王都の街へ繰り出し、遊んでいたと報告を受けていますが?」
「え?ディランと?」
「ルイーズ達が遊んでいた頃、『タレッタ』の教会の立て直しの為に、シャーロットは大神殿へ話をしに行ってましたけどね。」
「シャーロットが?」
「街へは、落ち込んでいたルイーズを励ます為に連れ出したにすぎません。」
「無傷の彼女に何故王子たるあなたが気を使う必要があるの?心のケアが必要なのは、教会を失った子供達でしょう?」
「それは·····。」
「それにこれをご覧なさい。」
王妃は先ほどから目の前のテーブルに置かれている資料のような物をつき出す。
「これは?」
「これはあなた達とルイーズの行動記録です。」
「行動記録?誰がこの様な物·····。」
「学園の中庭では度々ディランとルイーズが2人だけの逢瀬を楽しんでいるのを目撃された内容や、休みの日はあなた達がルイーズと街や王城内で遊び回っている事。それもあなた達だけではないのよ。約20名もの男子生徒とルイーズの逢瀬の記録が残っています。よくまぁ手を広げた事。花まつりの日など何人の男を取り替えていることか。」
「「·····」」
「彼女の影響で婚約を破棄した者が大勢います。先日の決闘をした3名の内伯爵令息は婚約破棄。子爵令息2人は三男と四男でしたから、裕福な商家の平民の家に婿入りする予定でしたが白紙になっているそうよ。またマイケル·マーフィーとエリーサ·リュクトフもリュクトフ家から婚約破棄を申し出ているみたいね。何でもエリーサがルイーズを虐めていると証拠もなく判断し、度々大勢の前で糾弾したとか。あなた達も知っていたのでしょう?何故止めなかったのです?後は····アリア·ハンセン伯爵令嬢とジョセフ·トルーソー伯爵令息。あらあら彼女は大神官の妹の孫、姪孫なのね。
これだけ周りに影響が出ていれば処分されるのは当たり前の事。それにも関わらずあなた達が、王位継承権を持つ王子2人が嘆願書に名を連ねていれば、それ相応の配慮をせねばならなくなります。故に軽い処分になったのです。
それだけあなた達の名前を記す事は、重いという事なのです。当然、婚約破棄に至った女性側の貴族からは不満が出るでしょう。あなた達で対応出来るのですか?これ以上何かするならば、ジェンセン公爵家もミュランダン侯爵家もあなた達の後見を降りると言っています。それぞれの家にあなた達自身で説明をして来なさい。」
「私達だけでですか?」
「ルイーズ·オヴァフの事は自信があるのでしょう?シャーロットやスフィアよりも優先するほどに。」
「「·····。」」
「よく考えて行動することね。」
「·····ルーク·ペータースには婚約者がいました。彼らは納得しているのでしょうか?」
「ルーク·ペータースはグリフォニア辺境伯と同様、最年少で正騎士になった者。その婚約者のアウロラ·ホーヴェットも1年生ながら医·薬学研究棟と生物学研究棟に籍を置く才女。あなた達は彼女が書いた論文は読んだのかしら?」
「···いいえ。」
「情けない。つい先日帰国した王太子やアシェルももう読んだというのに。2人共、成績が落ちているはずです。」
「「申し訳ありません。」」
「ルーク·ペータースはあなた達と行動を共にして、唯一ルイーズの色香に惑わされなかった者です。今後王家に関わる事のない様に監視の為嫁がせます。勿論、子供は作らせません。」
「そんな·····。」
「ルイーズを制御出来ず、惑わされたあなた達の責任です。こんな嘆願書など出さねば、修道院へ幽閉していたものを。ルーク·ペータースが監視の任を負う事も無かったでしょうに。」
「·····。」
「それにアウロラ·ホーヴェットは古代種に好かれていてね。数百年温室に隠れ住んでいたハッコウカラスを手なずけ、捕獲不可能と言われたナナイロオオトカゲを捕獲し、更に体液から治療薬の開発まで行っているわ。あの気性の荒いテンセイバも彼女に会うなり、頬擦りしたそうよ。」
「え?あのテンセイバがですか?」
「目を掛けるなら、そういう生徒にすべきです。まぁ、被害者のアウロラ·ホーヴェットには時期をおいて別の者を婚約者にあてがいます。
あなた達はルーク·ペータースとアウロラ·ホーヴェットに謝罪することね。」
王妃の怒りの剣幕に、サミュエルもディランも言葉を失っていた。
今まで一言も発せず傍観していた国王ローガンは、指先だけで2人の王子に部屋から出ていく様に指示した。
サミュエルとディランは深く頭を下げ、部屋をあとにした。
◇◇◇
「やはり、『開かずの間』のジネヴラ妃の肖像画を先に見せた方が良かったかしら·····。」
「いえ、今見せても、それこそ私達の先入観だと言って来るでしょう。ルイーズ·オヴァフにも肖像画の事は知られてはいけない気がしますしね。彼女がルークと王都を離れたら見せましょう。」
「そうね。」
「しかし父上、ルーク·ペータースとアウロラ·ホーヴェットには気の毒な王命ですが。」
それまで黙っていた国王がため息をつく。
「グリフォニア辺境伯の後継者は名ばかりの貴族では務まらない。ルーク·ペータースはその点で最適だ。アウロラ·ホーヴェットは古代種に好かれていると言っただろう。例の200年前のカミーユ妃と同じ体質かもしれん。古代種に愛される者は、本人に知らせずとも王家に保護されなければならない。よって辺境の地へ行かせる訳にはいかないから、まぁ今回の決定は仕方のない事だ。」
「黒のジネヴラ妃と白のカミーユ妃ですか·····。で、アウロラ·ホーヴェットは誰と婚約させるのです?」
「それはアシェル·セラ·グルーバーが最適だろう。」
「アシェルですか·····。」
「ホーヴェット家ならアシェルの毒の傷の状態を良くしてくれるやもしれないからな。」
「まぁそうですね。子爵家が公爵家に嫁ぐというはどうなさるのですか?」
「そこはミュランダン侯爵家にでも養子の手続きをさせるつもりだ。」
「そもそもホーヴェット家はこんなに国に貢献しているのですから、子爵という爵位は低すぎるのでは?他国はさりげなくホーヴェット家の技術欲しさに取り込もうとしていますよ。」
「病気や怪我で騎士としてやっていけなくなった者やその家族を快く領地で受け入れて身を立てさせていると聞いているわ。本当に感心します。」
「爵位については段階を踏ませるつもりだ。今回は領地も与えた事だし、薬草の一大産地として地固めさせよう。」
「学園の卒業パーティーで一波乱無ければいいですが·····。」
王太子の呟きに王と王妃は眉根を寄せた。
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