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27 そして世界は反転した

あれは何時(いつ)だったか······


『ルーク様、ルーク様は騎士としてどなたか憧れというか、理想の方などいらっしゃるのですか?』

『憧れか·····アウロラはワイアット·グリフォニア辺境伯を知ってるかい?』

『つい最近、そのお名前を聞きました。確かルーク様と同じ最年少15歳で正騎士になられた方ですよね。』

『そうだね。今は40代位かな。グリフォニア様が入団したばかりの頃、第3騎士団の副団長だったのが、僕の祖父なんだ。その祖父からグリフォニア様の武勇伝を色々聞かされてね。祖父もグリフォニア様基準で僕を鍛えていたんだ。グリフォニア様は辺境伯となった今も、ダラムとの国境の地で繰り返される侵攻を防ぎ、戦って下さっている。何かの形で力になれたらとたまに思うんだ。』

『その時は私も当然連れていって下さいね。』

『はは、アウロラをそんな危険な所へは連れて行けない。』

『何言ってるんですか?私はホーヴェット家の人間ですよ。前線に赴いて、皆様の治療を行い、支えるのは当たり前の家門です。』

『そうだったね、アウロラ。僕は君を離さないから。一生離せないかもしれないけど大丈夫?』

『!!!

も、も、も、も、も、勿論です。愛の告白みたいで素敵です。』

『はは、愛の告白だよ。·····愛してる、アウロラ。』

『ルーク様·····私もです。愛しすぎてます。本当に離さないで下さいね。』


ルークはそっと片手でアウロラの頬を包み、親指で口唇に触れると、そのまま顔を近づけ口付けた。


『ああ、約束するよ。』


◇◇◇


「ペータース子爵家からルークとアウロラの婚約を破棄させて欲しいという内容の書面が届いた。」


婚約破棄·····とは何だったか·····。


一瞬、言葉の意味をなかなか理解出来ない。


「アウロラ·····。」


アウロラによく似た、長兄のセオドアがソファーから立ち上がり、立ち尽くすアウロラの側に寄り添う。


「いたずらですか?」

「いや、直ぐにペータース子爵家に使いをだして話を聞こうとしたんだが、5日後の新年の祝儀の際に詳しい事情を話すといわれてな。」

「詳しい事情?」

「見当がつかないな。セオドア、何か聞いてないか?」

「私も昨日領地から戻ったばかりですからね。勿論、ペータース家と揉め事なんてありませんし。恐らく、ペータース家の都合によるものだと。」

「ペータース家の事情か·····。ルークがどこかの高位貴族の令嬢にでも目をつけられたか·····。」

「あり得ますね。」


父と兄にとっても予想外の事だったらしい。

そもそもルーク様はこの事をご存知なのだろうか?

3日前、ルーク様に学園で挨拶した時は、そんな素振りを見せていなかった。

とにかくルーク様に会わなきゃ。

会って確認してければ。

大変な時こそ落ち着かなければ。


「アウロラ、ちゃんと息をしなさい。」


兄のセオドアが優しく背を撫でてくれる。


「とにかく確認だ。新年の祝儀まで数日あるが、無闇に騒ぎ立てるのも良くない。ここは落ち着いて対処しよう。」

「わ、私、学園に戻ります。ルーク様とは明後日会う約束をしているんです。」

「お嬢様、つい先ほど騎士団の方がこちらにおいでになり、ルーク様は所用で2、3週間王都を離れているそうでございます。」

「王都を離れる?」

「どういう事情かは、伺ってもお話になられませんでした。」


ルーク様に何があったのだろう·····


「ドレス·····ドレスと卒業パーティーの招待状が届いているんですよね?」

「はい、お部屋の方に。」

「アウロラ!」


はしたなくも居間を飛び出し、階段を掛け上った。

部屋の扉を開ると、そこにはメイド達がしてくれたのだろう、トルソーにドレスが掛けられていた。


全体的に落ち着いた若草色で、前身ごろと後身ごろには金糸と銀糸で刺繍がふんだんに施されている。

袖は肩から手首まで総レースになっていた。

下のドレス部分も上半身のデザインと合う様に、所々刺繍が施され、調和の取れた素晴らしいデザインになっていた。

ドレスの中も膨らみ過ぎない程度のシフォンの布地が使われていて、高位貴族のご令嬢が身に付けそうな美しいドレスだった。


「とてもきれい·····。」


いったい何時(いつ)注文したのだろうか?

王都に来た時貰った髪飾りもそうだが、ルークは何時も随分前からアウロラの為に品物を準備してくれている様だ。


見れば、テーブルに共に届いたであろう手紙が置かれている。



『愛しいアウロラへ


卒業パーティーの時は是非これを着て、婚約者の私と共に過ごして欲しい。


ルーク より』


短いメッセージと共に卒業パーティーの招待状が入っていた。


婚約破棄なんて、きっと何かの間違いだと自分に言い聞かせ、アウロラはそのままベッドに倒れこむ様にして眠った。


◇◇◇


翌日アウロラは一度研究棟へ戻った。

ナナちゃんを連れ、温室に向かい、数日来れない事をムク様に伝えようと思った。


「アウロラ、いかがした?」


羽根の手入れをしている途中、ムク様がアウロラの顔を覗き込む。


「ちょっと良くない話を聞いて。それが本当か数日後に分かるのですが心配で·····。ムク様、ナナちゃんすみません。少しお休みを頂きます。」

「そうか·····。」


ムク様は何時ものようにアウロラの肩に飛び乗り、優しく頭を撫でてくれる。


「辛くなったら来るが良い。我でも寄り添う事は出来るだろうからな。なぁ、トカゲよ。」


ナナちゃんを見ると、アウロラの膝に乗り、こちらを見上げている。

ナナちゃんの鱗はムク様の言葉に同意するかの様に、いつの間にか真っ白に変色していた。


「ムク様、ナナちゃん有難うございます。」


少し心が暖かくなったアウロラだった。


その後、ミュラー教授と漸く戻って来ていたディセック教授に少しお休みを頂く事を伝え、屋敷に戻った。


あのお二人の反応、何か知っているのかもしれない。


◇◇◇


そして数日後、父エイダンと兄セオドアは新年の祝儀と陞爵の為、王宮へ向かった。


アウロラは一人自室で帰りを待つ。

途中、メイド達が心配して軽食を持って来たりと、色々気を使ってくれるが、少し口にしただけで殆ど喉を通らなかった。



「お嬢様、旦那様がお戻りになられました。」

「すぐ参ります。」


思いの外早い帰宅だった。

恐らくパーティーもそこそこに戻って来たのだろう。

何とか気持ちを落ち着け、居間へ向かう。


父と兄は着替えもせず、居間にいた。


「アウロラ、取り敢えず座りなさい。」


父も兄も顔色が良くない。

心臓が嫌な音を立てるのが分かる。


父エイダンはゆっくり息を吐くと、重い口を開いた。


「祝儀の際、我々の陞爵、叙爵の儀も行われてね。その後両陛下から我がホーヴェット家とペータース家は別室に呼ばれた。そこで命じられた内容を話そう。」


命じられた?


「はい。」


言葉に違和感を持ちつつ、次の言葉を待つ。


「結論から言うと、ペータース家は子爵から伯爵に陞爵した。そして息子のルークは、グリフォニア辺境伯の所へ後継者として養子に入る。」

「え?ルーク様が?」

「ああ。現辺境伯のワイアット·グリフォニア様は結婚していないし、子供もいない。ワイアット様と同じく最年少で正規の騎士として入団したルークは養子としては確かに相応しい。ルークは学園の学年末試験が終わったその日、その事を陛下から命じられ、その足で養子縁組の手続きの為、グリフォニア領へ向かった。」


ルークはグリフォニア様に憧れ、力になりたいと話していた。

それが実現したのだ。


「では私も·····」


「そして陛下はルークとアウロラの婚約を破棄、いや解消するように命じられた。」

「な、何故ですか?」

「ルークは別の女性と婚約する。アウロラも陛下が別の男性との婚約を薦められた。」


「別の女性?」


「ルークは····ルイーズ·オヴァフ男爵令嬢と婚約する事が決まった。」


ルイーズ·オヴァフ男爵令嬢·····


その名を聞いた途端、耳鳴りがして、全ての音が聞こえなくなった。

気分が悪くなり、口を押さえ立ち上がろうとした瞬間世界が反転した。


私は倒れていた。


皆が何か言って駆け寄るのを見ながら、私は意識を手放した。


読んで下さり有難うございます。

ブックマークをして下さった皆様、何時も有難うございます。

アウロラ頑張って!という回が続きます·····

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