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26 そしてはじまる ②

その日学園は朝から騒がしかった。


「ねぇアウロラ聞いた?鍛錬場で男子生徒3人が決闘をして怪我したって?」

「え?何の話?朝から学園内がざわついている感じはしたけど。」


朝、席についた途端、エリナがアウロラの所に詰め掛けて来た。


「それでどうして決闘なんて?」

「それが、誰がルイーズ·オヴァフ男爵令嬢の専属騎士になるかをかけて言い争った挙げ句、真剣での決闘に持ち込んだらしいわ。」

「専属騎士?男爵家の?」

「男子生徒は2人が子爵家、1人が伯爵家だから、決闘してまで男爵家の専属騎士とは考えられないでしょ?」

「だったら何故?」

「ルイーズ·オヴァフ男爵令嬢がサミュエル殿下かディラン殿下の側妃になるだろうからって。」

「え?側妃になるの?」

「さぁ、そんな発表もないけど本人達はそう思い込んでいるみたいで。まだ正式な騎士になった訳でもないのにね。」

「エリナ様、声が大きいですわ。」


アウロラの席にやって来た友人のリリィとマリーが注意する。


「それで怪我はなかったの?」

「1人肩を斬られたみたい。命に別状はないみたいだけど、そもそも学園内で真剣での決闘なんて許される筈がないから、皆処分されるだろうって。」

「何てこと·····どうしてそこまで·····。」

「3人共ルイーズ様にご執心で、妻に迎える事が叶わないなら、せめて一生、一番近くで見守っていたいからと、そんなこと言っていたらしいわよ。まぁ、退学は免れないでしょうね。」

「結局学園長の元にご家族が呼ばれて、今話し合いが行われているそうですわ。」

「そうそう、その三つ巴の決闘の最中、サミュエル殿下の命でルーク様が間に入られ、3人を失神させて漸く収まったとか。あのまましていたら死人が出たかもしれないですって。」

「流石ルーク様ですわね、アウロラ様。」


後に聞いた話しによると、決闘を行った3人の男子生徒は退学になった。

更に、むやみに剣を握ったという事で、騎士団に所属するのも難しくなったらしい。

学園退学、騎士団不採用となれば、とんだ醜聞となり、実家からも縁を切られる事になりかねない。

彼等にとって、こうなる結末を予測した上での行動だったのだろうか?

よく物語の中で、1人の女性を巡って行われる決闘は、現実には決してときめくものでないと知るアウロラだった。



「そう言えば、新年の祝儀の1ヶ月後は、もう卒業式ですわね。」


学園の卒業式は早い時期に行われる。

卒業式が早いのは、その後専門分野へ就職する為の試験が行われるからである。

例えば文官試験、騎士団への正式な入団試験、神官試験、研究棟への研究員試験等である。

試験を受けない者には、領地へ帰り家業を継ぐ者、王宮の侍女や高位貴族の屋敷に雇われる者、そして結婚をして家に入る者様々である。

各々が次の人生に進む為の貴重な準備期間として過ごす。

因みにルークは、サミュエル殿下が隣国ガルディア王国に1年間留学する為、その護衛として共に行く事になっている。


「でも時が過ぎるのはあっという間ですわね。取り敢えず5日後の学年末テストを頑張らないとですけど。アウロラ様はルーク様のお相手として、卒業パーティーに出られるのでしょう?」

「ええ。」

「ドレスはルーク様が?」

「昨日ホーヴェットの屋敷に招待状と共に届いたと連絡があったの。王都の屋敷は遠いから、エリナの屋敷に送ってもらって、当日はエリナの屋敷のメイドさん達に支度を手伝ってもらう事になってるわ。」

「ふふふ、腕がなるわ。今度こそアウロラの美を解放させてもらいますからね。当然私はアウロラの付き添いで出席させてもらいますから。」

「エリナがらいれば頼もしいわ。」


ドレスアップして婚約者としてルークとパーティーに出られるなんて幸せである。


「それとアウロラ様の褒章の授与もあるのでしょう?」


卒業パーティーは、サミュエル殿下の留学に行く前の壮行会的な意味合いも込めて王宮で行われる為、両陛下も出席予定である。

そのため、各学年の首席の表彰と共に、今回はアウロラの褒章授与の機会も設けられていた。

アウロラにとっては、このパーティーは嬉しさ半分、緊張半分といった所だ。


◇◇◇


「アウロラ、今日はこれから王宮の催事を取り仕切る部署の事務室に行ってきて欲しい。論文の褒章授与の確認をしておきたいそうだ。アウロラも礼儀作法は知っておきたいだろう?」


その日ミュラー教授からそう言われ、学年末テストが終わったその足で宮廷へ向かうことになった。

初めて足を踏み入れる宮廷に緊張しながらも、親切な守衛に案内され、無事事務室にたどり着き、事務官と確認作業を行う。

その帰り際、『有難うございました。』と事も無げに事務官と挨拶し別れたものの、アウロラは現在絶賛迷子中である。


通って来た通路を戻るだけなのだったが、何処をどう間違えたのか人気の少ない通路に来てしまった。


「どうしました?」


アウロラが今来た通路を見ながらオロオロしていると、不意に声を掛けられた。

声の方へ振り向くと、そこには背の高い、黒髪の半仮面をつけた男性が立っていた。

見える部分の顔の造形は人形の様な色白さで、かつ美しく、なんとも神秘的で思わず見入ってしまった。


「大丈夫ですか?」

「し、失礼しました。所用を終え、事務室から研究棟に戻ろうと思っているのですが、迷ってしまいまして。」


そこまで言って、目の前の男性の瞳が紫水晶の色なのに気づく。


しまった、王家の血をひく方だ。


ただならぬ気品は、以前王太子殿下にお会いした時に感じたものに近い。

アウロラは慌てて、制服ながら直ぐに膝を折り礼を尽くす。


「アウロラ·ホーヴェットと申します。この度提出させて頂いた論文を評価頂き、学園の卒業パーティーの際、陛下より褒章を賜る事になりました。今日はその際の礼儀作法を享受すべく事務室に伺っておりましたが、帰り道が分からなくなりまして、この様な場所まで来てしまいました。」


怪しい者でない事を全身でアピールする。


「私はアシェル·セラ·グルーバー。そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。そう、君がアウロラ·ホーヴェット男爵令嬢。私も先日あなたの論文を拝読したが素晴らしい内容だった。」

「あ、有難うございます。」

「戻るにはあの角を曲がらないといけない。宮廷は広いから出口まで案内しよう。」

「え?いいえ、あの·····」

「知識は国の宝だからね。エスコートさせてもらうよ。」


会話の間、声色は穏やかだが、アシェルは表情を一切変えず、腕に手を添えるように促す。

ここで断っては不敬になると思い、そっと手で触れる。

婚約者であるルークの時でさえドキドキしてしまうアウロラが、他の男性にエスコートされるなど、既に頭の中の許容範囲が越えてしまっている事は言うまでもない。

アウロラに気を遣ってか、ゆっくり歩いてくれているのだが沈黙が続く。


「·····論文の中のナナイロオオトカゲを領地から研究棟に連れてきていると聞いているのだが。」

「はい、ナナちゃんという名なのですが、とても甘えん坊で可愛いです。」


沈黙したままエスコートされるのも辛いと思っていたので、話を振って下さった事に感謝しながら応える。


「一度見てみたいものだ。」

「ぜ、是非!ミュラー教授に話を通して頂ければご案内致します。」

「そう、有難う。その時はお願いするよ。」


そう言ったアシェルの口元が少し柔らかく微笑んだ様に見えて、アウロラは嬉しくなった。


「それからホーヴェット男爵から聞いているかと思うが、新年の祝儀の際、ホーヴェット家は子爵に陞爵することが発表される。君の叔父が婿養子に入ったロッシュ家は男爵位を叙爵される。おめでとう。」

「そうなのですか?存じませんでした。有難うございます。」

「いや、ではこれで。」


気が付けば宮廷の出入口に着いていた。

アウロラは再度丁重にお礼を言い、アシェルと別れた。


後に、仮面のせいで人との接触を避けるアシェルが、何故あの時エスコートしようと思い、腕を差し出したか分からないと王太子に語っているが、それを聞いた王太子は、『それこそ運命だったんじゃない?』と答えたとか。



◇◇◇


アシェルと別れ、研究棟に戻って来たアウロラの元に、王都のホーヴェットの屋敷から至急帰ってくるようにとの伝言が入った。

アウロラはアシェルから聞いていた陞爵の件だと思い、途中お祝いの花束を買って屋敷に戻った。


「お帰りなさいませ、お嬢様。旦那様が居間でお待ちです。」

「出迎え有難う、オーソンさん。····少し顔が険しい気がするのだけどお祝いで呼ばれたのではないの?」

「私の口からはお伝えする事は出来ませんので、エイダン様より伺って下さい。」


そう言われると一気に不安になる。

居間で迎えてくれた父親のエイダンは、いつになく険しい表情だった。

珍しく一番上の兄のセオドアも帰って来ていて、やはり表情が暗かった。


「え?私を驚かせようとしています?子爵に陞爵する話しは聞きました。その事ですよね?」


もしかして家族の誰かが重い病気でも罹ったのだろうか?


なかなか話し出さない2人に、嫌な緊張を感じてしまう。


「アウロラ、落ち着いて聞いて欲しい。」

「はい·····。」



「ペータース子爵家から、ルークとアウロラの婚約を破棄させて欲しいという内容の書面が届いた。」

読んで下さり有難うございます。

またブックマークして下さっている皆様、何時も有難うございます。

これからいよいよ始まります。

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