25 そしてはじまる ①
「久しぶりだね、シャーロット、スフィア。王妃より王子妃教育と公務に励んでいると聞いているよ。」
「ご無事にご帰還されたこと何よりでございます、王太子殿下。アリーチェ王女殿下はご体調がすぐれないと伺っておりますが、大丈夫でしょうか?」
「あぁ、長旅が堪えた様でね。元々身体があまり強くないんだ。2、3日もすれば回復するだろう。心配してくれて有難う。」
「本日お呼び下さいましたのは、アリーチェ王女の侍女の件ですか?」
「あぁ、侍女は王妃に任せてあるんだが、今のところエリーサに声を掛けていると言ってたな。エリーサなら安心だと私も思うよ。それと退屈しない面白い話し相手はいないかと思ってね。王女はちょっと気の強い所があるから、上手く宥めてくれそうな娘がいれば、君たち2人に紹介してもらえたら助かるよ。それに、君たちも王子妃教育で忙しいとは思うけど、アリーチェ王女の事に目を配って欲しい。」
「承知しました。」
「それと王妃から聞いたけど、学園でサミュエルとディランが面倒臭いことになっているんだって?」
「ふふ、そんな言い方をされるのは王太子殿下だけですわ。しかし実のところ、ある女子生徒からとても良い対応策を提案頂いて、今のところ私達の立場は悪化せず、上手く対処していますわ。」
「女性が冷静になると強いからね。問題が手に余る様なら力になるよ。」
「王妃様にもそうおっしゃって頂いてますの。お二人からのお心遣い、心強いですわ。」
「兄上、こちらにおいででしたか?」
王宮にある温室の1つでお茶を飲んでいた王太子達の元へ、サミュエルとディランを含む7、8人の団体がこちらにやって来る。
シャーロットとスフィアは立ち上がり、サミュエルとディランに淑女の礼をする。
「やぁ、サミュエル、ディラン。どうしたんだい、そんな団体連れて。」
「はい、温室の花が見頃なので、学園の友人に見せようと思いまして。」
「そう、友人達と親しくするのも結構だが、日頃から王子妃教育と公務で頑張ってるシャーロットとスフィアを労うことを忘れてはいけないよ。
では賑やかになってきたことだし、私はこの辺りで失礼するよ。」
「「はい、殿下。」」
「あ、お待ち下さい、兄上。」
「ん?何かな?」
「アリーチェ王女の侍女をお探しだと聞きましたので、相応しい者を紹介しようと連れて来ました。」
「へぇ、そう。どちらの方かな?」
サミュエルとディランの後ろから、淡いピンクのドレスを着た女性が姿を見せる。
「王国の守護たる獅子、王太子殿下にルイーズ·オヴァフがご挨拶申し上げます。」
シャーロットとスフィアが一瞬眉をひそめる。
「へぇ、美しい令嬢だね。春が来たようだ。」
「はい、学園でも成績優秀で話題も豊富に提供出来るでしょう。」
「そう、そう言って希望する令嬢が数人他にもいてね。頭に入れておくよ。これから2つ程会議があるからこれで失礼するよ。」
「あの、発言を宜しいでしょうか?」
「·····何かな?」
「私は、殿下方からその様に評価して頂いてはおりますが、王女殿下に相応しいかどうかは分かりません。王女殿下にお会いする前に、一度王太子殿下とお茶をご一緒頂ければ、私の事は分かって頂けるかと。」
「私とお茶をする時間が欲しいと?」
「王太子殿下がお忙しいのは承知しておりますが、お時間を頂けたましたら光栄です。」
「ははは、そうだね。まずここで私から感想を言わせてもらうと、オヴァフ令嬢のその甘い香りは少しキツイかな。アリーチェ王女は身体が弱い所があるから、強い香りで気分が悪くなってしまうこともあるだろうからね。」
「甘い香り?ルイーズからは柔らかい香りしかしませんが?」
他の面々は訝しげな顔をする。
「確かに何時も甘さの強い香りをお付けになっておられますわね。学園でも度々感じます。」
「スフィア、何を言ってる!」
「いえ、ディラン殿下。私も王太子殿下とスフィア様がおっしゃった通り、強い甘い香りを感じますわ。」
「シャーロット·····。」
「人によって感じ方が変わるのかな。でも私としてはそういった感想だ。それにアリーチェ王女には、内々だが既にエリーサ·リュクトフ伯爵令嬢についてもらおうという話になっていてね。心配有難う。ではこれで失礼するよ。
シャーロット、スフィア。サミュエルとディランに労ってもらうといい。」
そう言って、王太子は温室から出て行った。
「ルイーズすまないな、折角出向いてもらったのに。」
「いえ。香りに関しては、強いものをつけている訳ではないのですが。」
「おい、スフィア。言い掛かりはよせ。」
「ディラン殿下、私の発言は王太子殿下のお言葉を受けてのものですし、私も偽りを申している訳ではありません。」
「そうですわ。非難なさるよりも、王太子殿下のご忠告を受け、ご自身が改善なさるべきだと思いますわ。」
「シャーロット、本当にそんなに強い香りがするのか?」
「はい、サミュエル殿下。私達こそ、殿下方が本当にこの香りを感じられないのが不思議な位ですわ。」
「そうか·····。」
「それに王太子殿下が先ほどおっしゃられた様に、アリーチェ王女にエリーサ様がつかれるのは、王妃様のご意向であると伺っております。この件は王妃様にご確認された方が宜しいかと。
では、今日殿下方は私達とお時間を共になさるお気持ちではないようですので、こちらで失礼させて頂きますわ。」
「あ、ああ。」
◇◇◇
「エリーサ!!もうお前には我慢ならない!
あれ程言っているのに、未だにルイーズの邪魔をするとは!婚約破棄するから、大人しく領地にでも戻って反省しろ!」
「邪魔とは何のことをおっしゃっていますの?」
「アリーチェ王女殿下の侍女の件だ。サミュエル殿下方からルイーズが推薦されるのを見越して、先に王妃陛下に売り込むなど姑息なことを。お前の様な性悪女が王女のお相手など務まる筈がない。即刻辞退しろ!」
「私は王妃陛下に直接お声掛け頂いております。王妃陛下のご判断に不服を申されるのですか?」
「王妃様はお前の性根をご存知ないからだ。忠臣として奏上するのは当然の事だ。」
「·····どうしてそこまで私を。·····宜しいですわ。以前申しました通り、再び私を貶める発言をなさった際は、今までの事をリュクトフ家としてマーフィー伯爵に進言させて頂きますわ。」
「ああ、勝手にすればいいだろう!」
「分かりました。では失礼します。」
◇◇◇
「エマ、今、マイケル·マーフィー伯爵令息とエリーサリュクトフ伯爵令嬢が婚約を破棄したと言いましたか?」
「はい、王妃陛下。先ほど王宮へ両家から届け出があったとの事でございます。」
「王家としても両家の婚約は望ましいものであったというのに。あのエリーサを手放すとは。シャーロットとスフィアから2人の仲について話は聞いていたものの·····。愚かなこと。それまでの経緯も報告されているのかしら?」
「はい、こちらに。」
侍女のエマが王妃に報告書を手渡す。
「マイケル·マーフィー伯爵令息の一方的な思い込みによる、公の場での度重なる誹謗中傷·····何てことを、バカバカしい。」
「それからもう一件、学園から報告が上がっております。」
「はぁ·····何かしら?」
「昨日、学園の鍛錬場で男子生徒3名が真剣にて決闘を行い、内1名が重傷を負いました。」
「学園で真剣?」
「はい、学園長の話によりますと、ある1人の女子生徒を巡って、現在騎士見習いとして騎士団に所属している3名が誰が専属騎士になるか揉めたそうで、決闘を行うに至ったとの事でございます。」
「専属騎士?どこの高位貴族の令嬢のかしら?」
「それが·····ルイーズ·オヴァフ男爵令嬢のだそうです。」
「男爵家の?3名は平民なの?」
「いえ、2名は子爵家、1名は伯爵家だそうです。」
「まさか、ルイーズ·オヴァフが王子妃になるとでも噂されているのかしら?」
「3名の男子生徒の勝手な思い込みの様ですが。」
「サミュエルとディランにも学園での状況を聞かねばならない様ね。この事を陛下は?」
「はい、ご存知です。それから陛下より、王妃陛下のご都合がつき次第、陛下の執務室へおいで下さる様にとご伝言承っております。」
「分かりました。今から伺うとお伝えして。」
「承知しました。」
「どうやら嫌な予感が当たった様ね。」
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