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24 王妃の密談

少し残酷な描写があります。

ご注意下さい。


「無事で何よりです、王太子。」


昨日、帰還の挨拶を終えた王太子を王妃クロエは自身の宮殿に呼び寄せていた。


「それでラトゥナのアリーチェ王女の具合はどうなのです?」


ラトゥナ王国のアリーチェ王女は王太子の婚約者として昨日到着し、両陛下に謁見した際、体調不良という事で出迎えの式典も早々に切り上げ、王太子妃に与えられる宮殿へ引きこもっていた。


「アリーチェ王女は長旅とテンセイバに乗りたいと言っていたものの、あの馬の覇気にあてられてしまった様で、2、3日もすれば回復するでしょう。」

「お騒がせな王女だこと。先が思いやられるわ。」


王妃クロエはこめかみを押さえ頭を抱える。


「上手くその性格を利用するしかないでしょう。」

「それで例のあの話は陛下も了承したというのは本当なのね?」

「ええ、ラトゥナ王国で長年強いたげられていた王女は、専属護衛騎士と恋に堕ち、逃亡しようとした所、我が国が保護。その騎士と共に生きる為に私と婚姻し、子供も必ず1人産むが、その後は離宮に騎士と共に住むことを許可して欲しい。子供が産まれる事でラトゥナとの繋がりを図ると共に、王女がラトゥナ王国で所有する資産を全てこちらに譲渡する事。また機密情報も全て提示する、ですね。まるで国を顧みない内容を淡々と話す様に驚きを通り越して呆れましたね、さすがに。」

「そもそもラトゥナが縁談を打診してくる所からおかしいわ。亡き女王が子供に恵まれなかったから、妹の子であるアリーチェを養女にして王位に就かせるはずだったのでしょう?その直系の血をひく子を他国に嫁がせる決断をなぜしたのかしら?」

「女王亡き後、アリーチェ王女が王位を継ぐまで王代理となった王配が皇妃を娶ったのが間違いなのでしょう。皇妃は自身の子を王位に就かせたいだけで、王家の血の濃さなど考えていない様です。」

「ラトゥナ側はアリーチェ王女の交渉内容を知らないのね?」

「ええ、王女を体調不良として滞在期間を伸ばし、アリーチェ王女の資産の委譲の手続きと、こちらとして不都合な事は全て隠蔽しましたからね。王女の持つ資産に鉱山が数ヶ所あったのは大きいですね。」

「王太子、あなたが国を背負っていなければ、こんな婚約、とても容認出来るものではないわ。で、その騎士は今何処に?」

「こちらのラトゥナとの国境の屋敷で保護しています。」

「暗殺されても困りますし、王女に近づけて子供を作られても困りますからね。まぁ、よく分かったわ。その辺りは私も目を光らせておきましょう。」

「有難うございます。」

「側妃も選定しなければならないわね。後ろ楯はグルーバー公爵家があるとして、せめて側妃はあなたが心を許せる者を選びなさい。要らぬ野心を持たぬ者に限りますが。」

「そうですね。これからゆっくり探します。」

「1人良さそうな娘がいたのだけど、どちらかというとアシェル·セラ·グルーバーの方に薦めたい娘だわ。」

「アシェルにですか?へぇ·····。」

「まぁ、既に婚約者がいるようだけど。そうだわ、今日はアシェルも呼んでいるの。エマ、アシェルは来ているかしら?」

「はい陛下、隣の部屋でお待ち頂いております。」

「そう、では呼んでくれる?今日はアリーチェ王女の事だけであなたを呼んだ訳ではないのよ。今から2人に見せたいものがあるからついてきなさい。」

「承知しました。」


◇◇◇


「アシェルも戻って来たばかりで申し訳ないけれど、今から少し付き合ってもらいますからね。」

「承知しました。」


隣の部屋で待っていたのは、王太子と同じ歳で側近のアシェル·セラ·グルーバー公爵令息だ。

近々父親より公爵の爵位を継ぐ事になっている。

高身長で色白、艶やかな黒髪、王子達と同じく紫水晶の瞳を持ち、且つ『生ける彫刻』と呼ばれる程の整った顔立ちだ。

ただ顔右半分は半仮面(ハーフマスク)で覆われている。

それは12歳の頃、王太子が暗殺者から毒をかけられる事件が起こった時。

その際側にいたアシェルが王太子を守るため盾となり、代わりに毒をかぶったのである。

毒はアシェルの右頬辺りと右手にかかり、そのまま意識不明となり生死を彷徨うことになった。

無事意識を取り戻し、何とか右目の失明は免れたものの、毒がかけられた皮膚はただれ、紫色に変色。

そのまま痣の様になった為、それを隠す仮面と手袋を使うようになった。

そんなアシェルは、王太子を守ったという功績がなくても文武共に優秀な為、王太子の補佐官を務めている。

因みに王太子と従兄弟関係にあり、紫水晶の瞳を持って産まれたアシェルは、彼の父に次ぐ、王位継承権5位である。



王妃クロエが2人を連れてきたのは、王宮の最奥、王家の人間だけが立ち入ることを許される『王家の間』と呼ばれる一室だった。

ここには王族の肖像画と共にその人間の記録も保管されている。

その部屋の奥に『開かずの間』と呼ばれている部屋がある。

実際に開かないのではなく、寧ろ王位を継承する際、王とその王妃、もしくは王配が入り、そこに保管されている資料を必ず閲覧する事が義務付けられている。

その扉の前に3人は立つ。

扉には『アスラン王の御代に起こりし悲劇をここに封印す。この悲劇を決して忘れてはならない』という文字が彫られている。

王妃は躊躇いなく扉の鍵を開け、中に2人を招き入れる。


王妃が扉の近くにある紐を引くと、天井付近のカーテンが開き、外光が部屋に差し込む。

王妃は幾つかそういう紐を引き部屋を明るくしていった。

部屋自体はさほど広くない。

資料が置かれた本棚が並ぶ中、部屋の一番奥にそれぞれ白い布と黒い布が掛けられた画が壁に飾られていた。


「200年程前のアスラン王の時代に起こった悲劇は知っているわね?」

「ええ、アスラン王の子供8人の内7人が1人の妃を巡り殺し合いをして亡くなったと。にわかに信じられない内容ですがね。女の為に血を分けた7人もの兄弟が殺し合うなど。」

「ですが事実です。その為、王位を継承する者は過ちを繰り返さぬよう、ここで始祖セラ·ローヴェルに宣誓するのです。ですがそういった誓いをするのは、王や王妃だけでは駄目だと思っています。少なくとも王位継承権を持つ者は。そう先日強く思ったのです。」

「何かあったのですか?」

「何かあったというより、起こりそうな予感がしたのです。取り敢えずこれをご覧なさい。」


王妃は黒い布が掛けられている肖像画に手を伸ばしその布を取る。

そこには『ジネヴラ妃』と書かれた美しい女性の画が現れた。


「彼女が『ジネヴラ妃』ですか。なるほど確かに美しい。ですが、7人の王子が籠絡されるとは····。」

「この肖像画は我々が『ジネヴラ妃』を忘れない為に残されたと言われているわ。」

「記録では『ジネヴラ妃』は処刑されたと明確に書かれていないのは何故ですか?」

「処刑されていないからです。」

「7人もの王子が彼女に狂ったのにお咎めなしですか?」

「処刑しようとしたが脱走したと記録されているわ。監視の騎士数人を誘惑し、彼等の協力の下脱獄。当然追手の騎士が差し向けられ、ジネヴラ妃と共に逃げていた騎士達が1人、また1人と捕まる中、彼女だけは最後まで捕まることなく国外へ逃げたとされているわ。」

「生き延びたと?」

「死体も生きた姿も確認出来ていないから、行方不明が正解だわ。」

「身のまわりの者を籠絡し、助けを得て生き延びたと·····何か特別な能力でもあるのでしょうか?」

「分からないわ。薬か何か·····。まぁいいわ。私がこれをあなた達に見せたのは、この『ジネヴラ妃』とそっくりの女を見たからよ。」

「へぇ···どちらで?」

「学園で。それもシャーロットとスフィアの話だとサミュエル、ディラン他数名が彼女に夢中だそうよ。ディランが優秀な生徒として私に紹介してきたけれど、専門は200年前の歴史についてだとか。200年前···セオドア王の悲劇の時代に詳しいなんて、気味が悪いわ。」

「そんなに似ているんですか?」

「ええ、今日こうしてあらためてこの肖像画を見ると、本当に鳥肌が立つ程そっくりだわ。私が懸念するのは、もしかしたら彼女はジネヴラの子孫で、同じような能力を持っているのではないかということ。ただ今の段階では事が起きない限り、追放は難しいわね。」

「その『ジネヴラ妃』そっくりの女性は何という名なのですか?」


「ルイーズ·オヴァフ男爵令嬢よ。」

読んで下さり有難うございます。

ブックマークをして下さっている皆様、何時も有難うございます。

ようやく、次話から話が動き出します。

宜しくお願いします。

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